このネコ何か言いたそう
アモキサン自主回収の話
ファイザーは2022年8月、アモキサンカプセル及び細粒に発癌リスクのあるノトロソアミン化合物が検出されたことを受け、他の抗うつ剤への切り替えを要請している。この対象となる薬物は、アモキサンカプセル(10㎎、25㎎、50㎎)及び同細粒の10%である。
https://www.pmda.go.jp/files/000248054.pdf
ファイザーによれば、このニトロソアミン検出の原因はアモキサンと添加物による反応と言う。しかしながら、急激な中止は精神症状不安定や離脱症状を来すため、しばらく出荷を継続するらしい。しかし2023年2月から自主回収が開始され、それまでにアモキサンを他の抗うつ剤に変更しなくてはならない。猶予期間は約6カ月である。
ニトロソアミンについてはアモキサンに限らず薬物に混入していることがあるため、数年前からいくつかの処方薬が自主回収になっている。
アナフラニール点滴の心理的効果
アナフラニールの点滴製剤は少し特殊で、点滴した日に効果が出る。患者さんの話では、点滴をし終わってベッドから起きた時に、不安感や抑うつ気分が少し晴れたように感じ、身体が楽になっているという。
あるいは、点滴をした直後はそこまで変化を感じないが、家に帰ったら、料理ができるようになっているとか、ゆったり横になって休めるというなど、不安焦燥感が軽減し落ち着きが出て来ると言う人もいる。
アナフラニールの点滴は3環系抗うつ剤だが、なぜか即効性があり、急場を凌ぐようなことも可能である。そのタイプの抗うつ剤は日本では発売されていない(ケタミンはそのタイプだと想像する)
そのようなことから、今なお、アナフラニール点滴は存在感のある治療法である。
ある時、他県からしばしば希死念慮が生じ自殺未遂も数回経験のある双極性障害の患者さんが転院してきた。その人の処方は、ちょうど双極性障害の定番の治療に移行しつつあった。それは抗うつ剤を中止し気分安定化薬とクエチアピンやラツーダで治療を行うことである。
双極性障害の人で抗うつ剤を中止する理由は、抗うつ剤を併用することで病状が極めて不安定になる人がいるからである。(急速交代型やボーダーラインのような病態)
しかし全ての双極性障害の人が抗うつ剤を中止すべきかと言うと、そうでもなく、抗うつ剤を併用しておいた方が病状が安定し就労できる人もいる。
つまり100か0かの極端な考え方は良くない。双極性障害のうつ状態が遷延し、精神科医が定石に捉われ何もしないと、その人の生活がなりたたないということも見逃せない。その意味では精神科医は柔軟な発想が求められる。
ちょっと前の記事(2016年)
上の記事の中では、
○リーマス+抗うつ剤
抗うつ剤は、依然として双極性障害のうつ状態に広く処方されている。特に双極性障害治療中のうつ状態エピソードに使われるが、効果があると考えられてきたが、周期を早め躁転のリスクがある。複数の論文で、気分安定化薬単剤は、気分安定化薬+抗うつ剤と同等の効果があると指摘されている。一般に3環系抗うつ剤とMAO阻害薬は避ける。イフェクサーとブプロピオンも処方されるが、イフェクサーは躁転のリスクがある。一般にSSRIが推奨される。リーマス+抗うつ剤では、リーマスの血中濃度が0.8mmol/L未満の時のみ効果があると言うエビデンスがあるが、議論がある。うつ状態の改善後、抗うつ剤の継続投与は再発を抑制するが、これは気分安定化薬を併用していない場合のみである(←驚愕の指摘)。現時点では、抗うつ剤を長期的に継続投与すべきかどうか、コンセンサスは得られていない。
○抗うつ剤
双極性障害のうつ状態では、抗うつ剤の単剤療法(気分安定化薬による保護がない)は、躁転のリスクがあるため一般に避けられている。抗うつ剤は単極性うつ病には効果があるが、双極性のうつ状態には効果が小さいか無効であるというエビデンスがある。しかし、プロザック、イフェクサー、オーロリクス(モクロベマイド)の短期の単剤処方は、かなり効果的でかつ安全と考えられる。しかし全体としては、特に双極性障害1型には抗うつ剤の単剤療法は避けるべきである。
これらは参考になる。
結局、その患者さんもリーマス+ラツーダ+セロクエルで次第に安定し希死念慮なども診られなくなった。しかし夏の暑い時期など免疫系が下がる時期に抑うつ気分が再燃し、困惑~亜昏迷に至った。どうもマニュアル通りだと双極性のうつ状態がうまくコントロールできず、生産的なことができない時期が訪れるのである。
この時、アナフラニールの点滴を勧めてみた。アナフラニールの点滴はこの精神症状には良さそうに見える。結局、数回アナフラニールを点滴することでうつ状態を脱し、ほぼ良い時期程度に動けるようになったのである。(しかも忍容性が低く少量で極めて有効)
この数回の点滴と言う早いスピードで改善した体験は、その患者さんの心理に好影響を与えたと思う。非常に悪い時期に、内服ではない治療で速やかに改善したからである。
少なくとも、今後、絶望に至るまで追い込まれない治療法が自分にはあるという、心理的な安心感が得られた。
その視点では、あのアナフラニール点滴及び改善の経験は精神療法的に作用したと思う。
参考
ロゼレムの高齢者の精神症状への影響について
ロゼレム及びベルソムラはリエゾンの際に処方されているのをよく見る。実は精神科医はロゼレム、ベルソムラはあまり処方しない。その理由の1つは精神科ではこれら2剤では改善しない、よりヘビーな不眠症を扱うことが多いからである。
また、今はデエビゴが発売されているのでベルソムラではなくデエビゴを処方する。デエビゴはベルソムラの上位互換のようなものである。リエゾンの際、不眠症の患者さんにベルソムラからデエビゴに変更するように助言することが多かったこともあり、リエゾンの総合病院でもデエビゴを処方する医師が多くなった。それくらいベルソムラとデエビゴの差は歴然である。
従って、僕は今から思えばロゼレムについてあまり良く理解していなかった。処方する機会が少なかったし、ロゼレムを処方されている人を診始めたケースでは、その良さ(どのように変化したか)が気付けなかったからである。
今回は以下のロゼレムと夜間頻尿の記事の続きである。
現在、精神科でも高齢者を診ることが増えたが、ずっと昔は精神病の若い患者さんばかりだった。それは精神科病棟を診れば明らかだった。車椅子の患者さんなんて皆無だったからである。これは以下の記事を参照してほしい。
ロゼレムが高齢者の夜間頻尿に対し治療的なことを理解して以降、高齢者に対しロゼレムを処方することが増えた。
この際、最も驚いたことは、高齢者の認知症の随伴症状にロゼレムが治療的だったことである。随伴症状とは例えば、拒薬、介護へ抵抗、看護者への暴力、興奮などである。これらの症状は、BPSD(Behavior and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれている。
患者さんがロゼレムを処方することで穏やかになり、鎮静系の薬が減量できるケースもある。この鎮静系の薬とはクエチアピンやバルプロ酸Naなどである。
これは、治験をしてもおそらく有意差が出ないレベルの変化である。認知症の高齢者の万人がそうではないし、いつも傍にいる看護師やケアワーカーが気付くレベルの変化だと思う。
このように考えると、リエゾンの総合病院は高齢者の入院患者が多いことから、ロゼレムをよく処方されていたことは合理的な選択だったと思う。ロゼレムで、夕方から夜間不穏と夜間頻尿が改善されるのであれば、看護者の仕事を減らすことができるからである。
なぜロゼレムが精神症状へ影響を与えるかだが、メラトニン受容体と関係があるように思われる。メラトニンはロゼレムとは同じではないが、不明な点が多いもののいろいろな薬理作用があると言われている。
アメリカではメラトニンがサプリメントとして売られているが、主に宣伝されているものとして、片頭痛予防、抗酸化作用、動脈硬化予防、心臓発作の予防、老化防止、育毛刺激、がん予防などが挙げられるもののエビデンスに乏しいものが多い。
上の中で比較的良く言われているものとして、抗酸化作用が挙げられる。メラトニンの抗酸化活性はビタミンEの2倍であることが証明されており、細胞膜と血液脳関門を通過できる抗酸化物質とされている。
これらのいずれかの作用あるいは未知の作用が好影響を与え、認知症のBPSDを減少させていると思われる。
草陰で休んでいるキジネコ
トリンテリックスからサインバルタへの切り替え
トリンテリックスも発売されて数年経ち、初診時にトリンテリックスが選択されることも増えていると思う。
僕はトリンテリックスは5㎎から開始することが多いが、既に他の病院で抗うつ剤の服用歴がある人は10㎎から始めることもある。基本、添付文書的には10㎎からである。
トリンテリックスとレクサプロは開始用量、最高用量も偶然同じ用量になっている。つまり10㎎から開始し最高用量は20㎎である。
この2剤の特徴は、最初の用量が既に治療用量に達していること(少なすぎないと言う意味)。従って初診時に10㎎投与されて継続し続け、一度も20㎎を服用したことがない人がけっこういる。僕の患者さんの中に限れば、20㎎まで処方したことがない人がたぶん半分くらいいる。
これは抗うつ剤に限らず、新しい非定型抗精神病薬もその傾向があり、ラツーダの添付文書には統合失調症の治療に対し、
〈統合失調症〉
通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回食後経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減するが、1日量は80mgを超えないこと。
と記載されている。統合失調症に対し40~80㎎投与し、それを超える用量は投与できない。
最初にトリンテリックスから開始した際、何らかの理由でサインバルタに切り替えたい場合、サインバルタは治療域ではない用量から開始になる。サインバルタの添付文書には、
〈うつ病・うつ状態、糖尿病性神経障害に伴う疼痛〉
通常、成人には1日1回朝食後、デュロキセチンとして40mgを経口投与する。投与は1日20mgより開始し、1週間以上の間隔を空けて1日用量として20mgずつ増量する。なお、効果不十分な場合には、1日60mgまで増量することができる。
この記載に従えば、最初は20㎎からである。この用量はうつ病を治療するには少なすぎる。もちろん長期的に安定し、20㎎でも問題ない人もいないわけではないが、今回の話は、治療開始のことである。
従って、トリンテリックスを10㎎処方していてなんらかの不都合があり、サインバルタに変更する場合、一度では治療域の処方に移行できない。
一般的にはトリンテリックス10㎎を継続しつつサインバルタを20㎎併用し、サインバルタを40㎎まで増量して、その人に良さそうであればトリンテリックスを漸減する流れになる。
これはおそらく好ましい手順的なもので、医師によると、一度にトリンテリックス中止しサインバルタ20㎎を開始する人もいると思う。もしトリンテリックスで継続できない副作用(中毒疹など)が出たのであればその方が良い。
そうした場合、トリンテリックス10㎎は十分な治療用量であることに対し、サインバルタ20㎎は治療するには足りない用量であることは重要である。
見方によると、サインバルタ20㎎は治療用量でないからこそトリンテリックスは併用した方が良いとも言える。うつ病治療の空白ができるからである。
抗うつ剤の変更の際に一時的に併用する期間があるのは、主に離脱症状を避けるためのことが多い。しかしトリンテリックスは離脱があまりないようなので、10㎎程度なら急に中止しても良さそうに見える。
トリンテリックスが切り替えの際に併用期間があった方が良さそうなのは、切り替え薬の用量が治療域に達していないことも大きいと思う。特にデプロメール、サインバルタ、イフェクサーはそうである。
最近は処方用量がシンプルになったこともあり、一時的な併用に違和感がある人がいるようである。今回の記事はそのような疑問へのアンサーになっている。
精神科はどこに行けば良いかわからないと言う話
精神科に限らず、どの診療科でもどこの病院やクリニックが良いか意外にわからないものだ。
僕も困ることがよくある。なお、過去にどこに行くか最も悩んだ診療科は整形外科であった。歯科もわからない科で、友人の間で評判の良い歯科に行くようにしていた。
今はインターネットに口コミなるものがあるが、あれはアテにならないので、信用できない。
そもそも僕が15年くらい通院した歯科は口コミは酷いものだった。その歯科医は僕が生まれて以来最も上手いと思ったが、口コミはほとんど技術的なものには触れていなかった。なお、今はその歯科医には通っていない。その理由は自費医療費が不明瞭だからであった。たぶんその歯科医は東京だと今よりずっと成功すると思う。
嫁さんはとっくにその歯科に見切りをつけたが、その理由は痛いからであった。よく、歯科医の良し悪しを痛い・痛くないで評価する傾向があるが、あれって関係なくないか?
僕は精神科医なので、痛い感覚が100パーセント歯科医のせいとはみなさず、むしろその人の疼痛の閾値とか、疼痛への脳の親和性の問題と考えるので、痛いことを歯科医のマイナス評価としない。
ただし、痛くなく歯科治療するのは1つの技術ではあるので、彼はそれを軽視しているか、あまり気にしていないのだと思う。なお、その歯科クリニックは医療費が高すぎてお金持ちしか来ない。僕が面白いと思ったのは、歯科治療をする際に、よく講義をしながらしていることである。聴いているのは歯科衛生士、大学病院歯科医、それと僕に聴かせるのも20%くらいあると思った。
そもそも病院には、ネット上の悪い口コミを訂正するサービスの営業が来る。なお、この営業を断ると悪い口コミが更に増える。(これこそ、ネット上の口コミの全てを表している)
精神科医療機関では、精神科医から見てもあそこは県内でも良いと思われる病院が普通に低評価されている。たぶん精神科に限れば、悪い評価をする人が口コミする傾向があるので、評価がおしなべて低いのはやむを得ない。それもおそらく精神科の疾患性の範囲である。
各診療科には得手不得手があり、例えば血液内科専門に行くべき人が、異なる専門の内科に行くと、深い診たては得られない。
整形外科も手術がとても上手で患者さんが集まる医師もいれば、手術はほとんどしないが仙腸関節に詳しく、なかなか他の整形外科でなかなか治療ができない疾患を得意にする医師もいる。
各診療科には更に細かい得意とする分野があると言ったところである。
時々、嫁さんの友人から精神科の相談を受けるが、市内のどこが良いかと言われるとちょっと困る。児童思春期であれば、それを専門にしている病院クリニックが限られるので比較的アドバイスしやすい。
友人の医師からの依頼は子供でもほぼ受ける。その理由は、どこか児童思春期を勧めると気持ち的に責任が生じるので、自分が診た方がマシと思うからである。
その不登校の子供はたまたまだろうが、完治して今は全く無症状になり登校している。先日、彼の病院に大腸検査に行った時、その子の経過を説明したが、「なんとなく良くわからない経過で完治した」という技術も何もない内容になってしまった。精神科の悪いところは、技術的なものが説得力を持って説明できないことだと思う。(以下の記事の後半を参照)
統合失調症とかうつ病などであれば、僕のところに来て貰うのが最も良いが、地域的にそうもいかないことも多い。その人に足がない場合、嫁さんには決して車で送迎しないように伝えている。(疾患的にキリがないので)
そのような日常の経験から、平凡な精神疾患でさえ、どこの精神科に行けば良いというアドバイスは非常に難しいことに気付いた。結局、精神科は病院より医師というのも大いにある。
ましてアメブロメールで、○○県に住んでいるが、どこの精神科病院が良いでしょうか?と言う質問が来るが、地元でさえ難しいのに良いアドバイスができるわけがない。
逆に地元の県では、行ってはいけない精神科病院とかクリニックはすぐに挙げられる。行ってはいけない精神科病院はあまりないが、クリニックだと明確なところがある。
少なくとも診療に疑問があるなら、セカンドオピニオン的に他の精神科クリニックに相談してみるのも一考だと思う。他の精神科に行くことで、今の精神科の悪い点や、逆に良い点もわかると思う。
日本の医療制度の良い点の1つは、どこの病院に行くか自分で決められることだと思う。先進国で医療制度が整っている国でさえ、なかなか専門医に行きつけない国が多い。
このようなことを言うと皆驚くかもしれないが、日本の精神科医は世界一レベルが高いと思っている。(アクセス的なものを含めている。精神科医に行きつき診療される可能性を含めて)
これは、このブログを最初から読めば明白であろう。
なにしろ、日常診療で精神科しかほぼしない医師が初診から診てくれるのである。これは素晴らしいことである。
そういう意味で、行ってはいけない精神科(あるいは心療内科)クリニックに嵌ったまま、他の精神医療を知らず良くならないのは、日本の医療制度の良さを活かしていない。
今回の記事は、嫁さんの友人の相談に乗っていた時、感じたことのまとめである。
参考
ストラテラと体重減少
ストラテラ(アトモキセチン)は、直接、体重を減少させる薬ではない。しかし、ストラテラで精神症状が安定化するにつれて、ストレスに起因する暴飲暴食が少なくなり、体重も減少することがある。今回は以下の過去ログの続きである。
彼によると、
怒りがわきそうな時、自分で気付けるようになったと言う。気持ちがセーブできると言うのである。「悪いこと言いそうだから、ここでやめておこう」という気持ちになるらしい。
この時、彼は興味深い言い回しをしている。
相手が怒っていて、(相手が)それに気づいていない時がある。自分も前はそうだった。あれは良くないなと思うので、こちらも言い方を考えるようにしている。そういう人との付き合い方になってトラブルが随分減った。
この内容を診ると、心の理論の機能はさほど損なわれていないように見える。彼はASD的所見があまりない。
そのような怒りの頻度が減ったことで、ストレスからくる暴飲暴食をしなくなり、その結果、糖尿病も劇的に良くなった。これは内科の主治医が驚いていると言う。実際、HbA1cが11を超えていたが7.8になり、体重は98㎏から85㎏まで減少している。
HbA1c値の見方だが、この数値に30を加え体温と考えると重篤さが理解できる。HbA1cが11は体温41℃なので、新型コロナでもなかなかここまでは上がらない高熱である。7.8は37.8℃なのやや高めの微熱と言ったところである。HbA1cが6後半は正常値ではないが体温では36℃台なのでコントロールはかなり良い
体重の減少幅以上にHbA1cが改善している理由は、交感神経優位(怒りの状態)そのものも糖尿病に良くないことを示唆している。
彼は診察を始めて5年目である。1年前はまだHbA1cは8台だったので、この後のHbA1c値の低下は精神症状の落ち着きが好影響を与えているように思う。
過去ログに、精神症状がまだ良くなっていない状況でダイエットなんて無理と言う記載がある。
彼は今「あまり怒らなくなったからでしょうか?あまり食べなくなった。」と言う。自然な精神症状の改善に並行して体重が減るのであれば、おそらくリバウンドも起こりにくいと思う。
参考
ネコおばさんのカリカリを待つ2匹のネコ
2匹のネコがネコおばさんのカリカリを待っている。全然、こちら向いていない。
あっ!1匹こっちを見た。耳カットの左右から、向かって左のネコがオスネコで右のネコがメスである。
ノラ猫はなんだかんだ、花よりだんごなのよ。
別場面、こちらを見上げたところ。
舌をぺろりと出した。
メスネコの方。じっと見られている。
少し舌が出ている。端正なネコちゃん。
接写しているのに普通に横を向いてしまうのが、慣れているというか地域猫だと思う。このネコは左耳がカットされていてメスネコである。
地域猫を支援するために、特定の月には安価で避妊手術をしてくれる動物病院もあるという。手術費が2000円くらい。
他のネコおばさんの話では、避妊手術は市町村から援助もあるが、不備があると全額手出しになることあるらしい。
患者さんの薬の添付文書の検索について
今はスマホが普及し、誰でも添付文書を見ることができるようになった。医師は、薬の添付文書にどのように記載されているか良く把握し、必要があれば事前に説明しておく方が良い。
例えば、ある患者さんに適応外でレキサルティを処方したとしよう。レキサルティは添付文書的には「統合失調症」しか適応がないので、本人に説明しておかないと後で患者さんが驚いたり、落胆することもある。
もし医師があらかじめ患者さんに、「レキサルティはエビリファイと同様さまざまな精神疾患に治療的」と説明しておけば無用な心配をかけずに済む。実際、海外ではレキサルティは統合失調症よりむしろ「うつ病・うつ状態」に処方されることの方が多いという。
精神科医がこの辺りの説明を十分にしておくと、患者さんに不信感を抱かれにくく、ひいてはアドヒアランスも良くなると思う。
時に精神科医は薬の説明をしないという不満がネット上で語られるが、これは歴史的なものもある。過去には、相対的に病識の乏しい疾患、例えば統合失調症や躁うつ病が多かったので、薬の説明することがアドヒアランスを低下させることがあった。
少し言い換えると、全く病識がなく服薬を拒むような患者に対し、抗精神病薬の多くの副作用を説明することは、やぶ蛇になりかねなかったのである。
元々、中核群の統合失調症の人はさほど薬に関心がなく、薬について調べることもしない。病識が欠如しているのに細かいことは考えずに服用してくれる。あれは不思議なことである。おそらく疾患と薬が全く嚙み合っていないからと思う(起承転結的に)。
今は副作用について重要なものは説明するが、ごく稀なものは説明しない。これは稀な副作用は無限にある上に、説明していると診察時間が大幅に長くなることもある。薬の説明は精神科治療そのものではないので、それらに時間を多くとられると、他の患者さんの診察時間にも影響する。
神経症でさえ、多くの副作用を説明すれば、服薬が続かないリスクになる。それは薬への不安も強いからである。
そのような理由で精神科医は薬の説明が不十分になりやすい。副作用のうち、ぜひ説明しておきたいものは、ラミクタールの中毒疹やSSRIやトリンテリックスの嘔気等の胃腸障害であろう。抗精神病薬では薬に体が合わない場合、どのような副作用が出るか説明しておいた方が良い。
以下はリリカ(プレガバリン)の添付文書である。これはスマホでも「リリカ、添付文書」で検索すれば容易に検索できる。リリカはめまい、ふらつき、眠気などがありふれた副作用だが、添付文書では稀な副作用もたくさん挙げられている。
あるてんかんの患者さんはこれを見て、恐ろしくなり服用しなかったらしい。(しかも25㎎錠)。特に重大な副作用の中で意識消失が挙げられているのが大きな理由だったようである。
なお、リリカは抗てんかん薬の1つで海外ではてんかんの適応がある国もあるし、日本で適応がないだけである。また日本でもてんかんに禁忌と記載されていない。
上の写真で劇症肝炎やStevens-Johnson症候群まで挙げられている理由は、珍しい副作用でも添付文書に記載すべきだからである。また、国や製薬会社の保身的な意味合いもある。
精神科医からすれば、その患者さんがネットで薬を検索するかどうか診察時にわかることもある。そのような時はそれなりに対応するものだ。
今回の記事は、添付文書の副作用の記載が必ずしも医療現場の感覚に沿っていないことも含まれている。
また、全ての副作用を薬を処方する度に患者さんに説明することは現実的ではないし、時間をかけてそこまでするだけの診療報酬にもなっていないと思う。
コンビニのアルバイトができる人はレベルが高い
精神疾患によりアルバイトも向き不向きがある。僕はコンビニのアルバイトができる人はポイントが高いと思う。これは、コンビニでアルバイトができる人は他のアルバイトも広くこなせそうと言う意味である。ここでは、ミスが多く店長に叱られてばかりの人はできるとは言わない。
ある日の診察中、コンビニは色々なことを覚えねばならず、同時にしないといけない業務も多いので大変と言う話が出た。
現代のコンビニはキャッシュカードや交通系パスモなど様々な支払い方法があるし(チャージも含め)、税金の支払いや住民票も取れるようになり、レジ打ちだけできるのでは到底務まらない。
ADHDの患者さんで、コンビニよりもう少し易しそうにみえる居酒屋のアルバイトで、大学生なのにミスがあまりにも多く、店長から高校生やフリーターより遥かに仕事ができないと言われショックを受け、精神科に初診した人がいる。
これは障害に由来するミスの多さと仕事の出来なさなので、治療すれば改善が見込めるタイプといえる。実際、その女子大生は間違いなく留年&退学するような状況だったが、留年を免れコンサータなどを服薬し今は役場に就職しコロナ対策の部署で忙しく働いている。(もはやコンサータは服薬していない)
ある患者さんの診察時、アルバイトは概ね同じような時給だが、どれが難しくてどれが易しいのか話し合ったことがある。
その日挙がったアルバイトは、喫茶店、ホテル、ツタヤ、スターバックス、ホカ弁の厨房などである。もっと種類はあるが、若い人たちが選びやすいものを挙げている。
喫茶店は閑散とした店なら易しいが業務にもよる。注文を取る業務では、注文を取って奥の厨房に伝えるだけなので、少なくともコンビニよりは多様性がなく易しそうである。あるうつ病の患者さんは、寛解後、のんびりした喫茶店で働いていたが、業務によるストレスはほとんどなかったという。その後、スターバックスに勤めるようになったが、少なくとも喫茶店よりは大変だったらしい。スタバは開店の1時間前には出社しなくてはならないという。
精神疾患により向き不向きはもちろんあり、ASDでは愛想よく接客しなくてはならないフロントに立つ業務(コンビニだけに限らず)難しい人も多い。社会不安障害などを合併している人であれば、ストレスで更なる二次障害を起こしかねない。そういう人は大きく悪化させるリスクのあるアルバイトはしない方が良い。
なお、アメリカのコンビニは客を客と思わないようなぞんざいな接客なので、日本人であればかなりの人ができると思う。つまりASDやADHDの人は海外の方が日本より就労できる仕事の範囲が広がると思われる。
ASDの人ないしグレーゾーンの人は、エクセルに数値を入れていくなどの単調な業務は周囲の人間関係が悪くないならできるようである。通販などの商品のクレームを扱うコールセンターは、ASDの人にはかなり大変だと思う。一方、コンピュータ・パソコン関係の電話やチャットでのヘルプ業務は対面接客がないので専門的知識があればまだやれそうである。
軽い統合失調症の女性はホテルやレストランの厨房では働けるという人がいる。これはたぶん統合失調症の婦人はそこそこ重くても料理はできる人が多いことと関係ありそうである。料理以外を同時にしなくても良いのも良い。僕の統合失調症の女性患者さんで定年まで障害年金を貰うことなく勤め上げた人は厨房で働いていたので(数回入院があるが)、多少欠陥症状があってもできる業務なんだと思う。多分、ホカ弁の厨房も似たような業務であろう。僕の女性の外来患者さんは厨房か清掃の仕事をしている人が多い。
ホテルのチェックアウト後の清掃やリネンの交換は概ねすべきことが決まっているものの、要領の悪い人は時間がかかりすぎて一緒に働く人から嫌われるのでADHDの人は向かないと思う。そういえば、温泉旅館などに宿泊すると、チェックアウト後の清掃の人に東南アジア出身の女性をよく見る。ホテル・旅館業界で積極的に採用しているのかもしれない。
統合失調症の人は役場やショッピングモールなどの清掃の業務に就いている人も結構いる。清掃は業務の多様性があまりないのが良いのだろう。
ある日、歯科に行った際、トイレのウォシュレットが壊れており、たまたま近くにいた掃除のおばちゃんにそれをつたえようとした。向こうを向いていたので呼びかけた際、ぱっと振り向いたら、ひとめ統合失調症の患者さんで、しかも軽くはなかった。彼女は返事をする際に奇妙な顔つきをし、また独語もあり、話が通じたかどうかも不明であった。高齢のようにも見え、このレベルで掃除の業務をしているのは凄いと思った。これを見ても、清掃はコンビニの仕事に比べ遥かに難易度は低い。しかしその患者さんたちに指示し、一緒に清掃をするリーダーの人(この人も統合失調症)によると、能力がかなり低い人が来るので大変なんだそうである。
このようなことから、コンビニでアルバイト歴があり、店長や同僚から叱責や注意を受けることなくこなせる人は、接客ができ社会性もある程度の水準にあり、さまざまな業務もそつなくこなせることを示唆していると思う。
参考
現在の外来の高齢統合失調症の話
30年くらい前と現在の統合失調症の外来患者さんの精神症状の違いについて。特に高齢者の人。
今は統合失調症の様々な精神症状が残遺し、昔であれば長期入院治療をしていた患者さんも外来で治療していることが多くなった。
外来治療で対応できるようになった要因は、グループホームなどの療養環境の整備が大きい。また精神科病院やクリニックからの訪問看護やデイケアなども貢献している。
昔、多くの若い統合失調症の患者さんが単科精神科病院に入院していた時代は、彼らの受け皿になるような社会資源が乏しかったのも大きく関係している。
今は外来患者さんのうち相当に重い人も地域で生活している。ところが、最近気づいたことは、新規にこのタイプの患者さんが増えてはいないこと。
今の70~80歳代の統合失調症の外来患者さんたちは、退院後行き場がなく社会的入院だった人たちがグループホームやアパートに退院し外来患者さんになった。それ以外の人もいないわけではないが多くはなかった。
彼らが一巡してグループホームやアパートに退院した後、その少し下の世代は生活歴や現病歴の相違から、そういう流れになっていない。
少し若い世代、40歳代~50歳代の人は長期入院の経験がなく、自宅かアパートから通い、グループホームに入所した経験がない。また、その世代はグループホームに入所することを嫌うことが多い。
その大きな理由はグループホームはアパートでの独り住まいと異なり、プライベートの部分が損なわれることが大きい。彼らは実家かアパートに住んでいるが、しばしば家族との折り合いが悪いなどからアパートで単身生活している。
つまり他の人と共同で生活することに慣れていない。
今の患者さんは統合失調症の人に限らないが、4人部屋や2人部屋に入院することもストレスになるようで1人部屋を希望する人が多い。また入院後、皆と一緒に大浴場で入浴することを嫌う人もいる。
従って近い将来、統合失調症の人の精神症状の平均的な軽症化に伴い、昔風のグループホームは入所者が少なくなるか、入所者が変わっていく可能性がある。
今回のタイトルは年配のグループホームに入っている人たちの長期予後について触れようと思っていた。
昔は、統合失調症の人は高齢になると次第に症状が軽くなり、若い人のような劇的な悪化が少なくなると言われていた。ところが、今の統合失調症の人の平均寿命が延びてきているので、高齢ならではの問題が生じている。
まず、グループホームに退院する患者さんは、ずっと精神病院で生活する人より遥かに軽いレベルなわけで、そこそこ安定している人たちである。それでも全く陽性症状がないわけではなく、高齢化に伴い様々な問題が生じてくる。
僕は統合失調症の人でも脳による制御能力のようなものが衰えてきて、船で言えば大きく傾いたときに、それを正しい位置に揺り戻せる能力が乏しくなってきているのではと思う。
つまり、悪化した際に自己の脳で回復する能力がかなり衰えてきて、入院したとしても長期入院を要してしまうのである。
従って、統合失調症は高齢になると軽症化すると言うのは事実かもしれないが、現在、統合失調症の患者さんも平均寿命が延びてきて、昔とは異なる高齢に伴う精神病の悪化と身体状況の悪化の問題が起こってきているのである。
今回の話は続きがある。(統合失調症の患者さんの収容の話)
参考
統合失調症の患者さんの収容の話
時に60歳くらいの統合失調症の患者さんが生まれて初めて精神科に受診し、そのまま入院になることがある。このような人は大抵、発病年齢が遅く、悪い精神状態であっても家族が病院に受診させられなかった人が多くを占める。
10年以上前、役場の精神科無料相談を手伝っていた。そのような相談の中に、家族が何らかの精神病を発症しているが、精神科病院に連れて行けず苦悩しているのを診ることがあった。
しかも、「病院になんとか連れて来れれば僕が治療しましょう」とまで言っても、実際に治療に行きつける人は10人に1人もいなかった。この無料相談を辞めた理由の1つは、精神科治療に繋がることがあまりに少なく、苦労の甲斐がないと思ったからである。
このような人たちは無治療のまま年齢を重ね高齢者となっていくのであろう。以下はヤフーニュースから。
この事例は今回紹介した世代よりかなり若いが、記事のように亡くならない場合、おそらく数十年、無治療のまま自宅に引きこもりだったはずである。この事件はなぜ支援を受けなかったなど、よくわからない点が多い。
今はたまにリエゾンで同じような状況の人たちに遭遇する。何らかの精神疾患があり骨折などの身体疾患で偶然入院し、リエゾンで相談を受けるケースである。身体科の主治医は、患者さんの奇妙な点に気づき、精神科的評価を希望しリエゾンで初診させたのである。このようなパターンは身寄りがないか、家族と疎遠になっている人たちが一定の割合でいるが、家族から精神科に受診させてほしいと希望し受診するケースもある。
このような人たちの背景疾患は、今は統合失調症より発達障害(ないしグレーゾーン)の人が多い。
基本的にある程度、疾患親和性がないと「引きこもり」のみで統合失調症にはならない。これはある意味重要だと思う。また精神科医的思考でもある。
僕の感覚では、引きこもりは更に重い精神病の発症を遠ざける要素があるので、統合失調症の人が稀なことはなんとなくわかる。引きこもりはある種の防衛機制なのであろう。従って上のヤフーニュースのレベルの重い精神症状の人は、国内にいるのはいるが稀なケースだと思う。(ある種の特殊な座敷牢事件)。
男女の差は重要で、女性患者さんの方がまだ高齢の家族が精神科病院に受診させられるハードルは低い。男性患者さんの場合、体力があり暴力的だと家族だけで病院まで連れて来ることはかなり難しい。
何らかの身体的疾患などの機会に家族が本人を騙して連れて来ることが多いが、初診時に絶対入院させないといけない精神症状レベルにあることが多い。なぜそう思うかと言うと、初診日に外来だけで家に帰してしまうと、再び精神科病院に連れてくることが困難になりかねないからである。つまり今後、精神医療にアクセスするチャンスが失われる。
その視点では、家族が初診でクリニックに受診させるのは非常にまずい。それは同日入院の選択肢がほぼ取れないからである。
そのようにクリニックに1回の受診後の治療がつつかず、その後10年以上経ち、僕が初診日に入院させた人がいる。その人は初診時にひとめ統合失調症で、入院後の治療に難渋した。治療的には最終的にロナセンが良かった。ゼプリオン筋注まで実施したのに、結局それを中止し、ロナセン単剤で良かったのは意外であった。持続性抗精神病薬を選択した理由は、病識が完全に欠如しており、退院後、服薬してくれるかどうか不明だったからである。
60歳くらいの女性でさえ、入院させると奇声や興奮、奇妙な行動など多彩な精神症状があり、よくこんな人を家族が家でみていたと思うものだ。
このような悲惨な経過は家族にも一部責任があると思うが、基本、人権の視点から、公的機関もそこまで踏み込めないのが実情である。医療保護入院は医師だけの判断ではできないことをみてもそれがわかる。自傷他害がなく家族が入院させるつもりがない場合、たとえ本人にとって最も良い選択肢だったとしても、入院治療させる目的で措置入院にするのは違法である。この「本人にとって最も良い選択」とは、法律的にはパレンスパトリエの思想に基づく。
昔はもう少し人権の面でルーズで、病院に患者さんの家族から依頼を受け、しかも一刻も猶予がない状況では(殺人事件がおこりかねない時)、病院車で看護師や精神保健福祉士(まだ国家資格ではない頃)を同伴し、家まで行き大変な騒ぎになりながら入院させていた。実際、機動隊まで出動し、どう考えても空にヘリコプターでも飛んでテレビ中継でも行われてもおかしくない収容でも、翌日、新聞をみると記事にすらなっていなかった。
当時、日本では、このような移送が社会防衛の視点で行われていたことが想像できる。(上記のリンクカードの中のポリスパワーの思想)。
現在は、収容時に職員に大怪我や死亡などが起こりかないので、初診の人を職員を同伴して収容させることはない。
このタイプの収容は、病院職員の死亡や大怪我だけでなく、収容する際に患者さんが様々な理由で死亡するリスクがあり、現代社会では容易ではない。(万が一そうなったら裁判でも勝てない)。
最近のよくある収容の流れは、家族に暴力を振るうなど暴れた際に、警察官を呼び、警察官により精神病院に連れて来られるパターンである。深夜の輪番だとそのパターンが頻度は低いが一定のパーセントであり、精神症状的にその日に医療保護入院になることが多い(もちろん措置入院になることもあるが、この流れでは大抵医療保護入院)。移送はもちろんパトカーである。
最近困るのは、このような人は発熱していることもあるし、発熱がない場合でも新型コロナが否定できない際、PCR検査がわかるまで収容する場所があまりないことである。精神科病院では保護室を利用することが多いが、たまたまその日、入院してに同じ理由で使っている人がいたりで対応に困ることもある。
一方、既に外来治療中で、悪化したら家族が連れて来れないタイプの患者さんは悪化の状況がわかりやすい上、患者・職員がお互い良く知ってるため、大きな問題が起こりにくい。
そのような人は、うちの病院でも10年くらい前まで職員を連れて自宅まで収容に行っていた。今はそこまではしないが、全国的には病院によればそこまでしてくれることもある。
現在、法律が改正されて、近い将来、医療保護入院がなくなるのでは?と言う噂があった。現況、次の改正ではなくなることはないと言われている。医療保護入院がなくなると、治療を受けるべき時に治療ができない人たちが出て来る。
困るのは精神科病院ではなく、当事者の家族である。今回の記事を見ればそれが容易にわかると思う。
参考
こちらを見上げるキジネコ
便秘薬系の漢方薬が不足していること
新型コロナ感染者の激増した時期、カロナールやロキソプロフェンの不足が報道されていたが、その影響が漢方薬にも及んでいる。元々、ジェネリックの問題と漢方薬には関係がない。漢方薬は生薬をもとに製造されているからである。
例えば、ツムラ桃核承気湯61、防風通聖散62、大建中湯100などが安定的に入って来ず、しばしば欠品になっている。
特に西洋薬の去痰剤が不足しており、そのため風邪症状に有効なツムラ葛根湯1,ツムラ小青竜湯19、ツムラ麦門冬湯29などが多く処方されているらしい。その結果、製薬会社も生産ラインをそちらに振り向けなくてはならず、相対的に必要性が低い便秘薬は製造されなくなり不足している。
なぜなら、便秘薬は西洋薬にも良い薬が多いからである(つまり簡単に代替できる)。
現在、風邪症状に対する漢方は、ツムラ1が不足しており、オースギ1を処方している。(実質同じもの)。ツムラ29などは増産しているためか入荷が滞っていない。
便秘薬系の漢方薬もオースギに代替している。処方箋を書き換えなくてはならず、雑務が増えるといった感じである。
このような状況はしばらく続きそうである。
新型コロナ罹患後のブレインフォグとBスポット療法
過去ログに不登校に対する鼻咽腔クロールチンク塗布療法の記事をアップしている。これは2007年6月にアップした記事である。
なお、鼻咽腔クロールチンク塗布療法はBスポット療法とも呼ばれている。
新型コロナ感染症の後遺症は全身倦怠感などを伴うことが多く、慢性疲労症候群に似た所見がみられる。
このような症状を呈している患者さんには、抗うつ剤やリリカ、タリージェなどを処方することが多いが、発症の機序や臨床所見的に鼻咽腔クロールチンク塗布療法も期待値が高い治療法だと思われる。とりわけブレインフォグには効きそうである。
鼻咽腔クロールチンク塗布療法の良い点は、例え効かなかったとしても、この治療による副作用はほとんどなさそうなことだと思う。施術時に痛いだけだが、Bスポット療法は痛い人は有効率が高いと言われており、痛いことは治療反応の一部と言える。
近年、反ワクチン考え方をする人々の間に、イベルメクチンを神薬のように崇める思考がみられるが、エビデンスがなくリスクもある。
うちの病院に来た新型コロナ後遺症の患者さんもわざわざネットで調べて、イベルメクチンを適応外処方してくれる医院を探しだし、県外まで行き処方してもらい服薬していた(もちろん無効)。
以下は参考になるツィートである。
イギリスでも同様の話があったが、アメリカで新型コロナ後遺症で働けなくなった人が最大400万人に上るとのこと。コロナ研究に携わる研究者・医師が必ずと言っていいほど「後遺症の治療が確立するまではできるだけ感染しないで欲しい」と訴えるのには理由があるということかとhttps://t.co/bCGEId5E20
— TJO (@TJO_datasci) August 27, 2022
以下はイベルメクチンを多く飲みすぎたことをきっかけに、体調が著しく悪くなった事例である。無効だったら、まだ良かったと言えるほど。
イベルメクチンを飲んで文字通り全てを失った。
— 権田権太 (@gondagotta) April 22, 2022
以下はBスポット療法と直接関係がないが、発想に共通点がある。この経過も参考になると思う。
娘のこと。
— 西智弘@川崎医師 (@tonishi0610) October 10, 2022
今年春ころから体調が悪くなった。コロナワクチン2回打ってなお、COVID-19に罹患してからだ。
頭痛がひどい。夜眠れない。そして朝起きれなく、腹痛もあって食欲もない。
あんなに入学を楽しみにしていた中学校も、すぐに休みがちになった。
※本人の了承を得て投稿してます
以下に書かれているように、反ワクチンとイベルメクチンはセットになっている。
反ワクチン、空間除菌、イベルメクチン、ワクチン後遺症あたりは基本的に全部セットですが、トップが強烈な反ワクチン派だと、打つ権利すらも、捻じ曲げられてしまう。
— インヴェスドクター (@Invesdoctor) September 28, 2022
ワクチン接種券「5~11歳の努力義務」後も一斉配布せず 大阪府内で唯一泉大津市が従来の方針継続 https://t.co/D1eXlKPuG2
おわり。
最近、クリニックに行くような患者さんが単科精神病院に来る
最近、クリニックに行くような新患が、単科精神科病院に来るようになった。これは色々な意味で興味深い。
患者さんがクリニックに初診しようとすると、予約になりしばらく待たされることが多い。「来月の〇日に来てください」くらいならまだ良い。先日初診した婦人は、「年内は予約が難しい」と言われたそうである。
うちの病院は数年前は、病院に来た日に初診で見ていたが、今は収拾がつかないとか、医師により新患患者数に偏りが出るなど不公平になるため予約制にしている。基本、電話で予約受付をするが、運が良いならその日の午後に初診できる。待っても1週間以内である。
どうしてもその日に診てもらいたい、という希望があれば、僕はなんとかその日に診るが、その希望は受けいれられない病院の方が多い。なぜ、その人を診るかと言うと、そこまで言うからにはかなり悪いかもしれないと思うから。実際には、しばらく休みが取れないなど普通の理由のことが多い。(これもクリニックの患者さん的)
結局、クリニックにかかりたいと思う人でも、単科精神科病院にかからざるを得ないというのが実情である。
クリニックと単科精神科病院では医師数に大差があり、クリニックは新患が押し寄せると、新患予約が滞り、予約は出来ても今なら来年になるのであろう。また、クリニックはもはや新患は診ず再診だけ診ているところもある。これはクリニックの収益や体調を勘案してそういう方針のような気がする。(日本は累進課税なのでその考え方になりやすい)。再診患者さんを日々のんびり診ているのと、新患も診て疲労困憊するのを比べると、その労力たるや大差である。
クリニックの医師はたぶん単科精神科病院より遥かにストレスフルなので、診療中に体を壊し閉院するケースが少なからずある。
うちの病院の近所でも、おそらく健康上の理由で閉院したり、夜逃げしたり、経営者(医師)が変わっている。夜逃げ?は何なんだと思うかもだが、僕の診立ては、ヒステリー遁走(解離性遁走)ではないかと。その根拠はその医師がいなくなる前に、僕に到底、精神科医とは考えられない奇妙な紹介状が多々来ていたからである。
クリニックに初診する場合、将来、閉院になる可能性も視野に入れておくべきだと思う。これは何に関係するかと言えば障害年金である。初診の精神科ないし心療内科クリニックが閉院している場合、後で困ることになる。
他、単科精神科病院のハードルのようなものも、以前よりずっと低くなっていると思う。
精神科受診することはやはり気持ちに抵抗がある人も多く、かなり悪くてもなかなか精神科にかかる決断ができない。結局、悪化が極まってギリギリで受診するため、その日にはクリニックが良いなど言っておれないのだろう。
ここ数年で市内にも何軒も精神科ないし心療内科クリニックが新規に開業している。自宅の近所にも歩いて行ける場所(400㎎以内)に開業しているが、医師の名前をホームページで確認したら、全然知らない人だった。僕の大学の同門の後輩かも?と思い、名簿を調べると、そこにも名前がなかった。
そのようなことを考えると、どこのクリニックもすぐに受診できないなんておかしな話だと思う。
以下は、2006年にすみ分けのようなもの記載した記事である。(現代風には少し内容的に不足している)
リエゾンで診る不穏状態と経過中の身体的疾患について
リエゾンでは入院後に生じた不穏状態をなんとかしてほしいと言う依頼が多い。例えば、施設入所中に誤嚥性肺炎を起こし内科に入院したが、入院後から興奮、大声、不眠などが続いているなどである。
このような不穏状態の起点となる疾患は肺炎、脳梗塞(出血)、癌、骨折(特に大腿骨頚部骨折)などが挙げられるが、ほとんどの不穏状態は、気分安定化薬、抗精神病薬、抗うつ剤、認知症薬、眠剤などで収束することが多い。
中期的には服薬していた向精神薬も中止できることが多いが、その理由は基本、脳には何もないケースが多いからである。そういう理由で急性期に少し増えた向精神薬は中止できないとしても減量し身体面に支障がないレベルにすべきだと思う。
たまに初診時にリスペリドン1㎎が処方されっぱなしの老人を診ることがあるが、上のようなエピソードの際に、処方されたままになったためである。このような処方は誤嚥性肺炎の原因になる。
不穏状態も精神科治療で短期~中期的には落ち着くが、少なくとも退院まではさほど減量できず、なにがしか向精神薬を服薬しているケースが多い。その理由は内科病院はルール的に長期入院が難しいからである。(早めに施設や家庭に退院させる)
先日、リエゾンをしながら気付いたことは、リエゾン初診時に処方された薬は、何らかの身体疾患が加わることで、中止できる経過になることが稀ならずあること。
例えば、大腿骨頚部骨折で入院後、興奮、不眠、介護への抵抗などが生じた女性の高齢者がいたとしよう。
この患者さんの症状性精神症状が改善し何らかの処方を継続している途上、更に偶然に肺炎を罹患し、向精神薬がゼロになる経過が診られることがある。
このような経過は身体疾患と精神症状の関係について、重要なことを示唆していると思う。
そもそもリエゾンで相談を受けた時、身体疾患がトリガーになり精神症状が生じている。これは重要である。言い方を変えれば、身体疾患がもしなかったら、その精神症状は存在しなかった。
一方、いったん収まった後に身体疾患を生じ、服薬するどころではない身体状況に至り薬を中止する(せざるを得ない)。
その身体疾患が収まると、あら不思議、何も向精神薬を投与しないでも、すっかり精神症状が落ち着いているのであった。
まず侵襲の大きい身体疾患は回復過程で基本「うつ」に向かわせる傾向があるのは重要である。
例を挙げると、コロナ感染症の後遺症。これは過去ログに記載しているが、ある村でインフルエンザが大流行し、多くの人がうつ状態、うつ病に至った話(論文)が非常にヒントになる。
高齢者に自殺が多い理由の1つは、あらゆる身体疾患に罹患しやすく、その経過でうつ状態になりやすいことも関係していると思う。
このタイプの身体疾患が鎮静的な方向に導くとしたら、何らかの興奮性の精神症状が、身体疾患を契機に改善してもおかしくない。
これは一見、塞翁が馬的な経過だが、良く考えると十分にサイエンスだと思う。元々、塞翁が馬の故事はどちらかというとオカルトと言うか偶然性の面白さを言っている。
また、最初リエゾンで紹介された瞬間は環境変化も非常に関与しているように見える。
そう思う理由は、その患者さんは家庭や施設内で骨折や嚥下性肺炎が起こり、病院に入院という全く異質な環境に放り込まれているのである。ICU症候群など同じようなことが言える。(環境要因)
ところが、既に入院中に別の身体疾患が生じた場合、この劇的な環境変化を伴わないので、紛れが少ないのであろう。つまり、精神症状の発症要因の1つがないといったところだと思う。
その視点では、身体疾患での入院時の不穏状態は、環境要因の部分がけっこう大きいと診ることも可能である。
リエゾン治療中の更なる身体疾患が加わることは、ある種のリフレッシュでもある。
そう思う理由は、そのような経過でその患者さんが見違えるほど優しくなった(介護しやすくなった)と、家族や施設職員に良い評価をされることが稀ならずあるからである。
これは向精神薬の役割(薬理作用)と良く分離できないこともあるが、全く薬を止めてしまっているのに、時々そういう経過になる人もいるので、おそらく身体的エピソードが脳に影響し、何らかの良い方向に導ているのであろう。(子供の頃から父を見ていますが、このように穏やかな父は僕が生まれてから初めてです、と言われたなど)
そう考えるとなんとなく辻褄が合う。
脳と身体疾患の関係は謎が多い。
患者さんの家族から薬を部分的に止めてほしいと言う希望
タイトルのように部分に薬を止めてほしいと言う希望(依頼)は、精神科外来でもあるしリエゾンの時にもある。以下は精神科外来とリエゾンを分けて記載する。今回の記事は主に統合失調症と躁うつ病を対象としている。
精神科外来でそのような希望がある時、家族から見て一部の薬を止めることで本人の症状が良くなったという評価が多い。例えば就前の薬のうちクエチアピンを飲まないと、翌朝の眠さがあまりないなどである。あるいは、特定の薬を飲まない方がイライラしていないと言うものもある。
患者さんたちが処方通り飲んでいる確率は、時間が経てば経つほど低くなる。これは統計的にもそうである。そのような経験から、その経緯の悪化を避ける目的で持続性抗精神病薬が処方されている(例えばエビリファイLAI、ゼプリオンなど)。
統合失調症や躁うつ病の人たちにとって、服薬遵守できるかどうかは予後に大きく関係する。
一部の薬を止めたいと希望された時、その薬がいかなる薬なのかが重要である。例えば、中止してほしい薬がフルニトラゼパムやデエビゴであればほとんど問題ない。服薬を止めても睡眠に問題がないならなおさらである。
少なくともフルニトラゼパムなどの眠剤は統合失調症や躁うつ病治療の主剤ではないので、なくても大丈夫であれば中止されやすい向精神薬と言える。実際、統合失調症や躁うつ病の人の眠剤の増減は良く行われている。
統合失調症の人でバルプロ酸Naを服薬している人で中止してほしいと希望される場合、主剤ではないので中止しやすい。統合失調症へのバルプロ酸Naは補助的な処方なので中止して様子を診る方法も一考だが、それまで800㎎くらい服薬している人は急に中止せず漸減した方が良い。一般に、抗てんかん薬は中止する際、漸減することが普通である。特殊なケースの中毒疹や悪性症候群の際に、急に中止するのはやむを得ない。
実際には家族がそのような中止の希望をする時は、その薬を既に服用していないことも稀ならずあるので、そのまま中止して経過をみることになることが多い。
最も困るのは、「その薬を止めたら、何も治療していないと同じ」と言った薬を止めてほしいと希望される時。
例えば、統合失調症のオランザピンやインヴェガなどである。これらは止めた直後は、薬の重さから解放されて周囲からも元気になったように見えることも普通にある。しかし統合失調症では、主剤とされる抗精神病薬を止めた時、中期的には悪い経過になることが多い。これは統計的にもそうである。
しかし家族がそこまで言うからには、家族から見て本人の状態が理想的ではないことは理解できる。僕はどうしても抗精神病薬が必要と思える時、この機会に他の抗精神病薬に切り替えを提案することが多い。
例えばオランザピンからシクレスト、オランザピンからラツーダなどへの変更である。
一般的に長年服用している主剤を他の薬に変更した際、うまくいかないことの方が多い。変更してより良くなる期待値はそう高くはない。その理由は、今の非定型抗精神病薬はそれぞれ個性が強いことも無関係ではない。
2剤併用で1剤だけ中止したいという希望がある時、単剤でしばらく様子を診るのも一考で、実際そのようにする医師も多いと思われる。その際、バランス的にもう1剤はいったん少し増量すべきケースも多い。
薬の減量や変更は時に著しく悪化し、入院治療に至る経過も視野に入るため、単科精神科病院の方がまだドラスティックな変更をしやすい。クリニックの場合、安全性を重視されやすく、毎回受診しても何年も全く処方が変わらないと言うことが良く起こる。これは悪化した際、入院施設がないと後が困るからである。クリニックでは、統合失調症の患者さんは悪化を恐れてデフェンシブな処方になりやすい。
結論的には、統合失調症や躁うつ病の人たちの一部の薬の中止の希望が受け入れられるかどうかは、
1,いかなる薬を中止したいのか?
2,その時の病状はどうなのか?
3,単剤なのか2剤併用なのか?
4,通院しているのがクリニックなのか単科精神科病院なのか?
などがパラメータになると思う。僕は家族が、「もしかしたら、この薬をむしろ止めた方が良いのでは?」と思ったら、ぜひ主治医に相談した方が良いと思う。家族の判断で主治医に伝えず、こっそり中止するのは良くない。
例えばオランザピンを処方されていて本人が全然服用していない(家族も知っている)ことが、ずっと後になってわかることがある。処方薬は捨てられるわけで、単に医療費の無駄である。
なぜ処方をそのまま服薬してほしいかと言うと、悪化を避けることもあるが、その人がどのくらいのボリュームで良くなるか把握したいことも関係している。その人の必要量の絶対値のようなものである。
個人差は大きく、真の統合失調症の患者さんでドグマチール50㎎だけでほとんど精神症状が落ち着いている人がいる。これは最初ウソかと思ったが、実際、僕が治療してみるとその通りだった。50㎎だけ飲むだけで、表情や妄想などが段違いに改善するのである。この話の重要ポイントは50㎎のドグマチールは、健康な人でも普通に服薬でき、ほとんど副作用が出ない用量であること。胃薬で150㎎服薬している人がいるのに。
リエゾンの場合、主治医を離れたので総合病院の精神科医に症状と薬を評価してほしいと言う流れが多い。つまり本当にその用量が必要なのか家族が疑念を持っているのかもしれない。
統合失調症や躁うつ病の場合、その処方に至った経過が不明なので、たとえ用量が多いように見えたとしても用量の変更は難しい。そもそも総合病院入院中に処方を変更して悪化したら一大事である。
老年期の精神障害はうつであれ幻覚妄想であれ、この機会に変更するチャンスではある。中止できそうな薬は中止する。例えば、老年期のうつ病で、漫然とリフレックス(ミルタザピン)30㎎が長期投与されていたとしよう。その用量でかなり精神症状が悪い時、中止して他の抗うつ剤を処方した方が良い。例えばサインバルタなどである。今の内科外科系の総合病院では適応範囲が増えたため、サインバルタは普通にある。
また、意味不明の用量の認知症系の薬が入っており、しかも止めた方がむしろ良くなるのでは?と思える薬などは中止する。例えばアリセプト(ドネペジル)などであるが、意味不明とはなぜか10㎎も処方されていたりすることを言っている。
自分が知っている人のリエゾンはまさに人間模様だと思う。かつて自分の病院に通っていたことがあり(僕は主治医ではない)、体調不良で内科の主治医が評価してほしいと希望されたが、転院後、なぜかパキシルCRとセルトラリンが最高量処方されていた。もっと驚いたのは、同時にリスパダールが12㎎も処方されていたこと。
これは体調不良になってもやむを得ない。病院に戻り、その女性患者さんのカルテを調べたところ、以前はベンゾジアゼピンとクエチアピンとミルタザピンくらいしか処方されていなかった。いかなる経緯でこの処方になったのか不明だが、少なくとも、この場面で僕のすることはない。短い入院期間で、また今の精神科の主治医に戻ってしまうのである。この瞬間に減薬しても意味がない。
このような事例は結局は以下の記事に行きつく。
まとめ的には、もし一部の処方を減薬してほしいと思った時、遠慮なく主治医に行った方が良い。もし減らしても問題ないなら減薬されるが、主治医から継続した方が良いと言われた時は、それが正しいことが多い。
これは奇妙な処方をされていると思う時、他の精神科病院やクリニックに相談に行くのも一考といったところだと思う。
救急車で搬送されてきた高校生(1)
今回の記事に出て来る女子高校生は過去ログに一度も触れていない。触れなかった理由はいくつかある。随分前の治療経験である。今回の記事は長くなるためいくつかに分割してアップしたい。
その日、その患者さんは落ち着かず、家族も手におえない状態に至り救急車を呼んだ。精神科に受診することになったが、どこも受け入れてくれず、うちの病院が4番目だった。救急隊員により病院に搬送された際に、主治医はプレホスピタルレコードと言われる複写式の1枚紙に記載しFAXすることになっている。その記録によれば、入電を受けて3つの病院に連絡し断られ、やっとうちの病院に搬送されている。入電後、病院に到着したのは1時間半後だった。
搬送された時の症状は奇妙なものだった。最近からおかしな行動あり、その日入浴後、服を着ることが出来ず家族も着せさせられない状態だった。不安感やイライラ感が強く、突然、テーブル上の物を全て払い落すようなこともあったという。
初診時は明らかに統合失調症ではなかった。ただし幻覚はあってもおかしくはなく、緊張病症候群の軽いレベルではないかと思った。その日、入院を勧めた際に本人は嫌がっていたが、入院したまま通学するというバーター取引で任意入院となった。
入院後、数日、何も投薬せずしばらく様子を診ていた。独語があったり、朝起きてから「やめて」「嫌だ」「違う」などと言い興奮している際に、ナースが背中をさすりなだめていると、あたかも空にいる人と話しているような幻覚があるようであった。
確かにおかしな行動があるし、経過的には(例えばこの事例が国家試験の臨床問題としても)、統合失調症が十分に疑わしいが、本人を診ると、明らかに統合失調症ではないのである。このギャップは重大である。
逆に統合失調症を鑑別診断から排除すれば、転換型ヒステリー、広汎性発達障害や謎の器質性疾患から来る異常体験の可能性がある。また複雑な症状の強迫性障害も除外できない。統合失調症の近縁疾患としては急性一過性精神病性障害ICDコ-ド(F23)などが挙げられるが、この可能性は低いような感覚があった。統合失調症(F20)と急性一過性精神病性障害では大違いである。なお、このブログ的にはヒステリーは器質性疾患である。以下は2008年の参考記事である。
入院後、4日目に、幻覚があるようなのでセレネース液を1㎖だけ処方している。このセレネース1㎖はセレネース2㎎に相当し、リスペリドンであれば1㎎程度である。
本人は、家より病院の方が落ち着けると話していた。セレネース液は1㎖程度なら服薬できるが、本人はどのように効いているわからないという。セレネース液を1㎖服用して授業に出ると、黒板の字が見にくいと言っていたことや、彼女には長期的には良くないと思ったので10日間で中止している。そして興奮、イライラ時にどうしても悪い時に頓服で飲むように伝えている。黒板の字が見にくいのはセレネースの副作用である。
入院中、1度外泊を試みたが、奇声はあったもののなんとか家でやれそうだった。そこで、短期入院に留め処方は外来で考えることにした。従って退院時処方はなかった。もし主治医が統合失調症と思うのなら、このような判断はあり得ない。
14日間の入院でわかったことは、彼女の症状は妄想気分のようなあたかも内因性疾患のような症状があるかもしれないが、明らかに統合失調症ではないことだった。また忍容性もあまり高くないこともわかった。
退院後、なにがしかの抗精神病薬を処方した方が良いと思われたため、ロナセンやエビリファイなどを順番に処方してみたが、パッとしたものはなかった。レキソタンなども試みている。
一応、退院直前に脳神経外科に相談しCT、MRIなどの器質異常を精査したが何も異常所見がなかった。
本人によれば雑念のようなものに襲われて、何もできなくなり、怖くなるという。時々、頭の中に言葉があらわれて離れないらしい。周囲から見て明らかに強迫性障害を思わせる行動はなかったが、どれに近いと言われれば「幻覚を伴うタイプの強迫性障害」くらいだと思った。
これは臨床感覚なのでうまく説明できないが、この強迫性障害があるからこそ、統合失調症に至るのを阻んでいるのである。このような考え方からすると強力な薬物療法は不適切で、のらりくらりとした処方の方が良さそうである。初診時に統合失調症ではないという診たては、その後の治療方針に大きく影響する。
上の記事の中には以下の記載がある。
僕は長く精神科医をしているが、患者さんを初診で診始めて、それから統合失調症が発病してしまったという経験が1度もない。初診で診たときは、まだ統合失調症が発病しておらずそれからも発病しないか、最初に既に発病していたかのどちらかなのである。
この記載からすれば、この女子高生は今後、統合失調症にはならないということになる。
(続く)