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抗NMDA受容体脳炎の話

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今日の記事はずっと以前の記憶に基づく臨床経験の話である。

 

今日、朝から2020年にフランスとポーランドで共同制作された「Kubrick by Kubrick」と言うドキュメンタリー映画をテレビで観た(録画)。その時、急に興味が湧きスタンリー・キューブリンクのWikipediaを読んだ際に思い出したものである。このドキュメンタリー映画はNHKのBS1で放映され観た人もいるかもしれない。

 

 

今回の記事のインスパイアされたWikipediaの部分は、スタンリー・キューブリックの「シャイニング」と言う作品のWikipediaの中にある。

 

エクソシスト2
キューブリックの元には同時に『エクソシスト2』の制作の依頼も来ていたが、最終的にこちらの制作を選んだ。ただし『エクソシスト』第一作で悪魔に憑かれる少女リーガン(リンダ・ブレア)が統合失調症を疑われ夥しい検査を受けるのと同様、霊魂、超能力「シャイニング」など科学で説明の付かない事象を説明の付く事象と曖昧に描かれており、関与しなかったにせよ影響は少なくなかったと思われる。

 

キューブリックはエクソシスト2を制作するかもしれなかったのである。エクソシストは封切当時、僕は映画館で診たが、精神疾患と言うより悪魔付きとキリスト教の視点で描かれているように見えた。神父さんのおかげで寛解する場面で映画は終わっている。

 

このリーガンの精神疾患は、今日的には抗NMDA受容体脳炎であったであろうと言われている(本当か?)

 

なお、スタンリー・キューブリックのシャイニングは過去ログで触れたことがある。

 

抗NMDA受容体脳炎と言う疾患が認知されたのはこのブログが始まった頃で2007年当時である。従ってそれ以前にはそれらしき精神疾患は別名で報告されてはいたが、精神科業界で知られていなかった。

 

抗NMDA受容体脳炎は統合失調症類似の精神症状を呈するため、最初に精神科病院に受診するケースが一定の割合でいそうなのは重要である。

 

当時、僕は新患の男性患者さんの精神症状が悪いため入院治療をすることにした。今となっては時期も不明だが、多分、2010年頃だったと思う。今、紹介状を検索したがすぐに見つからなかった。

 

僕はしばらく病棟で診ていて、確実に統合失調症ではないのに、臨床症状が非常に統合失調症に似ていることに驚いた。彼には幻聴は普通に生じていたのである。(内容など詳細は覚えていない)

 

最も決定的な事件は、廊下に彼がひざまずき、奥さんを見上げて泣きながら「(自分では)どうしようもならない」と語っている場面である。

 

この光景は、統合失調症ではありえないと思った。

 

彼の精神症状は向精神薬が効かず、むしろ無効と言うべきで、次第に悪化するばかりであった。副作用はそれほど出ているように見えなかったので、薬で紛れているわけでもなさそうなのである。僕は自分の病院で治療を続けることに限界を感じたため、市内の精神科を持つ中核総合病院に紹介することにした。

 

紹介の際の病名は、生活歴や仕事の内容から、工業用溶剤などによる「未知の中毒精神病」と思ったが、その診断はあんまりなので覚醒剤中毒後遺症の疑いとしている。(本人が使っていても言わないことがあるため)。とはいえ、覚醒剤中毒としても腑に落ちないことは多々ある。

 

当時、抗NMDA受容体脳炎については、僕は名前しか知らなかった。いかなる病態なのか知らなかったのである。

 

彼の経過だが、中核病院で抗NMDA受容体脳炎と正確に診断され、血漿交換などの治療により見る見るうちに清明になっていったと言う。それは奥さんが病院にまだ置いていた身の回りの荷物(衣類など)を取りに来られて、立ち話した際に聴くことができたが、短い期間にとても良くなっていることに喜んでおられた。

 

診断の決め手は、抗精神病薬が利かなかったことと、低体温だったという(そういう話。他のこともあったと思うが、治療した医師と直接話したわけではないので、詳細までは不明である)

 

普通、単科精神科病院の患者さんを身体新患の治療のために、中核病院に搬送した場合、改善したらその患者さんを送り返し再入院させるのが普通である。しかし彼の場合、帰って来なかったので、そのまま中核病院を軽快退院していたと思われる(当時、退院したことは精神科部長に確認)。戻ってこない場合、紹介状がないので、入院以降の治療や臨床経過が全く分からないことが多い。

 

そのようなことから、どの程度の軽快なのか今も知らないのである。抗NMDA受容体脳炎はエクソシストのリーガンのようにほぼ完全に治癒することもあるが、後遺症が残ることもある。

 

以下は、東京都立神経病院のサイトにある抗NMDA受容体脳炎の疾患説明である。このくらい平易な記載なら読者の方にも参考になると思う。

 

 

抗NMDA受容体脳炎は卵巣の良性腫瘍と関係が深いことからエチオロジー的には女性が多い。しかし僕の患者さんは男性であった。

 

彼の場合、入院中、病状が次第に悪化していったので、誤診するのなにも大抵の精神科医は速やかに中核病院の救急外来に搬送したと思うよ。

 

過去ログには患者さんは診断できる医師のところに行くものだ、という記載をしている。これは正確な診断はできていないが、統合失調症とか頓珍漢な診断で搬送しなかったのは良かった。そもそも間違いなく統合失調症であれば、その日に搬送などしなかったと思う。

 

参考

 

 

 


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