ある時、うつ病の男性患者が、今ひとつ壁を越えられない病状が続いていた。彼によると、家族は良くなっていると言うが、実感は良くなったとは程遠いらしい。
そのためECT治療を紹介した。ECTはうつ状態の治療が行き詰った時に挙げられる有力な治療法の1つなので、これを決して言わない精神科医は失格である。
例えば、乳癌などの手術の説明の際に、「このような手術の仕方もあります」という別な手術法の提案をしなかったため、医師が負けた裁判がある。
つまりだ。
エビデンスがある別の治療法がある際、それを提案できない精神科医は、患者は素人ということもあり、プロとしては良くないことなのである。
最初に挙げた男性は、ECTの説明をしたところ、すぐに理解し了解してくれた。ただし、これまでの病状経過や合併症の関係で、どうしてもmECT(修正型ECT、無けいれんECT)の方法で行わないといけない。そこで、サイマトロンでECTが実施できる精神科病院に転院させることにした。
期間ははっきり憶えていないが、2ヶ月くらいでうちの病院に戻ってきた。顔つきが以前よりスッキリしている。よく考えると、以前は鬱陶しい表情だったと思う。
本人に、ECT以後改善したことを聴いてみた。
①今は色々なレクレーションをし、旅行にもいける。
②今は以前より、眠る、眠られないにこだわらなくなった。
③特に改善したことは・・早朝ゴルフが快適。図書館に良く行き、本を借りてくる。ずっと長い時間本が読める。以前は新聞すら読む気がしなかった。一時、トイレに行くことができず、そのまま失禁していたことがある。
最後の失禁の話だが、おそらくうつによる亜昏迷により生じたものと思う。動けないのである。
現在の処方は、リフレックス15mgとリボトリール0.5mgだけである。
うつはサッカーと同じく、人によると、1点取るまでが大変な疾患である。サッカーの場合、偶然でも良いから1点さえ先取すれば、試合終了まで1点差で逃げ切るのは弱いチームでも可能なことである。
サッカーのジャイアントキリングはそのようなメカニズムで生じる。(1点取るのが大変なスポーツなため)。
今のリフレックス15mgは、つまりそういう意味であろう。
問題は、この男性が今後どのような経過になるかである。浮上させるより寛解状態の維持の方が易しいとは言え、今後、うつ状態が再燃するケースはある。
定期的にうつ状態を改善させるためECTをかける方法もあるが、僕の患者さんではうつ状態のために、長期にECTをかけた人は皆無である。唯一、過去ログに出てくる「双極2型の激鬱とECT」の男性は数クールかけたが、それでも1年と少しの期間であった。
過去ログから再掲。
だいたい、統合失調症であれ、躁うつ病であれ、ECTでしかコントロールできないという人が存在する方がおかしい。治療法としての行き詰まりみたいなものに疑問というか「自分に対する怒り」のようなものを感じていた。
僕は退院後もいろいろな試行錯誤を続けていた。そして遂に、ECTをしなくて良い彼の躁うつのコントロール方法を発見したのである。
おそらくだが、周期的に重いうつ状態に至る人でも、新薬が発売されたり、医師の方でも治療方法を考えることもあり、定期的にECTをせざるを得ない患者さんは、極めて稀ではないかと思われる。
これは脳が変わり続けていることも関係しているように思う(参考)
参考
アナフラニール点滴マニュアル
(今回は今年の最後の記事です。来年もよろしく。)
そのためECT治療を紹介した。ECTはうつ状態の治療が行き詰った時に挙げられる有力な治療法の1つなので、これを決して言わない精神科医は失格である。
例えば、乳癌などの手術の説明の際に、「このような手術の仕方もあります」という別な手術法の提案をしなかったため、医師が負けた裁判がある。
つまりだ。
エビデンスがある別の治療法がある際、それを提案できない精神科医は、患者は素人ということもあり、プロとしては良くないことなのである。
最初に挙げた男性は、ECTの説明をしたところ、すぐに理解し了解してくれた。ただし、これまでの病状経過や合併症の関係で、どうしてもmECT(修正型ECT、無けいれんECT)の方法で行わないといけない。そこで、サイマトロンでECTが実施できる精神科病院に転院させることにした。
期間ははっきり憶えていないが、2ヶ月くらいでうちの病院に戻ってきた。顔つきが以前よりスッキリしている。よく考えると、以前は鬱陶しい表情だったと思う。
本人に、ECT以後改善したことを聴いてみた。
①今は色々なレクレーションをし、旅行にもいける。
②今は以前より、眠る、眠られないにこだわらなくなった。
③特に改善したことは・・早朝ゴルフが快適。図書館に良く行き、本を借りてくる。ずっと長い時間本が読める。以前は新聞すら読む気がしなかった。一時、トイレに行くことができず、そのまま失禁していたことがある。
最後の失禁の話だが、おそらくうつによる亜昏迷により生じたものと思う。動けないのである。
現在の処方は、リフレックス15mgとリボトリール0.5mgだけである。
うつはサッカーと同じく、人によると、1点取るまでが大変な疾患である。サッカーの場合、偶然でも良いから1点さえ先取すれば、試合終了まで1点差で逃げ切るのは弱いチームでも可能なことである。
サッカーのジャイアントキリングはそのようなメカニズムで生じる。(1点取るのが大変なスポーツなため)。
今のリフレックス15mgは、つまりそういう意味であろう。
問題は、この男性が今後どのような経過になるかである。浮上させるより寛解状態の維持の方が易しいとは言え、今後、うつ状態が再燃するケースはある。
定期的にうつ状態を改善させるためECTをかける方法もあるが、僕の患者さんではうつ状態のために、長期にECTをかけた人は皆無である。唯一、過去ログに出てくる「双極2型の激鬱とECT」の男性は数クールかけたが、それでも1年と少しの期間であった。
過去ログから再掲。
だいたい、統合失調症であれ、躁うつ病であれ、ECTでしかコントロールできないという人が存在する方がおかしい。治療法としての行き詰まりみたいなものに疑問というか「自分に対する怒り」のようなものを感じていた。
僕は退院後もいろいろな試行錯誤を続けていた。そして遂に、ECTをしなくて良い彼の躁うつのコントロール方法を発見したのである。
おそらくだが、周期的に重いうつ状態に至る人でも、新薬が発売されたり、医師の方でも治療方法を考えることもあり、定期的にECTをせざるを得ない患者さんは、極めて稀ではないかと思われる。
これは脳が変わり続けていることも関係しているように思う(参考)
参考
アナフラニール点滴マニュアル
(今回は今年の最後の記事です。来年もよろしく。)