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インドのジェネリック裁判

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2013年4月1日、インドの最高裁は、ノバルティスの抗癌剤の特許を認めない判決を下した。これは最初2006年に、ノバルティスの開発した抗癌剤、「グリベック」の特許申請をインドが却下したことから始まっている。

精神科ではグリベックという薬は馴染みがないが、これは商品名であり、薬物名はイマチニブ(imatinib)と呼ばれる。慢性骨髄性白血病、陽性消化管間質腫瘍、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病などに適応がある。

インドが特許を却下したため、ノバルティスが提訴し最高裁まで争われたが、最高裁の判決では、

既存薬の化学構造を変えただけで、新薬とはいえない。

と、高裁判決を支持している。(つまり、ノバルティス敗訴)

この文言は極めて明快だが、本来、新薬は既存薬の構造式を変えただけのものが圧倒的に多い。(笑)

元々、アジアでは知的財産権の概念が薄いというか、コピーに対する違反の感覚が乏しいところがある。インドのジェネリック製品は世界的に有名であり、巨大企業がいくつかある。なんとインドのジェネリック薬品の輸出額は100億ドル(約1兆円)にも達するのである。

インド政府やインドのジェネリック医薬品業界はこの判決を大歓迎したのは言うまでもない。彼らは、

「既存薬と変わらない新薬の特許を取得して、高値で独占販売を続ける欧米流に待ったをかけた」

とコメントしている。

インドでは2005年まで医薬品の特許を認めていなかった。しかし、2005年、医薬品に一定の特許を認めることを義務付けるWTOの協定に基づき、ある程度特許を認めるようになったが、それでもグリベックの判決の如しなのである。

現在、インドのジェネリックは一般的な先進国の薬価の3分の1~10分の1の価格で販売されている。

日本の場合、健康保険制度や、高額医療費がかかった際には還付があるため、新薬の薬価が高い影響が他国より薄い。つまり実感というか切実さが乏しい。

日本で使われる医薬品のほとんどをインドから輸入し、一切、先進国の新薬を輸入しないようにすれば、たぶんアメリカを始め先進国は激怒すると思うが、これほど医療費削減になることはない。インドのジェネリックは優れているからである。

だいたい、国があれほどジェネリック処方を推奨しているのだから、インドからジェネリックを輸入するのは困ると言うのは医療費削減という視点で矛盾する。日本はアジアなので、アジアらしくそのくらいの気持ちがあっても良いと思う。(←冗談)

国の台所は火の車なのだから、綺麗事を言っている状況ではないと思う。去年、大学病院や国立病院で働く職員の賃下げを実施している。このようなセコイことをすることこそ、医療現場を荒廃させる原因なのである。

実際、国公立病院ではかなりの医師が辞め民間に流れている。民間に流れるのはベテランの医師なので、若い人を指導する立場にいる医師の質はもちろん低下する。安易な賃下げは、医師は自由に職場を選べる職種なこともあり、医療の質を維持するという点で、うまくいかないのである。それくらいだったら、インドのジェネリックを輸入した方が、医療現場の質が下がらない。

勤務医では公的病院と民間病院の大きな差は退職金である。現況、公務員の医師は、そのまま長く勤めても給与も上がりそうにないし、退職金も下げられる可能性が高いことを皆、懸念している。これは国公立の学校教諭に、定年間際に退職する人が多数出たのと似ている。長く勤めれば勤めるほど、退職金が減額されかねないのが大問題である。まして僕の世代は、まだ定年までかなり年数があるのも関係がある。

インドの無法地帯とも言える特許が通じない巨大ジェネリック産業のおかげで、発展途上国の人たちの多くの生命を救っている部分もかなりある。

インド政府もジェネリック業界と利害関係が一致するので、この傾向はなかなか変化しないように思われる。

発展途上国で医療活動を展開する国境なき医師団(MSF)も、

インド製ジェネリック医薬品は、発展途上国の治療には欠かせない。我々が使うエイズ治療薬の8割もインド製だ。

とコメントしている。世界全体を見渡すと、どうしてもインドのような国がないとうまく回って行かないような状況がある。

特許違反は問題だが、そういう国がないと、困る国や地域が相当にあるということであろう。

これを解決する1つの方法は、特許を厳格に守らせて、先進国及び製薬会社が発展途上国の疾病で困る人たちを支援することである。

それができないから、あるいはしないために、このような状況が容認されているんだと思う。つまり、アウトローのインドが、世界の貧困地域の医薬品価格をディスカウントすることで、広く医薬品を行き渡らせ、医療バランスを取っていると見ることもできる。

つまり、先進国が人道的に、当然しなくてはならないことを、インドが代わりにやっているのである。


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