過去ログでリエゾンで高齢者の食欲を出す治療について紹介している。今回は極めて忍容性の低い高齢者の食欲不振の対処方法について。
まず食欲不振の高齢者が糖尿病かどうかは非常に重要である。もし糖尿病があれば、ジプレキサおよびセロクエルが処方できない。
その高齢者に糖尿病があっても、全く食事が摂れず、るい痩も目立ち、このままだと胃瘻造設が必至の状況では、主治医と相談して処方する方法も一考される。包括病棟では対応しやすい。
リエゾンで難しいのは院内薬局にある薬で対処せねばならないこと。精神科病院ほど選択肢がない。現在は身体科の病院でも、リスパダー(リスペリドン)、ジプレキサ(オランザピン)、セロクエル(クエチアピン)、エビリファイ(アリピプラゾール)くらいは採用されている。
特殊な薬、シクレスト、ラツーダなどはまずない。レキサルティはリエゾンで有用なので院長に頼んで採用して貰った。普通、レキサルティはリエゾンでは選択できない抗精神病薬である。
高齢者の食欲不振へのジプレキサの用量の目安は0.625㎎くらいである。これは2.5㎎錠の4分の1。効く人はこの用量で食欲が見違えるように改善する。もし精神病状態も改善する必要があるなら2.5㎎処方する方がむしろ良いこともある。
いずれにせよ、食思不振の改善にはジプレキサの用量はごく僅かで充分である。その理由だが、おそらくジプレキサの体重増加には用量依存性があまりないことも関係している。
たまに0.625㎎でさえ、鎮静や傾眠が生じる人がいる。これはその高齢者の年齢や体格、合併症の状況、内科薬も関係がある。また0.625㎎でEPSが生じる人すらいる。このような際は更にジプレキサを0.3125㎎くらいまで減量する。これは2.5㎎錠の8分の1錠である。
不思議なことに、0.3125㎎まで減量して初めて食思不振が素晴らしく改善する人がいる。この高齢の女性は0.625㎎では副作用で動けなかった。また動けないために食欲も出なかったのである。
少量のジプレキサでは食欲が出ないとか、EPSのために継続できない人は他の薬を検討する。糖尿病の人もそうである。実はリエゾンで食欲不振で相談されるような高齢者は、ジプレキサ以外で劇的に改善する薬があまりないない。もしセロクエル、リリカ、リフレックス、ルジオミールで改善するなら幸運だと思う。ドグマチールは内科で一度トライされて効かないために相談されることが多い。
ジプレキサ以外でトライする価値があるのは抗ヒスタミン薬である。しかし、アレグラ(フェキソフェンサジン)やザイザル(レボセチリジン)で効くような気が全然しないのよね。
なぜかと言えば、抗ヒスタミン薬でも新しい薬だからだと思う。新しい抗ヒスタミン薬は眠くならないのがポイントである。
昔はペリアクチンには食思不振の適応があったが今は削除されている。ペリアクチンは抗ヒスタミン+抗セロトニンの作用を持ちセロトニン症候群にも使われる。SSRIはセロトニンを増やす結果、嘔気などの消化管の副作用が出現する。ペリアクチンは抗ヒスタミン作用に加え抗セロトニン(SSRIの逆)の作用により食思不振を改善する。
ポララミンは純粋の抗ヒスタミン薬で、眠さの副作用が出やすい。今はジェネリックのd-クロルフェニラミンマレイン酸が処方されることが多い。このような古い抗ヒスタミンは市販の風邪薬にもよく入っている。
眠くなる抗ヒスタミン薬は、十分に脳に行っていることを証明している。一方、新しい抗ヒスタミンは末梢に効果を及ぼし、あまり脳に移行せず、眠さでQOLを損なわないように創薬されているのである。満腹中枢に届かないと言ったところか。
ある時、糖尿病の患者さんの食思不振の治療に困り、クロルフェニラミン(2㎎)を処方してみた。その患者さんは眠さがほとんどないようで、次第に食指が改善し、高齢者施設に入所できるほどになった。これまでさまざまな薬が試みられていたが、全くうまくいかなかった人である。
同じ抗ヒスタミン作用を持つ薬でもヒベルナは不適切である。ヒベルナは昔はコントミンと併用された抗パーキンソン薬である。ヒベルナはコントミンと併用ではない場合、あたかもコントミンを処方したかのように鎮静する人がいる。高齢者へのヒベルナは時にコントミンのようだと思う。
また、ヒベルナは抗コリン作用を持つため、定石には高齢者に好ましくない(認知を悪化させる)。他、抗コリン作用は腸管の動きを抑制するためこれも食欲不振に良くないと思われる。
比較的新しいルパフィンと言う抗ヒスタミン薬があるが、これは抗アレルギーの薬効を重視し比較的眠い薬である。これは眠くなるという点で、アレグラやザイザルより食思不振に良いはずである。
しかし、高齢者の食思不振に適応外で先発品のルパフィンを処方する意味はあまりない。
抗ヒスタミン薬を試みる際は、レセプター親和性の点で節操がない古いタイプが良いのである。