普通、精神科医は患者さんには住所、電話番号、携帯番号、パソコンのメールアドレスなどを秘密にしておくものだが、たまに知られてしまうことがある。これは過去ログにも同じような記事があったかもしれない。
なぜ、秘密にしておくかだが、知られると大変なことになりかねないから(笑)。
現在、1名だけだが、たまに携帯にメールを送ってくる人がいる。この女性はもう15年以上治療しているが、この間に自分の異動のために3年間ほどの空白がある。
この空白の3年間で、彼女は大変なことになったのである。
それまでは少し変わってはいるが、常識の範囲で行動する人だった。だから多分だが、この人なら大丈夫と思い、以前の病院職員が住所を教えたのである。普通、お歳暮などを贈る際に、送り先の電話番号を運送会社から聞かれる。彼女が職員に、「先生にお歳暮を贈りたいので、電話番号を教えてください。」と聞いた際に、うっかり教えてしまったようなのである。(推測)
この彼女のメールは最初は気付かなかったが、ショートメールのようである。だから、よく途中で突然終わっている(字数制限があるため)。以前は、実際に携帯電話に突然かかってきた。常識的な時間だったとしても迷惑だが、彼女の場合、突然、午前4時にかかってきたるするわけ。こちらが不眠になるって。
本人は疼痛系の疾患なので、痛さのあまりかけてくるのであろうが、電話をかけてきても良い方法などない。午前4時にかけてこられると睡眠不足になるし、一緒に起こされる嫁さんもカンカンである。(怒りのレベル10段階中8)
まして、今は自分の患者ではないのに・・
ある時、あまりに非常識なので、自分の病院に転院させ入院させることにした。注意したり、叱責したりして、改善するレベルになかったから。
彼女は長短合わせて、計4~5回入院し、うつも疼痛も以前の7~8割は改善している。しかし、以前とは全然異なる処方になったし、凄い量にもなった。
併用している薬は抗精神病薬ではなく、抗うつ剤、ベンゾジアゼピン、抗てんかん薬、リリカ、トラムセットである。
外来婦長は、見違えるような改善だと言う。彼女は今は車も運転できる。かつては車椅子だったのに。(車椅子でも運転可能だが、彼女は標準仕様の車を運転している)。
このようなことを考えるに、あの3年間は痛すぎた。
トラムセットはヤンセンファーマの薬だが、画期的な薬と思う。ヤンセンの薬では、精神科ではトラムセットとリスパダールコンスタが傑出している。
彼女はたぶん今の診断は線維筋痛症で、なかなか癒えきらないタイプのうつを伴う。
彼女の治療が難しい点は、抗うつ剤のうち特別な副作用のため、使える範囲が非常に狭いことである。忍容性が高いか低いかを言えば、抗うつ剤以外は比較的服用できるので、忍容性が低くはない。
特に凄いのは、リリカ600mg、トラムセット6錠を服薬して、全く副作用がないことである。これでも完全には疼痛は止まっていない。
今回は、携帯電話の話をしようと思っていたのに、なぜか、線維筋痛症の話になってしまった。彼女がうつから線維筋痛症に変貌したのは、無駄な手術のためである。あの手術はしない方が良かった。
肉体的損傷がトリガーとなった1090名の要因(2009年日本線維筋痛症学会診療ネットワーク患者調査から)
疾患 56.2%
手術 21.2%
外傷 16.0%
スポーツ 3.8%
その他 1.9%
マッサージ 0.9%
過去ログでは、手術のうち歯科治療でもトリガーになりうると記載している。また外傷では、交通事故も原因になる。
日本社会は、個人より企業や社会全体の利益や安定を重視するところがある(重要)
これは、今までの数々の公害の初期の国や都道府県の対応を見ても明白である。
だから、例えば鞭打ち事故後に線維筋痛症が生じたとしても、その後長く続くであろうその症状に見合う保険料は支払われない。
これは、確実に因果関係が証明できないことや、同じ事故の衝撃でそうなる人が稀なこともある。(疾患への親和性があるという意味)
線維筋痛症は、また自己申告というか自覚症状の部分が大きいので、画像的とか血液検査の数値など明確なもので証明が難しいこともある。
交通事故は非常に件数が多いので、ある一定の時期に決着させないと、このようなトラブルが多発し、社会が混乱を来たしかねないことも考慮しているのではないかと思う。(ここが日本的)
上で、マッサージ0.9%と言うのが挙がっている。このマッサージが不適切と思われる人たちがいるのは確実である。僕はそういう風に思える人には、マッサージ禁止を伝えている。既に発症している人には、あるタイプの代替治療を禁じることもある。
ある時、リウマチ及び線維筋痛症の女性が、禁じていたのにマッサージに行ったことがあった。結果だが大変な悪化。
「だから、関節をボキボキさせる治療に行ってはいけないと言ったでしょう・・」
ただし、線維筋痛症で西洋薬や漢方薬の治療で十分な治療効果が得られない人が、マッサージ、針治療、カイロプラクティックなどの代替医療に流れていることも事実である。また、実際、これらは治療的である人も多い。
以下はこれら線維筋痛症への代替医療のエビデンスレベルと推奨度であるが、全ては挙げていない。特に鍼治療は有力であることがわかる。
リラクセーション
エビデンスレベル Ⅱb
推奨度 B
温泉療法
エビデンスレベル Ⅲ
推奨度 B
お灸
エビデンスレベル Ⅳ
推奨度 C
鍼治療
エビデンスレベル Ⅰ
推奨度 B
有酸素運動
エビデンスレベル Ⅱb
推奨度 B
食事療法
エビデンスレベル Ⅳ
推奨度 C
6週間の野菜中心の食事。
湯たんぽやアコニンサン
エビデンスレベル Ⅳ
推奨度 C
禁煙
エビデンスレベル Ⅲ
推奨度 B
減量
エビデンスレベル Ⅳ
推奨度 C
海外では推奨度B
エビデンスレベルⅠ~Ⅴについて
ランクⅠ
Systemic review、メタ解析によるデータ。
ランクⅡa
1つ以上のランダム化試験によるデータ。
ランクⅡb
非ランダム化データによるデータ。
ランクⅢ
分析疾病学的研究によるデータ。
ランクⅣ
記述疾病学的研究によるデータ。(何例中何例が有効だったなど)
ランクⅤ
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見。
推奨度
A 行うように強く勧められる。
B 行うように勧められる。
C 行うように勧めるだけの根拠が明確でない。
D 行わないように勧められる。
参考
Xファイル
慢性疼痛と手術
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患者さんからのショートメールと線維筋痛症
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