入院患者さんが、ある日「うつがすっと抜けていった」と言った。これは良くなったという意味だが、このような表現をする人はあまりいない。
これは「魔法のようにうつが全くなくなった」と言う意味らしい。これは双極性障害であれば、躁転したのではないかとこちらが不安になる言い方である。
双極性障害で、「うつは深く長く、躁転は目立たず少し活動的」くらいの人がいる。ずっと昔なら双極性障害ではなくうつ病と思われていたような患者さんである。
古典的な双極性障害では躁状態は仕事ができない。と言うより、躁状態ではあらゆる場面で暴走するので仕事にならない。典型的な双極1型を指していたからである。
しかし双極性障害の概念が広がり、双極性障害でも「気分が少し上がった状態からうつ状態まで分布する」人たちも含まれるようになった。
このような人は全てではないが、躁状態レベルで仕事がむしろ捗る。実際、この時期にまとめて仕事をする人もいる。
文筆業の人たちにこのような人たちがいそうである。人気漫画家は毎週締め切りが来るので難しいが、コミケなどで作品を売るアーティストでは創作は可能だと思う。
またこのような体調変化を本人が意識していて、自分の状態を意識しつ仕事をする人もいる。その点では病識が保たれていると言える。
そのような人に、「やや躁転している時は自分自身にどういう変化を感じますか?」と聴いてみた。
彼の答えは、「Twitterでツィートが増えますね」と言うものだった。
小さな躁転ではいくらか調整が必要らしく、バルプロ酸Naを飲んでいた方が、仕事の不正確さが減るそうである。つまり活動的であっても無調律だとミスが多くなり能率が悪くなると言ったところだと思う。またこのような際にバルプロ酸Naはフィットせず、インデラルやビソプロロールが良いと言う人もいる。
これらの話は、双極性障害の本質を良くあらわしていると思う。
タイトルの「うつがすっと抜けていった」患者さんは数日後、退院し、数か月はやや活動的で普通の人と変わらないように過ごした。その後、再びうつ状態になったのである。
2007年の過去ログに今回と似ている記事がある。