抗精神病薬治療中に右肩が下がる姿勢は薬剤性ジストニアであろう。
これはドパミン遮断薬による副作用で特に定型抗精神病薬で起こりやすいが、非定型抗精神病薬でも生じうる。また、リーマスや稀にデパケン(バルプロ酸Na)やヒベルナでも起こることがある。もしデパケンで起こったらかなり薬に弱いと言ってよい。
「右肩が下がる」状態でほぼ静止しており、捻じる動きや疼痛がないので、本人が苦痛を訴えることはなく、姿勢の悪さとして他覚的に目視されるものである。
また右肩と左肩のうち、いずれが下がるかは、主治医や看護者はほとんど意識しない。本来、軽微な副作用とまでは言えないが、振戦や筋強剛などに比べ重篤感がないからだと思う。
ずっと臨床を続けてきて、このタイプの薬剤性ジストニアがほとんど全て右肩が下がり、逆に左肩が下がっている人などほとんど記憶にないことに気付いた。今回の記事はこの謎について。
この理由を考えるに、いくつかの解剖学的特性が大きいと思われる。人間は体の右側に肝臓があり、左側に心臓がある。一般に心臓は200~300g、肝臓は1~1.5㎏と言われている。心臓は左だが体幹のほぼ正中に位置し、右半身の肝臓のような重い臓器に対し、心臓は軽い上に相反してバランスをとれる場所にはない。このようなことから、右半身が重いという推測はできる。
しかし、肝臓により右半身が重いからと言って、それがジストニアにより右半身が下がる原因になっているとは到底思えない。ヒトのトータル体重からみると1~1.5㎏は大した重さではないことと、普段、他の疾患で肝臓の重さのために左右差が出る場面など目撃しないからである。元々、ヒトの脳は肝臓の重さを考慮に入れて、姿勢を保っているように見える。おそらく、肝臓の重さと位置は薬剤性ジストニアによる右肩の下がりとあまり関係がない。
別の視点で解剖学的に見ると、骨盤は右側が下がっていることは重要だと思われる。正確には右骨盤の後方が下がり前方はむしろ上がる位置にある。左側の骨盤はその逆なので、骨盤中央で捻りが入っているようなイメージである。これだと随意筋が過緊張すると自然に右肩が下がっておかしくない(本当か?)
他、ヒトの軸足も関係があると思われる。普通、ヒトの左足を軸足にしてバランスをとっている。だから、何か自分の方にぶつかろうとした際、本能的に左足を固定し右足を動かすことにより避ける。
冬季オリンピックが終わったが、スピードスケートは全て反時計回りである。これは夏季オリンピックのトラック競技も同様である。人の軸足が左足にあることを考慮すると、反時計回りの方がうまく走れるように思われる。実際、選手を逆回りで走らせると、タイムが悪くなるという。ただし、左足の軸足が右利き、左利きで差異があるかもしれないが詳しくない。
なお余談だが、競馬は右回りのレースと左回りのレースがあり、G1レースでさえ統一されていない。強い馬はどちら周りでも勝てるが、たまにどちらかの周回コースしか良いタイムが出ない馬がいるという。馬は4本足だが、軸足なるものがあるかもしれないが、おそらく左右差が出るヒトほどの重要性がない。だから、ほとんどの馬は周回の左右差でタイム差が出ないのであろう。
ヒトの場合、軸足が左足という1点だけの理由でも、薬剤性ジストニアで右肩のほうが下がるのはありそうである。