今回はジプレキサ（オランザピン）とセロクエル（クエチアピン）の併用処方の話。
ジプレキサ、セロクエル、シクレスト、クロザリルの4剤はMARTAとも呼ばれ様々なレセプターに関与する非定型抗精神病薬である。これらの日本での処方箋数の多さは、順にセロクエル＞ジプレキサ＞シクレスト＞クロザリルくらいだと思う。この順位ではジェネリックの処方箋数は先発品に含めている。
近年、ジプレキサとセロクエルは併用されるケースが増加していると思う。ジプレキサとセロクエルが発売された当初は、同じMARTA系なので併用するとレセプトで査定する精神科医もいたほどである。今となっては考えられない話である。これは当時、この新薬が十分に理解されていなかったことや薬価が高かったこともあると思う。
ジプレキサとセロクエルはそこまで似ていないMARTA系薬物である。おそらく読者の方でこの併用処方の人もいると思うので、どのような時そうなるのか紹介したい。
〇セロクエルが眠剤の補助として使われている。
例えばジプレキサ10㎎＋セロクエル50㎎など。現在、眠剤は2剤制限があり、非ベンゾジアゼピン系眠剤であったとしても、2剤までしか処方できない。なぜここで非ベンゾジアゼピン系眠剤と記載したかと言えば、デエビゴは2剤制限に入らないと思う人もいるからである。2種類眠剤を処方しても不眠の訴えがある際にクエチアピンが併用されるケースがある。クエチアピンの用量は不眠の補助の場合、極端に多い量にはならない。実際、12.5㎎程度で治療的な人もいる。眠剤補助のケースでは抗精神病作用をさほど期待されていないので、ジプレキサが主剤であればセロクエル300㎎などの併用は極めて少ない。なお、双極性障害では、セロクエルではなくビプレッソが選択されることもある。
ジプレキサ＋セロクエル併用の人は内因性精神病の人が多い。つまり、できれば眠剤に抗うつ剤が入らない方が良いので、眠剤補助のケースではレスリン（トラゾドン）が選択されるケースが少なくなる。
ジプレキサは体重増加を生じやすいが、ここで更にセロクエルが多少増えたとしても増加率は大差ないと思われる。
〇ジプレキサ単剤だと忍容性的に用量が上げられず、セロクエルの併用で作用増強されている。
例えばジプレキサ7.5㎎＋セロクエル300㎎など。ジプレキサは増量するとEPSが酷くなるなど増量が難しい人がいる。身体的には肝障害もそうである。このようなケースでは、リスパダール（リスペリドン）、シクレスト、ロナセンなどもEPSを悪化させるため、セロクエルくらいしか併用できない人もいる。エビリファイ（アリピプラゾール）も併用できそうだが、合う合わないがあるし、忍容性が低い人はエビリファイでさえアカシジアが出やすい。
このような併用はたいていの場合、そこまで力を発揮しないことが多い。その理由はセロクエルは幻覚妄想に対し作用がそこまで強くないからである。除外的にこれしかなかったと言う処方だと思う。このようなケースでは、クロザリルも一考だと思われる。ただし、クロザリルは単剤処方が原則なのでセロクエル併用はない。
〇忍容性には問題ないが、ジプレキサの最高量でも効かない人。
このケースでは、ジプレキサ20㎎＋セロクエル750㎎もありうる。しかし僕は見たことがない。ここでセロクエルが選択されるのは鎮静作用を期待されているからだと思う。幻覚妄想の改善を目的でセロクエルを選択されているとしたら、他の非定型抗精神病薬だと病状を悪化させたり、副作用的に併用できないためだと思う。セロクエルを抗幻覚妄想で使うなら、大量処方が必要になる。
〇統合失調症や双極性障害以外で偶然ジプレキサ＋セロクエル併用になったケース
これは眠剤の補助を含まない。統合失調症でない人たちでは場合、症状をまとまめるために併用の方が良い人がいる。極端に増量できないことが多い。ただし真に合っていないことが多く体重増加は必至である。ジプレキサでさえフィットすればさほど体重が増加しないか激減も経験する。ジプレキサ＋セロクエル併用の人はエビリファイ、ロナセン、レキサルティなどの体重増加がさほどない薬が合わなかった人が多い。
〇リエゾン的な少量併用
長くなったので、この項目は次回の記事でアップする予定。
以上、ジプレキサ＋セロクエルが併用されるケースを挙げたが、違うパターンもひょっとしたらあるかもしれないと思う。