ベンゾジアゼピンは抗不安薬や睡眠薬として処方されてきた歴史がある。年配の精神科医はベンゾジアゼピンの処方経験の多さと副作用で困った経験が稀なためか、ベンゾジアゼピン処方に対し若い精神科医より抵抗がない。
ここで言う若い精神科医とは40歳代以下くらいであろうか?
近年は不安障害に対し、安易にベンゾジアゼピンは処方しない方針で治療が行われることが多い。ベンゾジアゼピンではなく、SSRIが主流になっているからである。
このブログでは、不安障害に対してベンゾジアゼピンを全面的に否定しないポジションで記載している。僕があまりベンゾジアゼピンを不安障害に使いたくないのは、次第に処方錠数が多くなりかねないという気持ち的な部分が大きい。処方はシンプルな方が良い。また全面的に否定しない別の理由として、日本人はSSRIを副作用的に服薬できない人が少なからずいることも関係している。
また、SSRIは服用し続けてナンボの薬で、2〜3週間服薬してやっと効果が発現する。少なくとも服薬したその日には効果は出ない。副作用は速やかに出るのに対し効果が遅れるのである。一方、ベンゾジアゼピンは屯用ですぐに効果が発現するため、かえって少量で済む人たちが少なからずいる。ワイパックスやソラナックスを2週間処方して、3か月ごとに再診する人たちである。
うちの病院に初診時に、既に他病院でベンゾジアゼピンをフルに処方されているような人は仕方がないので、そのまま処方継続することが多い。最初からこの薬は減らした方が良いというと、変なドクターと思われかねないことや、ベンゾジアゼピンの有害性を一般のネット上の声ほど重大視していないこともある。
時間が経てば、減らせる人は減らせるでしょう、といった緩いスタンスである。減らせない人も、最高量服薬しているなら2剤制限があるので、打ち止めがあるのでそれ以上は増やしようがない。
このようなベンゾジアゼピンの処方感覚は、若い精神科医と年配の精神科医ではかなり温度差がある。僕は若くはないので、年配の精神科医の感覚にけっこう近いと思っている。
最近、時々、みかけるのは、ベンゾジアゼピンを絶対悪として処方を頑として止めてしまうような大バカ者精神科医である。しかも若くで開業までしているため、そのバカな精神科医に鈴をつけてやる上級医などいない。
これが、反精神医学の人々ならわからないでもないが、普通に指定医も持っている精神科医である。
事例を挙げると、普通にベンゾジアゼピン系薬物で不安障害や不眠治療を受けている人に対し「ベンゾジアゼピン系薬剤常用量依存性不眠」なる奇妙な診断を付けて、ベンゾジアゼピンを中止してしまう精神科医である。
不眠に対しては、力価的にまあまあ効果が高いデエビゴやベルソムラなどが発売されているのでわりあい対応できるが、不安障害に対し、SSRIが使えないような人が困るのである。
そのような人にあれこれ難しく治療をやっている状況(治療過程)はたまにリエゾンなどで目撃できる。リエゾンだとベンゾジアゼピン系薬剤常用量依存性ナントカなどとは診断せず、僕が自然に治療する。結果は明らかで、ほとんどの患者さんが速やかに軽快する。
反ベンゾジアゼピン精神科医の治療過程で驚いたこと。
1、ベンゾジアゼピンの血中濃度が低下時に症状が悪化すると思い込む(不安など)。
2、よくわからない症状をベンゾジアゼピン系薬剤が誘発したせん妄と思い込む。
3、不眠や不安、焦燥感に対し、ベンゾジアゼピンが使えないので、スルピリド、クエチアピン、ルーラン、時にヒルナミンまで使ってしまっている。それも高齢者に。
4、症状がいつまでもまとまらないため、5㎏以上の体重減少をきたしている。癌や狭心症の既往まであるのに。
5、最も重大なことに、ルーランやヒルナミンを処方したために口ジスキネジアが生じてしまっていた。
この患者さんはリエゾンで気持ちよく軽快したが、口ジスキネジアのみ残遺しており、もう少し様子を見て、改善しないならジスバル処方も考慮したいところである。ベンゾジアゼピンを毛嫌いするあまり、ジスキネジアを生じさせるようでは話にならない。
このような精神科医が迷宮に入ってしまう理由は、ベンゾジアゼピンに対する100か0かの思考パターンに由来する。(つまりASD的な思考パターン)。
つまり柔軟性が乏しくバランスが悪いのである。平凡に言えば、癌まで治療し終えて心臓も悪い高齢者に、ここまで頑なに自分の方針を貫いて治療しないでも良いじゃない!といったところである。
このような精神科医は、下手より罪が重いといつも思っている。
いつか、他の改善した事例をアップしたい。