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Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
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薬の残量を基準に来院する人たち

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普通、精神科病院やクリニックでは患者さんごとに来院する曜日が決まっている。

精神科では、週単位で処方することが多い。また、主治医は毎日は外来を担当していないことも関係している。

たまに、2週間か4週間分しか処方しないのに、数か月に1回しか来院しない人がいる。そのような人たちはコンプライアンスが悪いということになるが、どのように服薬しているのか、興味があるので一応聞くことにしている。

このように不規則に来院する人が統合失調症の患者さんだった場合、次第に増悪して、かなり悪化して再診するか、家族に連れられてそのまま入院治療になる確率がかなり高い。いつの間にか他の精神科病院に入院していることもある。

なぜ他病院に入院しているのがわかるかと言うと、その病院の精神保健福祉士から、障害年金などの福祉関係の過去の診断書のコピーなどを求められることが多いからである。(詳しい病歴などの問い合わせがある)

近年で最も驚いたのは、たいした量を処方していない患者さんで、いつの間にか来院しなくなり、半年後くらいに超絶に悪化し、警察署に保護され、現場で相見えた時である。

その人はセレネースを1㎎くらいしか服薬しておらず、しかも自分が主治医の12年間くらいに1度も入院するほどの悪化がなかったため、少々怠薬したとしても、たいしたことにはならないと漠然と思っていた。ところが、そうではなかったのである。

警察署内の個室でなにやら叫び続けていたが、透明のシールドの前に立つと、僕に気付いたのか、少しだけだが話ができるようになった。

まさか、こんなところで会うとは思わなかったよ。

と僕は言った。たぶん、自分が呆れている風に伝わったと思う。その際に、本人は沈黙していた。本人は現在はジプレキサ10㎎だけ服薬しており、かなり元気になっている。精神症状は、あの怠薬事件の前後であまり変わっていない。(極端に悪化した数か月以外)

しかしあの量を怠薬しただけで、わずか半年後に、あのような緊張病性興奮状態に至るとは、ちょっと意外だったのは確かである。

今回、変わったのは薬の内容と力価だが、ジプレキサ10㎎は今後減量できる可能性があるし、大量とは言えないので、結果的に大事に至らなかったと言って良い。人によれば、あのような悪化を契機に、幻覚妄想が消退しないこともあるから。

「結果的に大事に至らなかった」と言うのは、その人に限り使える言葉であり、殺人事件などを起こしていればそうとは言えない。その人は、その可能性があったからこそ、警察署員に保護されていたのである。このようなことこそ、精神疾患が社会と密接に関係している点であろう(その人さえ良ければ良いとは言い難い点)。

統合失調症の人が服薬を止めてしまった後、深刻な事態になるまでの期間や悪化の規模には個人差がある。病型にもよる。非定型精神病に近い人であれば、年余にわたり服薬なしで比較的安定していることもありうる。これは躁うつ病の悪化のパターンに準じるように思われる。

話が戻るが、一般的に不規則に来院する人は神経症圏内の、しかも軽い人が大半である。服薬している薬はベンゾジアゼピンが多い。彼ら(彼女ら)の来院のタイミングは、処方された薬がなくなった時である。つまり、薬の残量が基準と言える。

例えば、2週間分の眠剤を処方し、いつも2か月ごとくらいに来院する人は、平均して4日に1度くらいしか服薬していないことになる。これは、実際に週末しか飲まないとか、仕事のある日には飲まないと言う言い方をする人もいるが、それでも計算が合わない。

人によると、1錠まで必要ではなく、4分の1とか2分の1錠程度を飲んだり飲まなかったりするために、そのような通院になる人もいる。眠剤の場合、仕事がずっと忙しい時期は疲れるのでその数週間は眠剤は必要ないという言う人がいる。

ベンゾジアゼピンの中では、レキソタンやメイラックスなどの抗不安薬を眠剤代わりに使う人に相対的に多い。ハルシオンなどの半減期が短いタイプは反跳不眠が出やすいので、このような使い方は不向きである。しかし、ハルシオンですら、そのような使い方をする人もいるのでさまざまである。

セパゾン、レキソタン、メイラックスなどの長い半減期の薬をたまにしか飲まない人は、2~4週間分を処方していても、年間に数回しか来院しない。このような人は来院の曜日もさまざまなので、自分がいない日に来ることも多く、いっそう会えないと言う事態になる。来院を継続していることは、レセプトチェックでわかる。そのような人には薬を漸減・中止することも薦めているが、案外、

いくらかでも薬を持っていると安心する。

などと言い、完全に病院と縁を切ることに難色を示す人も多い印象である。自分の患者さんでは、そのような理由で年間に2~3回しか会えない人が何人もいる。

結局だが、そのような人は、別に薬なしでもやっていけるのだと思う。ただし、ベンゾジアゼピンの長期使用のために肝臓や腎臓を痛めることもまずないし、まして毎日服薬しているわけでもなく、有害作用という点で例えば成人病の薬よりはるかに軽いので、問題にならないのだと思う。

このような事例を見ると、ベンゾジアゼピンがどんどん増えてしまう人は、それなりの相対的に重い病理があると言わざるを得ない。

過去ログで、「精神疾患はなるようにしかならない」という言葉が時々出てくるが、このような臨床感覚からも多分、来ているんだと思う。

参考
お昼の薬が10日分残っている
眠剤を他の薬に比べ、半分の日数だけ貰う人


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