2019年11月末頃、武田薬品からトリンテリックスという新しい抗うつ剤が発売される予定である。トリンテリクッスの薬物名はボルチオキセチンと呼ばれる。
ボルチオキセチンはヨーロッパではブリンテリックスの商品名で販売されているが、アメリカで名前が似ている薬があるらしくトリンテリックスの商品名となった。日本での商品名もアメリカと同じである。
トリンテリックスは世界では2013年から販売されおり、既に約80か国、1900万人以上の人たちに処方されている。
トリンテリックスはデンマークのルンドベック社により創薬されている。ルンドベック社は第二次世界大戦以前の1915年に設立され、特に向精神薬の創薬が得意な製薬会社である。創業当初は人工甘味料やアルミ箔、撮影装置を製造していたらしい。
ルンドベック社が創薬ないし特許買収し販売した主な向精神薬
セレクサ(シタロプラム)
レクサプロ(エスシタロプラム)
メマリー(メマンチン)
モディオダール(モダフィニル)
ノリトレン
トリプタノール
マイスタン(クロバザム)
フルペンチキソール(抗精神病薬)
セリンクロ(ナルメフェン)
セルチンドール(非定型抗精神病薬)
今回のトリンテリックスの最初の「トリ」だが、うつの症状には大きく分けて3つのカテゴリの症状があり、それらのいずれも改善するという意味が込められている。
○感情
抑うつ気分
興味、喜びの喪失
不安
悲哀感
イライラ感
精神運動焦燥・制止
○認知
自殺念慮
不適切な罪責感
思考力減退
集中力の減退
注意力の低下
決断困難
○身体
気力の減退
不眠・過眠
食欲・体重変化
性的興味の減退
身体の痛み
疲労感・易疲労感
トリンテリックスは複雑な作用機序を持つが、簡単に言えばSSRIに加えリフレックスに似た特性を持ち合わせ、忍容性の低い人たちにも比較的に服薬しやすくした抗うつ剤と言ったところだと思う。治験では従来の新しいタイプの抗うつ剤に比べ脱落率が低かったと言われる(継続率70%)。
SSRI的な再取り込み阻害作用に加え特定のセロトニン受容体に対しアゴニストないしアンタゴニスト的に作用するためセロトニン受容体調整薬などと呼ばれる。(詳細は複雑なので省略)
これらの作用機序により、セロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミン、アセチルコリン、ヒスタミンのレベルを増加させ、GABAを減少させ、特定の脳領域でグルタミン酸を増加させるという。
作用機序にはSSRI的な部分を持つこともあり、副作用に悪心、嘔吐がある。またリフレックス的な作用を持つため肥満の副作用が6%前後みられるらしい(主な副作用は、悪心、傾眠、頭痛)。
日本での適応は、うつ病、うつ状態に限られている。たいていの国ではこれ以外の精神疾患にはほとんど使われていないが、うつ病における不安障害にも有効という意見がある。
日本での剤型は10㎎と20㎎錠。いずれも円形で割線がある。10㎎錠が黄色で、20㎎錠が橙色である。海外では5㎎錠もあり不安障害的な症状に処方されるのかもしれない。海外ではなんと液剤も販売されている。
国内の治験では10㎎で良い人たちも結構いたようである。10㎎ではレセプターの占有率が60%と理論的には不足するはずだが、臨床的にはこの量で充分な人も比較的いるといったところであろう。
この薬はそこまで新しい作用機序ではないと思うが、忍容性の低い人たちにも比較的服薬しやすいと言う話なので、そこは期待できると思う。