タケプロンは武田薬品工業が開発したPPI( Proton pump inhibitor)である。現在はPPIはタケプロン以外も色々な薬が発売されている。主な適応は逆流性食道炎、消化性潰瘍などである。過去ログにもあるが、ピロリ菌の除菌に対しても処方される。タケプロンは現在、ジェネリックのランソプラゾールの方が多く処方されているので以下はランソプラゾールで記載する。
精神科でよくランソプラゾールが併用されているのは、精神疾患を持つ人がストレスから消化性潰瘍を起こしやすいのもあるのかもしれない。また、精神科患者さんに逆流性食道炎を併発している人を診るが、食事も含む日常生活リズムの乱れも関係していると思う。そのような経過でランソプラゾールを併用処方されるのであろう。
僕がまだずっと若い頃、1年だけ刑務所に勤めていた。当時、医局長の外科医は、「長期に胃酸を減らす薬を飲み続けて良いはずはない」と言っていたが、日常臨床で「確かにその通り」と思うことが多い。実際、ランソプラゾールの添付文書では消化性潰瘍での処方期間に上限が記載されている。
○胃潰瘍,十二指腸潰瘍,吻合部潰瘍,Zollinger-Ellison症候群の場合
通常,成人にはランソプラゾールとして 1 回30mgを 1 日 1 回経口投与する。なお,通常,胃潰瘍,吻合部潰瘍では 8 週間まで,十二指腸潰瘍では 6 週間までの投与とする。
添付文書の記載を見ると、逆流性食道炎は長期投与が可能だが、それ以外は長期には使わないことがわかる。
なぜランゾプラゾールが長期に処方されやすいかというと、そこまで医師にも副作用が見えないことがあると思う。副作用は実際に止めてみると初めてわかる。
精神疾患を持つ人は時に過敏性腸炎様の下痢や便秘がみられるが、本当にそうなのか、ランソプラゾールのようなPPIの副作用なのか検証すべきであろう。添付文書には副作用として、下痢と便秘が挙げられている。
よくわからない下痢や腹痛があり、ランソプラゾールが長期処方されている場合、まずこれが原因ではないか?と注意すべきである。
長期処方されているランソプラゾールを中止すると、人にもよるが、体に様々な良い変化が起こる。
例えば、ちょっと気づきにくいが、痔核の改善があげられる。どうもランゾプラゾールは便秘に加え肛門周囲の線維化も起こすようで、痔核を悪化させる人がいる。実際、ランソプラゾールを中止するとマグミットが必要でなくなり、痔核もかなり改善する人がいる。
ここのポイントは実は「便秘の改善」ではなく「肛門の線維化の改善」だと思う。そう思う理由はそのタイプの副作用が出る人はマグミットを常用し便秘をコントールできていてもしばしば痔核から出血していたからである。つまり、ランソプラゾールのために線維化が生じ、些細な便の形状の変化で出血しやすくなるのである。
この副作用は向精神薬には診られない。ランソプラゾールの胃酸を減少させる作用で、直接、これが起こるのかは不明である。とにかく、自分の患者さんでランゾプラゾールを中止することで痔核がかなり改善した人が5人以上いる。
また過食嘔吐の患者さんとランソプラゾールの関係も興味深い。ランソプラゾールを中止すると過食嘔吐が悪化する人がいるのである。
ランソプラゾールは極めて物理的な、あるいは化学的な作用で逆流性食道炎を改善しているように見える。
一方、過食嘔吐症は脳の疾患なので、ランソプラゾールのような主に末梢だけの作用を持つ薬はあまり関係しないように見える。ところが、「逆流性食道炎」という症状は、過食嘔吐症に影響し、より悪化させる人もいる。
ランソプラゾールには謎が多い。
ランソプラゾールの中止によりQOLが下がる人は、ランゾプラゾールほど強力ではないガスターなど短期的に効く薬を使い内科医や外科医と相談して治療すべきだと思う。
今日の記事は、ランソプラゾールは「時に思わぬような副作用が出ていることがある」、「長期に連用することは可能なら避けたい」、「一部の患者さんで精神所見を改善していることがある」、などを取り上げている。
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