リエゾンや内科からの紹介で高齢者の診察をする際に、糖尿病が合併していて、セロクエル(クエチアピン)とジプレキサ(オランザピン)が使えないことはよくある。このような際に、鎮静目的で選択肢に挙がる薬物は、
デパケン(バルプロ酸Na)
メマリー(メマンチン)
コントミン(クロルプロマジン)
エビリファイ(アリピプラゾール)
リスパダール(リスペリドン)
一般的な眠剤
くらいである。上の中ではリスパダール液がわりあい使われているが、紹介された時に既に処方されていることもあるし、高齢者にはやや重い薬だと思う。
実践的なのは、デパケンないしバルプロ酸シロップだと思われる。これは内科で処方されにくい薬物で、EPSがほぼ出ないのが良い。リスパダールなど抗精神病薬の欠点は次第にEPSが顕在化し、誤嚥性肺炎で亡くなる経過がありうることである。
メマリーは鎮静的な薬物だが不穏が強い人にはあまり効果がない。以下の記事を参照。
過去ログにはセロクエルはコントミンの副作用を究極に少なくした薬と言った紹介をしている。セロクエルはパーキンソン症候群やレビー小体型認知症にすら、さほどEPSを悪化させずに投与できる点で偉大である。しかしこの記事では糖尿病合併の人を対象にしてるためセロクエルは評価しない。
高齢者で、これは躁状態ではないか?と思うほどの興奮状態を呈する人にコントミンは有用である。そのくらいだと、副作用的にも比較的バランスが取れることが多い。リスパダールとの相違は、短期的なEPSの差である。躁状態かと思うほどの人に対しリスパダール液で鎮静しようとするとある程度の用量が必要だし、たちまちオーバードーズと思える身体状態になる。大抵の人はコントミンの方が処方しやすい。
何らかの理由でコントミンが処方できない人は代替的にはエビリファイの高用量が選択肢に挙がる。リエゾンや内科医からの紹介患者は、糖尿病に加え、著しい肝障害などがあり、バルプロ酸Naもコントミンも処方できそうにない人がいる。
また、全身状態が悪すぎると、感覚的にはコントミンは使いにくい。これは定型抗精神病薬だからだと思う。
それに対し、エビリファイは非定型抗精神病薬なので、まだ使いやすいところはある。ただし、エビリファイを躁状態ではないか?と思うほどの人に少量だけ処方すると、かえって賦活し内科病棟が大変な事態になりかねない。これは注意すべき点である。
エビリファイはできれば12㎎程度以上から開始したい。エビリファイは躁状態では24㎎くらいから開始できるので、高齢者を配慮してこの程度の量が適切だと思う。最初から高用量のエビリファイを使わざるを得ない高齢者は、相当に選択肢が狭まっている状況である。
ある時、上のような身体状況でエビリファイ12㎎を処方してみた。まさにこれしかなかったからである。なお、向精神薬の併用薬は既に処方されていたベルソムラだけである。
2週間後、再診したところ、嘘みたいに不穏が消失しまさに別人になっていた。ほぼ寝たきりだったのに、フロアに出て新聞を読んでおられたのである。
ここで精神科医が注意するのはいったい何日目から改善したのか?ということ。今は電子カルテで看護記録を経時的に見ることとができる。調べてみると、ちょうど1週間目に効果が出始め夜間の不穏がなくなり、看護記録の量が激減していたのである。2週間目に再診なので落ち着いてから約1週間が経過している。
今回は、このエビリファイとコントミンの長期的な効き方の相違について。
高齢者へのコントミンは少量(25㎎以下)で効いていたとしても、時間が経つにつれて相対的に薬が勝つ経過になりやすい。例えばめっきり喋らなくなったとか、以前より体の動きが緩慢になり、入浴時に介助が増えるなどである。このような経過になると、いったんコントミンは中止する。この際、既に薬物性パーキンソニズムが出ているわけで、少量であれば安全に中止できる上に興奮の再燃もない。
その後、数週間~数か月後に次第に元気が出てきて、再び不穏、興奮が惹起する流れになる。人によれば前回のエピソードが症状性であり、そのまま中止できる人もいる。興奮状態の程度の程度によるがコントミンを再開し、同じようになったらまた中止するという経過になる。
これは忙しすぎると思うかもしれないが、高齢者は病状の推移がゆっくりしており、鎮静が過ぎる状況でコントミンを中止、再び不穏が出るまで半年かかったりするので、そこまで頻繁な処方変更にならない。このような流れになる人はコントミンによるEPSが出ているわけで、できればコントミン以外が良いが選択肢が限られる患者さんなのでやむを得ない。
実は、糖尿病を合併していても良好なコントロールの人は、コントミンとセロクエルが同じ程度効くなら、長期的にセロクエルの方が安全度が高いことは間違いない。ルール的に使えないだけである。したがって内科包括病棟に入院中であれば、主治医に事情を説明しセロクエルを処方する方針も良いと思われる。ただ、この方針だと退院後が困るので、入院中に決着をつけないといけない。このようなことから、過去ログではジプレキサとセロクエルは糖尿病に原則禁忌に規制を緩めてほしいといった記事がある。
コントミンに比べ、エビリファイは長期的なEPSの出現の経過が異なる。コントミンは時間的推移でEPSがじわり出て来る経過になるが、エビリファイはそのようにはならない。
注意してほしいのはコントミンは次第に体に溜まっていると言う状況とは異なること。高齢者ではコントミンのようにEPSを軽減するメカニズムを持たない薬は、時間とともに、EPSが顕在化するのである。D2レセプターの問題である。
エビリファイは高齢者でも12㎎程度で副作用なくいったん落ち着けば、長期間処方し続けることで、EPSがより顕在化し、体の動きが遅くなり、例えば嚥下障害が出現することは稀である。ここがこの2剤の大きな相違だと思う。
従って絶対値的には、エビリファイの方がコントミンより安全性が高い。
中期的には初期にエビリファイ12㎎で落ち着く人はしばらくして6㎎まで減量も良いと思われる。3㎎以下への減薬であれば、むしろいった中止するくらいが実践的だと思う。