精神科病院で新型コロナ感染者が出ると、精神科疾患の特性により病棟内でクラスターになりやすい。
その疾患特性とは感染予防のルールが理解できない、十分に守れないなどが挙げられる。例えばマスクを正しく付けられないとかマスクをすぐに外してしまうなどである。また、精神科病棟内のゾーニングが難しいこともある。4人部屋を感染症だけの患者さんにまとめても、すぐに出てきてしまうなどである。精神科病院での新型コロナ流行時の難しさは以下のTwitterなどにも詳しい。
感染症、感染防御専門のEARLさんのtweet
また国内感染者が多い時期では、感染者を他の病院やホテル療養に移動させられないため、院内で看護せざるを得ないこともクラスターになりやすい点である。そもそもホテル療養できるレベルの患者さんであれば精神科入院などしていない。実際、デイケアで感染者が出た際はホテル療養となっている。
都道府県単位で精神疾患患者さんの新型コロナ病床は非常に少なく、国内でかなり蔓延した時期では対応できないのが現実である。
今の新型コロナのオミクロン株は以前のデルタ株などに比べ、感染力が強いのが特徴である。従って感染予防をしていたとしても看護職員も容易に感染する。
うちの病院では職員がポツポツと家庭内感染などでコロナ感染者が出ていたが、長い期間、病棟内で感染者が出ることはなかった。しかしある時、1名患者さんの感染者が出た際、院内の感染爆発は止めることなどできなかったのである。
なんと、その病棟の80%の患者さんがオミクロン株に感染したのである。看護職員も感染しなかった人が稀なほどであった。医師も1名以外は全員感染した。僕ももちろん感染したのであった。
精神科病院の新型コロナ感染(オミクロン株)の特徴は、一度に全員レベルで感染するために収束も早いと言ったところだと思う。こうなると感染者が休まざるを得ないので外来看護師などが応援に入ることになる。病棟に入った外来看護師も1名以外は全員感染したほどの驚異的な感染力だった。
外来看護師が応援に入ると言うことは、外来は閉鎖せざるを得ない。しかし外来患者さんの投薬はしないと患者さんが困るので、電話で再診して状況を聴き、処方箋を渡して院外薬局で薬を貰うという流れになる。
精神科患者さんは受診している人ならわかると思うが、急遽、他の病院に新患で受診し投薬を受けることは容易ではない。従ってこのような緊急事態でも投薬はせざるを得ないのである。
僕は4~5部屋の感染部屋に順番に入って診察したところ、翌日に抗原陽性となった。少し早すぎるように思ったが、他で感染する機会がないのでたぶん院内感染だと思う。
しかし、外来患者さんへの電話診察をせざるを得ない状況だったので、院長室にこもり、事務にカルテを持って来て貰い電話で対応した。結局、医師が復帰するまで数日間は新型コロナ感染でも働かざるを得なかったのである。
症状については、僕は扁桃を切除しているのもあるのか発熱がない。扁桃を切除するとかなり発熱が減るもので、このような状況だとそれだけは良かった。しかし鼻水が洪水のように出て、時々咳き込むといった具合だった。他、全身倦怠感と頭痛である。
僕は肺が弱い家系なので感染が肺にまで至り肺炎になることを恐れていた。薬剤師に聴くと、ラゲブリオを服薬できる条件を満たしているらしく服薬することにした。恐ろしい臙脂色のカプセルである。これを朝夕1日8カプセル5日間服薬する。
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この1ボトルが1名分である。ようやく明日から休める状況になり、これから寝る時、あまりにも苦しく、翌朝、死んでいるのではないかと思った。たぶん明日から仕事をしなくても良いと言う安心感というか緩んだこともあったと思う。新型コロナ感染症は実際、突然死のように亡くなる人もいるので現実的な話である。その夜、ラゲブリオを4カプセル服用し寝たのである。
翌朝、起きた時、少し前日より良くなっていると思った。倦怠感が少し緩和していたし、起きた直後は鼻汁も減っていたからである。ラゲブリオは自分には有効だったのではないかと思った。
それから数日間は自宅で休養していた。昨年夏頃に嫁さんだけ罹患し、同じマンション内で生活していたのに感染しなかったので、もしかしたら自分はコロナに感染しにくいのでは?と油断していた。嫁さんも僕も4回ワクチンを済ませており、同じような条件だったこともある。
一般に一度、新型コロナに感染すると3か月から6か月は感染しにくいと言われている。特に2か月以内は罹患しない(3か月と言われていたが3か月以内で感染した人がいたらしい)。
今回、罹患しなかった人を調べると確かにそうだった。クラスターが出た病棟で感染しなかった人は数名だったが、そのうち3名は半年以内に感染歴がある人だった。残りの人はワクチンをしていただけの人である。この感染病棟で罹患しなかった人は真にコロナに強い人だと思う。そう思う理由は、長期入院者なのでうっかり感染して気付かなかったと言うパターンがないからである。
病棟内のワクチン接種率は非常に高く、長期入院の人はほとんど5回接種していた。ということはこのレベルの感染爆発では、感染そのものにはあまりワクチンは貢献していない。
しかし、仔細に症状を診ていくと、明らかにワクチンは重症化に有効だったように見える。患者さんはほとんどの人が5回接種を終えているのだが、職員は重い副作用のために1回ないし2回で接種をしなくなった人がいたからである。接種を中止した職員は40度の発熱が数日続くとか、味覚異常や嗅覚異常が残る人が多かった。
また、患者さんに1名死亡者がいたが、ある事情がありワクチンを1回も接種してなかった人であった。
ワクチンは感染予防はそこまで有効ではないが、重症化にはかなり貢献してるように見えたのである。
ある看護師さんは脳出血の副反応で接種を2回で止めていた。職場復帰した時、相当に疲弊しているのは明らかだった。嗅覚異常なども残っていたが、彼女の息子さんは全く接種していないのに普通の風邪くらいの軽さだったと言う。その後、嗅覚異常は次第に軽減しているらしい。
少なくとも職員で5回接種していた人では入院治療が必要とか、酸素が必要な人は1名もいなかった。ホテル療養した人すらいない。
ところが、病棟内には90歳前後の高齢者が普通にいるので、酸素が一時的に必要な人もいた。高齢者はほとんど5回接種しており、彼らがワクチンの意味がないと言うのは無理がある。同じような高齢者でワクチンを一度もしていない人は数日で昏睡状態に至り中核病院に移動もかなわず亡くなってしまったからである。
また高齢者の新型コロナ感染者はいったん治癒しても、食思が落ちたり、嚥下が悪くなったり、臥床していたためにADLが低下するなどの後遺症が残り、容易に発熱しやすくなる。つまり免疫力も低下しているのである。このようなことから、2か月後くらいに亡くなる経過もある。これらは新型コロナ関連死である。
一方、驚くべきこともあった。その高齢者は4回接種しており、COPDの診断があり、それでも酸素を頑として受け入れなかった人である。その患者さんは軽い風邪程度で短い期間で治癒している。
僕は感染初期、ちょっと味が変と言う味覚異常が2日くらいあったが、すぐに普通に戻った。鼻水は凄いが喉はあまり痛くなかった。ガラスの破片を飲むようで水を飲むのも大変と言う話を聴いていたが、そんな風ではなかったのである。僕の場合、熱は出ないが寝汗がずっと20日くらい続いた。そのため多少倦怠感が残ったが、コロナ罹患後のうつはなかった。
ここで注意してほしいが、倦怠感とうつは異なる病態である。また、倦怠感は罹患中と感染治癒後に持続するが、うつは早期には出てこない。おそらく何らかの理由でタイムラグがありそうなのである。
職場復帰して2日くらいちょっと反応が落ちていると思った。要領を得ないみたいな。これは1週間くらい旅行などで職場を離れた直後とは全く異なる感覚である。実際、嫁さんがコロナ罹患した時に濃厚接触のために1週間休み復帰した時もそのような奇妙な感覚はなかった。
新型コロナウィルスは脳になにがしか影響しているのは間違いない。最近、岡山大学の発表ではオミクロン株では睡眠障害が増加しているという調査結果が出ている。
実際、うちの病院の外来看護師さんは新型コロナ罹患以降、不眠になり眠剤を飲まないと眠れないと話していた。
精神科病院では一度に多くの感染者が出るため、速やかに集団免疫の環境になる。つまり感染爆発が凄いがその分、新規患者が出なくなるのも早いのである。
うちの病院ではこのレベルの大クラスターだったが、1か月以内で収束したのであった。
現在行われている新型コロナワクチンは6回目の話がまだ出てきていない。時期的にはもう準備していてもおかしくない時期だが、出てこないということは、そろそろファイザーのワクチンの契約が終わり、インフルエンザのように1年1回のワクチンへの移行を検討しているのではないかと思う。
6回目ワクチンは実施されるかもしれないが、将来的には中国のシノバック製ワクチン(コロナバック)のような不活化ワクチンを国産で生産できるようになると思う。不活化ワクチンはおそらくRNAワクチンより副反応が少ないと思うからである。