救急車で搬送されてきた高校生(1)の続き
退院1か月目にはエビリファイ3㎎とレキソタン2㎎だけ処方していたが、あまり効いている感じはなかった。しかし、彼女によると入院前より良いという。(効かないけど良いという評価)これは、入院と退院後に「あれこれ処方を変更したこと」が良かったのではと思った。
上の記事から抜粋。
今から考えると、あの時の治療はいろいろ処方変更して際限なく試してみるという「ある種の治療リズム」が良かったんだと思う。サッカーで言う「単調なパス回し」とか「玉離れの良さ」などと呼ばれるものである。そういう視点で見ると、このブログの過去ログでも良くなった人の中には時々、そのような処方変更が見られている。
なお、上の記事の少年と今回の記事の彼女は病態はかなり違うように見えるが、近縁に位置する疾患だと思う。ただしリンクカードの少年の方が遥かに重い。
ラミクタールなども試みたが、あっという間に中毒疹が出現し脱落。精神科薬物療法的には、「統合失調症ではないから抗精神病薬は不適切」とはならない。薬物療法は対症療法だからである。当時、PZCやクエチアピンやリーマスなども試みたが、本人によると若干PZCは良いという。
いろいろな薬を試みた結果、多少でも良いと思われた薬をしばらく続けたり中止したりしていた。強迫性障害近縁なのでアナフラニールくらいが主剤になりそうであった。
いろいろな組み合わせで治療しているうちに受験が迫ってきていた。彼女は病状の悪い時期、あまり登校できていなかったが、一般的な学童期の不登校とは異なっている。それは明確に精神症状が重すぎたために出席できなかったからである。
卒業間近に、アナフラニール20㎎、クエチアピン12.5㎎、レニベース5㎎、リボトリール0.5㎎のいずれかの組み合わせの処方に落ち着いてきた。例えばアナフラニール+レニベースなどである。
この雑多な少量併用処方は過去ログにも多く紹介している。このようなゴチャゴチャとした処方が良いのである。この中ではレニベースを適応外処方していることが普通ではないところである。彼女の話が記事にならなかったのはレニベースを主剤の1つにしていたことも関係している。
僕は長いこと、なぜ彼女にレニベースを処方していたのか思い出せないでいた。レニベースを処方したからにはなんらかの理由があるはずであるが、それが思い出せないのである。つまり、今はそのような適応外処方はしていない。しない理由は、その後、多様な向精神作用を持つ薬が発売されたことも関係している。
ところが、この半年以内であるが、偶然、精神科治療学という精神科雑誌で持続性アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害薬)の精神科治療の記載を見た。どうやら、何らかの論文の記事を試みたようでなのである。全く意味なく処方したわけではなかった。
これらの処方で日常の恐怖感や奇妙な異常体験や行動が軽減し、皆と一緒に授業が受けられるようになった。入院するまでは登校してもやっと保健室登校だったが、彼女は朝課外から出席できるようになった。この朝課外とは1時限が始まる前の授業である。
僕の高校時代、この朝課外のために朝早起きせねばならず、身体の負担になるので参った。結局、途中で拒否したので僕はあまり朝課外には出席していない。当時の地方は予備校などがあまりなかったので、朝課外は多くの進学高校で公立、私立を問わず行われていた。もちろん有料である。
彼女は成績優秀で学内の進学クラスに在学していたが、圧倒的に登校日数が足りなかった。ところが、精神科で治療中であるという診断書を書けば、卒業できるという。そのような話は高校ではないかと思ったが、診断書で欠課が病欠扱いのようになり卒業できるというのである。この話は、ちょうど7年前の過去ログで触れている。
上の記事の冒頭で、
今回はいつか書く予定の記事の前置きである。長くなるのでこの部分だけ独立させた。
と記載している。まさに今回の一連の記事はこの時、言及した記事である。
(続く)