一般に抗精神病薬の切り替えの際、急激に変更せず2つの薬を一時併用しそれぞれ漸増、漸減で行う。例えばセレネースをリスパダールに切り替える時、換算表を参照し、突然、
セレネース4㎎>>リスパダール2㎎
といった風には行わない。もしセレネースを4㎎服薬していて、将来的にリスパダールに切り替えるとすれば、最初併用で開始し徐々に行う。どの程度の量から、どのくらいの時間をかけて行うかはおそらくマニュアル化されておらず、全体の量やその患者さんの忍容性などを考慮して精神科医の判断で行うことがほとんどである。
例セレネース4㎎からリスパダール2㎎
最初の2週間
セレネース 4㎎
リスパダール0.5㎎または1㎎
次の2週間
セレネース3㎎
リスパダール0.5㎎または1㎎
次の2週間
セレネース2㎎
リスパダール1㎎
次の2週間
セレネース1㎎
リスパダール1.5㎎
次の2週間
リスパダール2㎎
セレネースとリスパダールは似た抗精神病薬なので、上のようにスピーディな変更でも問題が起こりにくい印象である。上では当初、抗精神病薬の総量が増えるが、そうせず、いきなりセレネース3㎎+リスパダール0.5㎎で始めても問題がないことの方が多い。
いかなる変更でも最終的に換算表通りにしないこともある。上の例だと、リスパダール1.5㎎など。これも変更時の手ごたえとか、主治医の感覚で判断する。
あまり似ていない抗精神病薬の変更では、より慎重に変更の期間を見積もり、徐々に進める。例えばジプレキサからエビリファイへの変更などである。このペアは始める前から、いかにも失敗しそうである。
リスパダールからエビリファイも徐々に変更したとしてもかなりリスキーである。リスパダールからエビリファイの変更は、漸増、漸減だとかえって失敗に終わることがある。
このような変更を数多く行っていると、抗精神病薬には相性があり、比較的簡単に変更できるペアと、自然に失敗に終わりやすいペアがあることに気づく。
最も問題なのは、失敗しやすいペアで実際にうまくいかないケースでは、その新しい薬が合っているかどうか判断を見誤ることだと思われる。
また、このような変更の際にさまざまな事件が起こり、それが十分に薬理特性に裏打ちされ理解できるものと、説明がつかず記憶に残りにくいものがある。例えば、
リスパダールからエビリファイに変更中、まだ十分にリスパダールが投与されており、エビリファイが僅かなのに高プロラクチン血症が改善する(十分に理解できる)。
ジプレキサをロナセンの少量を追加しただけで、体重が減少する。(理解できる)。
また、併用した際に以前に比べ精神症状が良くなっているように見えることがある。これは特に定型抗精神病薬から非定型抗精神病薬に変更する際に起こるが、このペアだと主に非定型抗精神病薬の薬効がそのまま見えることの方が多い。また、一部は定型抗精神病薬を減量しているために生じていることもある。
たまにこの患者さんはこのペアの併用の方がむしろ良いのではないかと思う時もある。実際、カプランにも以下のような記載がある。
興味深いことに、2つの薬剤を服用しているオーバーラップ期間に臨床症状がめきめき改善し、以後、新しい薬剤による単剤療法になると悪化する患者がいる。しかし2種類のSDAを組み合わせたり、SDAとドパミン受容体拮抗薬を組み合わせる治療戦略の効果と安全性についてはほとんどわかっていない。
日本で行われる抗精神病薬の併用のパターンは2種類あり、1つ目は、
ある1剤を上限かそれに近い量を投与し幻覚妄想が収まらないなど臨床症状が安定しないため、仕方なく1剤を追加する。
もう1つは、
ある1剤は有効だが、副作用など忍容性の関係から上限まで投与できず、やむなく他の1剤で補っているもの。このケースはいずれも多い量は投与されてないので変な処方に見えるが、それらの薬剤特性から、なぜそのようになったかプロの精神科医ならわかることの方が多い。
現在、外来では抗精神病薬2剤制限があり、既に2剤投与されている人は3剤目が投与できず、漸減、漸増で切り替えができないのでは?と思うかもしれない。実際は、変更中とレセプトに明記すれば3剤目を投与できる。(期間、回数の制限がある)
自分の場合、入院中の重い患者さんはともかく、外来患者さんでは抗精神病薬1剤の人が多く、上の補助的な処方で少量の2剤目が加わることがある程度である。3剤目が投与できないために困ったことは1度もない。
そのようなことから、外来での抗精神病薬2剤制限は概ね合理的なルールだと思う。