双極性障害のうつ状態の薬物治療は、未だ十分なコンセンサスがないと記載している。以下は過去ログ。
上の記事の要旨は、
日本での双極性障害に対する抗うつ剤の評価だが、積極的に推奨はしないが、かといって非推奨でもないと言った感じだと思われる。このような曖昧な推奨になるのは、双極性障害のうつ状態治療に海外ではジプレキサ+プロザック(SSRI)の合剤が推奨の高いレベルに入っていることも大いにありそうである。
注意したいのは、抗うつ剤のために複雑なラピッドサイクラーになる人であろう。このような人たちは、抗うつ剤を避けてブレを少なくすることが必要だと思われる。
今回の記事は精神疾患の本質と薬物治療について補足したものである。
うつ状態の治療中に次第に季節性の変化が出現したり、あるいは、緩やかなバイオリズムが顕れることがある。普通、双極性障害はうつ状態で発症し精神科に初診することが多い。
従って、このタイプのバイオリズムが顕れると、主治医は「この人は双極性障害か、その要素がある」と考えやすい。よりドラスティックな変化、例えばラピッドサイクラーであれば、抗うつ剤の影響も十分にあると注意する。
典型的な変化ではないもの、例えば情緒不安定などは、もう1段階上の抗うつ剤の影響を考慮する。(自分の場合)。
抗うつ剤の中で効果が弱いとされているもの例えばレスリン(トラゾドン)は、双極性障害に処方してもたいして元の精神症状を乱さないように見える。少量のリフレックス(ミルタザピン)などもそうである。
これは、おそらく抗うつ剤と言えないほど効果が弱いために、双極性障害の症状を乱すことができないからと思う。
双極性障害の躁うつをより悪化させるためには、おそらくノルアドレナリン及びドパミンを高めることが重要で、セロトニンはそこまで有害ではないのかもしれない。実際、双極性障害に抗うつ剤も使う医師はセロトニン優位に高めるSSRIの方がまだ使いやすいと考えていることが多い。
そういう風に考えると、ジプレキサ+プロザック(SSRI)がアメリカで推奨度が高いことがわりあい理解できる。これはこの2剤の欠点を補う組み合わせになっているからである。
基本的に、うつ病、うつ状態を抗うつ剤で治療中に双極性障害を思わせる局面に遭遇した時、もしかしたら抗うつ剤が有害なのかも?と意識することが重要なのだろう。
もし抗うつ剤を中止した際に、気分安定化薬や非定型抗精神病薬だけでは生活が成り立たないほど悪化したとしたら、やはりこの患者さんは抗うつ剤は必要なのだろうと理解する。
それは精神科医らしい対症療法だと思う。そもそも双極性障害に対し抗うつ剤は禁忌ではない。
一方、双極性障害に対し頑なに抗うつ剤を処方しない精神科医(そんな人いるの?というレベルだが)は、疾患の多様性、スペクトラムを考慮していない点で、治療が下手だと思う。
今回の後半は「コンサータ中止の話」の続きである。コンサータと双極性障害の関係。
双極性障害は内因性精神病であるが、双極Ⅱ型はそうとも言えない疾患群が紛れている。過去ログではこれら双極Ⅱ型は、発達障害の人たちの精神症状がそられしく振舞っているといった記事もある。特に双極Ⅱ型はASDよりもADHDの方が親和性が高いように思われる。ただし、発達障害は少なからずハイブリッドになっているため、どちらも含まれていたとしても、例外とまでは言えない。
ある時、年配の双極性障害障害の女性患者さんを治療していた。彼女はうつ状態の悪化時には入院をせざるを得ないほどになるが、躁状態では入院までは至らない、わりあい長めのラピッドサイクラーだと思った(←意味不明)。彼女は約2年間、入退院を繰り返したがほとんど入院しっぱなしに近かった。退院しても2週間も持たないからである。
研修医時代、外来で教授の診察の陪席をしていた際、インテリのイタリア人女性が初診した。彼女は早口で良くしゃべり、むしろ興奮していた。今から考えると、焦燥感からあんな風だったのかもしれない。
診察を終えて、教授は彼女はうつ病と診断した。外国人はうつ病でもしばしばあのような病態なんだと言う。まだ精神科医になったばかりの僕は、どこがうつなのかよく理解できなかった。
その2年間入退院を繰り返していた女性の精神症状は、あの日のイタリア人女性に似ていた。
彼女は、単に抗うつ剤とか気分安定化薬の併用ではその状態から脱出できないのである。もちろん気分安定化薬単剤でもできない。
彼女の今までの生活歴を見ると、人生がADHDそのものであった。そう思う理由は、発病の前から良く知っていたからである。彼女には内因性疾患の同胞がおり、その主治医が僕だった。若い頃から、彼女はずっと面会の際に話をしていた関係である。
過去ログで、すぐに時計を紛失してしまう話が出て来る。
この記事のポイントは感覚過敏が時計の紛失に関係していると言ったものである。
この記事を読んでいると、腕時計を頻繁に紛失するADHDの患者さんのことを思い出した。その人は不注意だけで紛失するわけではなく、紛失の原因がちょっと違う。腕時計を身につけていることがストレスになるので、ゆっくりとしたい場面、例えばレストランやカラオケに行った時にすぐに腕時計をはずしてしまうのである。そして忘れてしまう。腕時計は外出した時に外さなければそうそう紛失するものではない。紛失する理由は、不注意より感覚過敏による部分が大きいのである。
上の記事は彼女の生活歴からインスパイアされたものである。
そこで、思い切って彼女にストラテラから開始してみた。ところが、ストラテラは無理だったのである。そこで、もう少し踏み込みコンサータを処方してみた。ADHD適正流通管理が始まるずっと以前の話である。
彼女はたったコンサータ18㎎で2年間の病状不安定から脱出したのである。既に脱出して2年以上経つが、今も安定しており、用量も18㎎のままである。(たまに1~2か月くらい休薬する。仕事が忙しい時など)。
彼女の夫は広く事業をしており、現在、その経理などを切り盛りしており、今の状態はあの2年間からは想像もつかない。
また重要な点は、彼女は今もリーマスとサインバルタを服薬し続けていることである。サインバルタは30㎎なので高用量ではないが、少なくとも彼女の場合、サインバルタが病状に悪影響を及ぼしているようには見えない。考え方にもよるが、彼女は狭義の双極性障害ではないから問題が起こりにくいと診ることもできると思う。
結論的なものを言えば、双極性障害(のような病態)と抗うつ剤はどの程度良くないかは、単純なものではない。その患者さんの疾患の本質、つまり真の内因性疾患なのか、あるいはADHDのような器質性疾患なのかの精査は治療パフォーマンスに影響するといったところだと思う。