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薬剤性ジストニアはなぜ右肩が下がるのか?(前半)

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今日の記事はやや専門的で、たいていの読者の方はあまり興味がないと思う。

 

特に定型抗精神病薬(ハロペリドールなど)では、その副作用でジストニアが生じることがある。相対的に脳内のドパミンが枯れていることによる脳内バランスの崩れから、筋緊張の亢進を来したものである。これは強力なドパミン遮断薬(メジャートランキライザー)で起こりやすいが、忍容性が低い人はリスパダール、ジプレキサ、シクレスト、エビリファイなどでも普通に起こる。

 

上のリンクカードは国立精神神経医療研究センターのホームページで、ジストニアについて実にシンプルに説明されている。参考にしてほしい。

 

精神科で薬剤性急性ジストニアが起こりやすい場所は目、口、頚部で、ほとんどは局所性である。目の場合、目が上方に向いたまま下がらなくなる。口は「口がパカっと開いて閉まらなくなった」言うものが多い。舌の異常を訴える人もいる。抗精神病薬によるジストニアは疼痛は伴わないことが多く、今回のタイトルのように患者さんから「右肩が下がった」などと訴えることはほぼない。従って、主治医が姿勢が悪くなったことを確認し目視で診断する。

 

精神科病棟では急性ジストニアが生じ、本人が苦痛を訴えた時、アキネトンを筋注することが多かった。これで魔法のように速やかに改善し何もなかったようになる。(完全に可逆性)

 

急性ジストニアが出現するタイミングとして昔は運動会や夏祭りなどのイベントで多発する傾向があったので、少なからず筋肉と関係していると思う(乳酸が溜まるなど)。また、紫外線を浴びたとか全身の疲労や僅かな脱水なども関係あると思われる。

 

ジストニアは基本、脳内に症状を生じさせる座があるが、出現する場所は末梢の筋肉(随意筋)である。僕が若い頃、運動会や夏祭りによる興奮もジストニアを生じさせるのでは?と思っていたが、感覚的には、興奮(即ちドパミンが出る状況)はジストニアを抑制しそうである。この辺りの矛盾というか謎は未だに解決していない。

 

速やかに改善するタイプの急性ジストニアは、抗精神病薬の用量を下げたり、非定型抗精神病薬でもジストニアを生じにくいものに変更する。急性ジストニアが頻回に出て、その度にアキネトンを筋注するのは困るからである。現在の抗精神病薬では、おそらくクロザリルとセロクエルは急性ジストニアのリスクは極めて低い。

 

近年、「目が上に向いて下がらない」とか「口がパかっと開いて閉まらない」などの副作用は著しく減少している。これは抗精神病薬が良くなったことや精神科医の薬物治療技術の進歩もあると思われる。

 

なお、急性ジストニアに比し、難治性ジストニアは上記のようなアキネトン筋注で簡単に改善しない非可逆性タイプを言うと思う。つまり薬で改善しにくく、持続性であり、時に疼痛を伴い、日常生活に著しく支障を来す病態である。

 

頻繁に急性ジストニアを起こす人が難治性のジストニアに移行するかというと、ほとんどないのではないかと思う。少なくとも僕は経験がない。おそらく脆弱性に由来する遺伝子が異なっているのではないかと思う。抗精神病薬の急性ジストニアは女性が多い印象で、難治性ジストニアはむしろ男性が多い。この差異に注目している。

 

僕のある女性患者さんは1名、重い悪性症候群(悪性カタトニア)を生じ、悪性症候群が改善後もベッド上で全く動けなかったと言う。彼女はその後DBSを施行され、なんとか日常生活はできるようになった。難治性ジストニアは専門医療機関に行かないと医療機械や治療ノウハウ、症例数がないので治療ができない。

 

 

なお、ジストニアには軽微なものから重い病態まで様々なタイプがあり、人によればジストニアと正しく診断されていない人もいる。以下は東京女子医大脳神経外科のサイトである。細かい病態について詳細な治療方法についての記載がある(なお、このブログでは積極的に手術を推奨しているわけではない)

 

 

少なくともこのタイプの治療に極めて熟練している医師がいることは間違いない。個人的に重篤な人はともかく、軽微なジストニアには薬物的にも良い治療アイデアあるので、本人に勧めて東京までボツリヌス治療に行く必要がないと勧めることがある。その人はその後、東京の特殊な治療なしで極めて良好な状態に至り、現在は普通に働いている。

 

 

上はNHK健康のホームページから。良くまとまっているが、一部にこれは逆ではないかと思う記載がある。以下である。

 

脳には「大脳基底核」という場所があり、運動の調節や学習などを行っています。特に、意識せずにできる「おまかせモードの運動」で大きな役割を持っています。実際に運動を行う場合、小脳や大脳皮質から筋肉へ指令が出ていますが、大脳基底核はこの間に入り、運動の調整を行っています。自動車で例えると、安全に前に進むために、「アクセル」と「ブレーキ」がバランスよく働き運動を調整しているイメージです。このとき、ドパミンという物質が大脳基底核の中で指令を伝えています。ドパミンはアクセルを踏み込みブレーキを緩める働きをしています。ジストニアでは、正常な状態に比べて過剰に出ていることでアクセルが強くなりブレーキが弱まってしまい、筋肉への指令が過剰に出て、ジストニアの症状が起こるのです。簡単に言えば、スピード違反のようなものです。

 

上記の記載について、ジストニアの治療に抗コリン剤やレボドバを処方することこそ(パーキンソンの治療)、相対的にドパミンが枯れていることを示唆している。だから上の青い部分はうっかり逆に記載したのでは?と思う。(このサイトがNHKであるからこそ言及している)。こちらが間違っていたりして。

 

「薬剤性ジストニアはなぜ右肩が下がるのか?」の本題にまだ入らないが、長くなったのでいったん「前半」としてここまで。

 

(後半に続く)

 

参考

 

 

 

 

 

 

 


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