抗精神病薬による横紋筋融解症は、悪性症候群の近縁にある病態である。
抗精神病薬により横紋筋融解症が生じる理由は十分にわかっているわけではないが、抗精神病薬による持続的な筋収縮などが関係しているなどと言われている。従って、軽微な錐体外路症状から発展した病態と言うことになる。
本来、横紋筋融解症は抗精神病薬に限らず、抗コレステロール薬、高脂血症治療薬などでも起こることがある。それ以外では、抗生剤、抗ウイルス薬、消炎鎮痛剤、降圧剤、H2ブロッカーなどでも生じることがあり、上記の持続的な筋収縮を主原因とするには腑に落ちない点もある。
少なくとも、悪性症候群が中枢性の副作用に対し、横紋筋融解症は筋肉に病因の座がありそうである。その視点でアトルバスタチンなどでも起こりうることが理解できる。横紋筋融解症の方が悪性症候群に比べ原因薬剤に広がりがある。
横紋筋融解症が生じると、時にCPKが1万を超えるほどに上昇する。更に上昇を来すと、血液透析が必要になる(CPKが4万とかそれ以上)。
横紋筋融解症は、患者さんが自宅などで倒れていて、救急搬送されて高CPK血症が判明し透析などが実施されるパターンが典型的である。
しかし、中核病院の泌尿器科の医師はこの病態をはっきりと診断できないで治療をしていることもよくある(だいたい50%くらい)。紹介状で「長時間伏せていたことによる筋肉の挫滅」と言うフレーズを記載しているからである。治療そのものには影響がないかと言うと、ちょっと違う。その理由は原因となる抗精神病薬を中止していないからである。
横紋筋融解症は悪性症候群と同じく、原因薬物をまず中止しなければならない。その際に、抗精神病薬やそれ以外の向精神薬に加え筋肉に侵襲があるアトルバスタチンなども中止した方が良い。
そもそも、著しく高いCPK血症は、長期間伏せていた際の筋肉挫滅に由来しない。まず横紋筋融解症が生じ、CPKが劇的に上がり、その経過で気を失って倒れて伏せていたという流れである。つまり順序が逆である。
抗精神病薬の中でも錐体外路症状が生じにくい薬物、例えばセロクエル(クエチアピン)などでも生じる人がいるので、遺伝的要因も関与しているのではないかと思う。
なお、横紋筋融解症は、何らかの筋肉へのダメージもきっかけになるので、筋肉の挫滅によっても起こりうる。例えば、地震の際に倒れてきたタンスに挟まれたなどである。しかしそれは単にきっかけであって、真の横紋筋融解症という病態の主因ではない。
横紋筋融解症はある種の精神疾患の軽快過程の病態に見えることがあるのは、悪性症候群と同様である。従って正しくこれらの病態を治療すれば、軽快後は精神症状は以前より改善することが多い。しかし、悪性症候群も同様だが、その人に負担になる抗精神病薬を再び服薬することで再燃することも稀ではない。
注意点として、血液透析そのものが精神症状をかなり改善する上、原因薬物を一時的に一掃するので、原因薬物の処方を続けていたとしても、横紋筋融解症は軽快することが多い。それほどの治療エネルギーが血液透析にはある。
実際、泌尿器科主治医が抗精神病薬による横紋筋融解症とは診断せず、抗精神病薬を処方したまま軽快退院して来院することもよく診るからである。
問題は、透析すべきレベルまで悪化していない横紋筋融解症である。このケースでは保存的に対症療法(例えばダントロレンを使う、点滴をするなど)をされているが、原因薬物を止めていないので、意識障害がずっと続くなど、軽快、悪化を繰り返している経過もある。悪化のレベルが低いほど、薬物中止の重要性が増すと言った感じだと思う。
錐体外路症状については以下の記事を参照してほしい。
参考