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うつ病治療中のバセドー病発病

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甲状腺剤はうつ状態の治療に補助的に処方されることがある。以下を参照。

 

 

上のようなリンクカードはクリックして読む人はあまり多くはないので抜粋する。これは2008年の記事。

 

甲状腺剤だが、実は精神科ではチロナミン(T3)を使うことになっているのだが、これはおそらくT3の方が甲状腺機能に対する活性が高いからであろう。チラージンSのT4は代謝されてT3に変化するのでそれで良いといえばそうなのであるが、活性型に果たしてなるのか保証がないし、たぶん普通はチラージンSではなくチロナミンなのである。(正式にはうつ状態にチロナミンもチラージンSも適応はない)

アメリカでは病型によりチロナミンとチラージンSが使い分けられているようであるが、日本ではたいていチラージンSが選択されている。チラージンSはチロナミンに比べいくつか良い点がある。チラージンSはチロナミンに比べ半減期が長い。チロナミンは活性が高いのはそれなりにメリットだが、半減期が短くその分、やや扱い辛いし老人にはやりすぎになりかねない。特に心臓が弱い人には。だからトータルでは効果が不足したとしてもチラージンSの方が使いやすいという考え方もできる。

アメリカのエキスパートコンセンサスガイドラインなどを見ると、双極性障害の病型によればT3よりはT4を推奨する医師もいる。これはアンケートなので、まあ「クイズ100人に聞きました」の世界で、いろいろ意見が食い違うのは当然だろう。そのようなことを思いつつ、このおばあちゃんにはチラージンSを選択。僕はチラージンSとチロナミンは7:3か8:2くらいの割合で使っているが、これで良いのかどうかは自信なし。

例えば、双極性障害に対するうつ状態に甲状腺剤を処方する場合、追加投与していくとフィードバックがかかり、TSHが正常域下限より低値になる。これはいかにも良くないように見えるが、それでもfreeT4やfreeT3が正常の150%くらいの代謝亢進レベルまで上昇させてみる。甲状腺剤が多すぎると、老人の場合、骨粗鬆症や心臓への負担が考慮されるが、若い人なら経過を観察しながら様子を診るくらいで良い。基本的にはほとんど作用、副作用とも見えないような薬物である。僕は甲状腺剤よりカタプレスの方がはるかに効果が目視できる。

以前、このブログでも取り上げた急速交代型の女性患者さん(参考)は、甲状腺剤の服用のため長い期間TSHが極端に低値であった。フルスロットルだったからだ。彼女の経過にそれがいかなる風に影響したのかは謎だ。専門書を読むと、TSHがどの程度までの低下なら問題ないとか出てくるが、あれは臨床的には難しすぎる。あれを書いた人が実際に臨床をしつつ書いたものか、相当に疑わしいと当時思った。

実際、精神科臨床では橋本病の治療より、リーマスの処方で甲状腺機能が抑制され、チラージンSが使われていることが多い。うつ状態に漠然と甲状腺剤を併用している場合、薬を整理する際に、いつ中止すべきか非常に迷う。僕は結局、効果さえ謎のままいつか整理してしまうことも多い。こうなる理由だが、あまり甲状腺剤の効果が目視できないからだと思う。患者さんが転院してきて、甲状腺剤を追加しようとしたら、「なぜですか?」と聞かれることが良くある。これはあんがいそういう処方が多くはないのかもしれないと思ったりする。定番なのに。(参考

 

以上まで抜粋部分。

 

今回の記事は逆に難治性のうつ病治療中にバセドー病を発病した患者さんの話。

 

経過を要約すると、ある日、長期にわたり全く働けない状態だったのに、突然アルバイトを見つけ働き始めたのである。

 

それまで数年働けない状態だったし、処方も変更しなかったのにその変化に驚いた。その患者さんの主症状は、無気力、不活発、意欲の低下であった。いくつかASDの所見もあるが診断基準を満たすほどは症状が揃っていなかった。

 

数か月、働いていたが、ある時、転職して他の仕事にも就いている。その患者さんは双極性障害的要素があり、自然なバイオリズムでそのような経過になったのかもしれないと思った。ところが、本人が頻脈、動悸などを自覚し内科受診したところバセドー病と診断されたのであった。

 

この経過は甲状腺剤がうつ状態に治療的に働くことを良く示していると言える。また、バセドー病がまだ顕在化していない時期に既に精神症状に好影響を与え、就労できたようにも見える。無気力、不活発、意欲の低下は周囲から詐病のように見られかねないが、明らかに精神症状であることも証明している。

 

また、就労している期間にうつ状態などほとんどないほどに改善したため、全ての抗うつ剤を整理している。これは双極性障害の可能性も考慮し中止したところもある。

 

ところが、バセドー病が内科的治療で改善し、T3、T4値が正常化してくると再び症状が再燃し働けなくなった。

 

しかし不思議なことに、バセドー病が発病する以前より高いレベルの精神状態を維持している。向精神薬もずっと少ない用量である。そもそもこの患者さんは抗うつ剤に反応が悪く、増量してもそれに比例して良くなる経過にはならない。今でも抗うつ剤は処方しないままである。

 

精神病治療に一般的に言えるが、レベルアップするまでが大変なのである。いったんレベルアップすれば、それを維持する治療はそれまでよりは易しい。

 

この記事を読んでいる人は、「バセドー病を治療しない方が良いのでは?」と思う人もいるかもしれない。しかしその選択肢はない。バセドー病は心房細動など重い合併症を起こすこともあり得るからである。

 

甲状腺剤がいかなる機序で急速交代型等の難しい病態を改善しうるのかは詳しくないが、もしかしたら、甲状腺剤が普通の機序ではない方法でうつを改善するからではないかと思う。双極性障害に対し抗うつ剤の治療を行うことにより、病態が複雑化し急速交代型に至る人もいると思うからである(注;初診から急速交代型の人もいるので全てではない)。

 

また、この経過は従来と全く異なるタイプの抗うつ剤が将来創薬されうることも暗示している。

 

参考

 


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