レスリン(トラゾドン)は、低用量では眠剤的処方、高用量では抗うつ剤として処方されることが多い。今回はなぜそのように処方をされるのか、レスリンの作用機序について紹介したい。
精神科医は、眠剤の2剤制限もあり、重い不眠症に対しどのように治療をすれば良いか悩まされている。困るのは眠剤を2剤使ってもなお良く眠れない人である。
このような人たちへの処方は、セロクエル(クエチアピン)とレスリン(トラゾドン)が定番である。近年はジェネリックの処方が多いと思うので、以下はクエチアピン、トラゾドンと記載する。
クエチアピンは薬価が安くなっていることもあり、眠剤補助としてかなり処方されていると思う。クエチアピンは大抵の抗精神病薬に生じやすい錐体外路症状が出現しにくいし、統合失調症以外の人にも忍容性的に処方できることが多い。クエチアピンは統合失調症に対する抗精神病薬ながら、統合失調症以外の患者さんにしばしば適応外で処方される薬である。
クエチアピンの欠点は錐体外路症状ではなく、肥満など代謝系の副作用である。
トラゾドンは過去ログでは、あまりにもうつに効かないと記載している。確かにトラゾドンはアモキサンやルジオミールに対し非力だったし、SSRIやSNRIの時代になっても、やはり効果が弱い抗うつ剤には変わりがない。
しかし、トラゾドンはSSRIが忍容性的に処方できない人には比較的良いことがある。これも低用量(50㎎以下)では、あまり効果的ではなく、可能なら150㎎以上は処方したい。重要なことは、トラゾドンは抗うつ剤として使うなら高めの用量を処方しないといけないことだと思う。
そのようなこともあり、今でも抗うつ剤としてトラゾドンを処方している人たちがいる。トラゾドンは眠剤補助として(あるいは単独で)低用量を処方しているか、他の抗うつ剤が不適切な人にやむなく高用量のトラゾドンを処方しているかどちらかがほとんどである。
なぜトラゾドンがこのように二相性のような処方になるかと言えば、レセプターへの親和性の傾斜によるところが大きい。低用量ではとりわけ親和性が高いレセプターにのみ関与し、主に眠剤的効果を発揮する。
低用量のトラゾドンは、5HT2A、α1、H1レセプターへのアンタゴニスト作用をにより、睡眠の質を改善する。5HT2Aアンタゴニスト作用は徐派睡眠の増加、α1、H1レセプターへのアンタゴニスト作用は脳内の覚醒系に影響し眠気を引き起こす(覚醒系にブレーキをかけるイメージか?)。
これらの抗うつ剤と睡眠の質の改善については以下の過去ログ(2007年)で触れている。
高用量のトラゾドンは、相対的に親和性の低いレセプターへの影響も大きくなり、抗うつ作用を発揮する。高用量ではセロトニントランスポーターを飽和できるのである。いわゆるセロトニン再取り込み阻害作用である。
抗うつ作用は、5HT1D、5HT2C、5HT7、α2レセプターのアンタゴニスト作用と5HT1Aへのアゴニスト作用によりもたらされる。
抗うつ剤としてトラゾドンを処方する際の欠点の1つは、トラゾドンを大量に処方すると日中の眠さが残ってしまうことだと思われる(鎮静作用が残遺)。トラゾドンは血中半減期が6時間前後である。25~50㎎眠前投与だと、起床時はかなり減っているが、150㎎以上処方すると起床時も血中濃度は高いままである。
海外では徐放性製剤(XR)が発売されているようであるが、日本では即放性剤(IR)しか発売されていないため、トラゾドンの欠点を抑えて高用量を処方することが難しくなっている。
うつ病治療にしばしば処方されるSSRIの欠点は、睡眠を改善しないことである。むしろ悪化させる方向に作用する。以下は、上の過去ログから抜粋。
SSRIに関しては、3環系抗うつ剤やレスリンなどとはかなり様相が異なっている。SSRIは深い睡眠を抑制し浅い睡眠を増やすのである。中程度はそこまでの影響を及ぼさない。レム睡眠は抑制するらしい。
SSRI
レム睡眠 ↓
浅い睡眠 ↑
中程度の睡眠 ~
深い睡眠 ↓
これはSSRIはもともと悪かった睡眠をさらに悪化させることがわかる。
トラゾドンはSSRIとは異なり睡眠を悪化させない特性があると言える。ここが大きな相違である。
今回の記事の特にレセプターについては、「ストール精神薬理学エセンシャルズ神経科学的基礎と応用第5版」を参考にしている。