極めて長期の間隔で精神病状態を呈する女性患者さんがいた。彼女は遠方から転居し、偶然うちの病院に初診した。
最初の精神病の経緯を聴いた範囲では、挿間性の急性精神病状態のような病態と思われた。このような人は普通、統合失調症とは診断されない。(過去ログのこのような人)
彼女は、かつて急激に幻覚妄想を呈し近所の精神科病院に初診し処方を受けた。どのような投薬をされたのか不明だが、薬が強すぎて全然動けなくなったものの、すぐに幻聴はとまったと言う。
この話は、リスパダールの発売以前の話であり、たぶん定型の抗精神病薬を使われたものと思われる。1回の受診で様変わりしたように寛解し、その後通院することはなかった。
その12年後、再びよくわからない理由で再発したと言う。初回の病状とは少し異なり、空笑が出現し「家の中に誰かいる」と叫んだり、明るいところはじっとしておれないが、暗い場所では不思議に落ちついたという。再び精神科病院に受診し、1日1錠だけ投薬をされたが、それだけで次第に霧が晴れるように落ち着いたらしい。
初期にかなり重い精神病状態を呈し入院した後、何らかの治療で極めて短い期間で服薬も必要がなく完全に治癒する病態が診られる。これらはICD-10では「急性一過性精神病性障害 (F23) 」などと診断されるもので、かつては心因反応と呼ばれていた疾患群の1つである。
入院直後、薬の副作用で動けないほどになったが、嘘のように症状が消失し、何年も普通に働いていたが、10年~20年後に同じような病態を呈して受診する人が稀だがいる(薬で動けなくなったのは重要所見で、これも予後にプラスに作用している。過去ログ参照)。本人はその間は自分は治っていると思っていたという。(その考え方の方が自然)
これらはもちろん統合失調症ではないし、1回目と2回目の精神病状態は、一連のものとは思われない。その間には欠陥症状もプレコックスもなく服薬もしていないからである。このような挿間性の症候群は、統合失調症よりもむしろ双極性障害に関係が深いように思う。
彼女の話に戻るが、2回目の悪化の後、再び通院しなくなったが、病状が変化し引きこもり状態になったという。何もないと1年くらい引きこもり電話にも出ない。買い物も行かず、食事も作らず、まったく家事ができない状態であった。(参考)
その点で、彼女の場合、典型的な急性一過性精神病性障害とは異なる。増悪の間に何らかの精神症状が診られるからである。(彼女の場合、アパシー)
彼女が初診した日、このような病歴から、今後、再診するかどうかさえ怪しいと思った。それでも最初からリスクのある処方は普通はしないので、本人の希望に沿い、眠剤くらいを処方している。眠剤だけだと副作用はほぼないであろうし、困れば再診するはずである。(消極的に対処)
初診時は、病院に受診したくらいなので、引きこもりの状態から変化している状況と思われた。不眠が出て病院に来ていることがそれを示唆している。(それまでは不眠がなかったのに・・)
2回目の受診時、眠剤を服用しているためか、夜は休めるようになったという。アパシー系の病態であるが、2型躁状態ないし幻覚妄想状態ではない時期は、長期に極めて不活発で非生産的な生活をしているので、ラミクタールが良いと思われた。ラミクタール以外に、この病態を劇的に改善する薬はあまりない。彼女の場合、幻覚妄想も生じうるのがポイントである。なお、何らかの有効性が期待できるものは多くある(ジプレキサ、ルーランなど)
当時はまだラミクタールは単剤投与できなかったため、リボトリールとラミクタールを半錠(12.5mg)隔日だけ処方することにした。(今は単剤投与が可能)
リボトリール 0.5mg
ラミクタール 12.5mg(隔日)
マイスリー 5mg
その後、短い期間で彼女は絶好調になったのである。軽度の2型躁転にも見えるが、幻覚妄想に至らず、また人に迷惑をかける行動はない。ある日の彼女の言葉だが、
もう、すごく良いです。気分がとてもよい。先週まではずっと友人と喋っていたりしていたが、今は散歩などして、その後はゆっくりしている。昼間には昼寝をしている。この1年間はなんだったんだろうと思った。外に出ると、木々を愛でたり、爽やかな風を感じます。人生が変わったようです。
これらの言葉は精神科医を少し不安にさせる内容である。薬は増やさずそのままにした。ラミクタールは隔日少量投与のままである。
その2週間後も同様な状態であった。その日の彼女の言葉。
夢みたいに元気になった。11ヶ月間は寝たきりでした。1日、トイレとの往復だけ。今は動ける。朝、散歩にでかけている。家のことも何でもできる。編み物もしています。
その後の再診の際も同じような感じであった。2型躁転気味であるが、それ以上には上がらない。今後何らかの変化が起こるかもしれないが、薬を変えることはしなかった。彼女は悪い時期は、暗い部屋を好みカーテンも開けない生活だったらしい。(ただし、彼女の特徴はその状態でもさほど苦痛を感じないことである。そのため治療開始が遅れる。)
ラミクタールの処方を続けていたが、治療開始5ヶ月目くらいに、ある感染症を契機に、急にうつ状態に振れた(参考)。外出を嫌い「人が家に入ってきて、物を触れる」などという。しかし全く動けないほどは悪化しておらず、少し奇妙なことはいうが、そこまで生活は変化していないらしい。散歩はしないが、家でゆっくり音楽を聴いているという。ラミクタールを毎日服用するように勧めた。
ラミクタール 12.5mg
連日、他は変更なし。
その2週間後、本人によると、そんなに苦しさやきつさはないが、横になっていることが多いと言う。食欲がないらしい。
その後、全く再診しなくなった。普通、うちの病院ではいつも訪問看護に行っている人やデイケアのメンバーさんでない限り、急に来なくなった人に電話するのは稀である。(受診するかどうかは任意)。
再び受診したのは、その半年後であった。
本人によると、「全く動けなくなり受診もできなかった」という言い方である。家族もいるので、その話し方は少し変だと思った。あの病気(感染症)の後に悪くなったという。今後はちゃんと服薬しますと言うため薬を再開。ラミクタールは12.5mg隔日から。
その2週間後。
再びラミクタールが劇的に効いてるという。ラミクタールの効果は再現性があったのである。(最初の改善はバイオリズムによる偶然の改善ではたぶんない)
彼女の話。
薬を始めたら家事もできますし、親族の結婚式にも出席できた。
家族の話によると、2回目の再診直前、少し様子が変だったらしい。ラミクタールを服用し始めて、それらの奇妙な行動がなくなった。
彼女は、「半年間、薬を止めたのはやはり良くなかった」という。薬を飲まないと、カーテンを閉めてじっとしているだけで、入浴もできない。「いつも動けるように服薬していたほうが良いですね」という。(本人はそう言っているが、そこまで理解していない)
転居前に生活していた時代より、ずっと生活にメリハリがある。散歩をするし、入浴も毎日できる。
彼女はラミクタールを毎日半錠ずつ飲んだり、あるいは隔日で1錠(つまり25mg)にすると、気分が上がりすぎて余計なことまでするので、ずっと半錠のままがよいと言う。(量を指定している)
彼女は普通に生活ができるという点で、ラミクタール12.5mg隔日投与で必要かつ十分なのであろう。
それ以外の方法はあまり試していないのだが、昔の治療状態よりずっと良いらしく本人も満足している。
診断については色々意見があると思うが、単に双極性障害でも間違いではない。彼女は病前性格は非定型精神病的であり、非定型精神病でも大きな間違いではないと思う。
彼女のように統合失調症ではない人は、双極性障害圏内のいかなる診断でも良いと思う。厳密な診断名は、大きな問題ではない。
参考
ラミクタールによる躁転の副作用
短期決戦に構える
統合失調症の患者さんの服薬中断
ラミクタールは1日おきで十分と言う人
ウォンバットのぬいぐるみ
オーストラリアでゲットしたウォンバットのぬいぐるみ。
これは値札つきのもの。お値段は19.95豪ドル。1600円くらいでしょうか?
後でわかったのだが、ウォンバットには容姿的にかわいい子とそうではない子の差が大きい。これはぬいぐるみなので関係ないけど。
正面からの写真。ウォンバットは、となりのトトロのモデルになった動物である。そういわれてみると、なんとなく似ている。
過去ログでは本物をアップしている。ありえないほど人に慣れているのに驚いた。この写真は2007年4月にアップしたもの。(参考)
このウォンバットは確かブリスベンのローンパイン・コアラ・サンクチュアリで撮影したものと思う。この観光スポットはお勧めである。ただしゴールドコーストに直接行った人は、ブリスベンまで戻るのは結構遠いので、ゴールドコーストのカランビンで十分である。
カランビンのウォンバットはさほどかわいくなく、むしろブタに似ていた。グーグルでウォンバットを検索すると、これほどかわいい個体は稀なのに気付くだろう。
この動物園職員の女性にとても懐いていた。このウォンバットは大きいので抱き上げるのも大変。
おい!
お前ってヤツは・・
手掌は人間に似ている。
実は「となりのトトロ 」は、ごく最近、生まれて初めてテレビで観た。となりのトトロは少しアニメ映画にしては短いが、とても日本的なストーリーで興味深い内容である。どのような評価なのか知らないが、傑作だと思う。
これだけだとあまりわからないが、実際はけっこう大きいのよ。
ちょっと抜けたお顔が愛嬌がある。
顎関節症とリボトリールとデプロメール
この記事はどのテーマにするか迷ったが、線維筋痛症及び疼痛性障害に入れることにした。デプロメールでも良かったと思うが、このテーマに関係が深いように思われるからである。
顎関節症は最初に精神科に相談する疾患ではない。おそらく、耳鼻咽喉科か歯科口腔外科くらいか、平凡に内科医に相談することも多いのではないかと思われる。
顎関節症はマイクロソフトのIMEでも一発で表記されるので、一応、認知されている疾患ではないかと思った。IMEとは、マイクロソフトのOSに無料で付属している日本語ワープロ。驚くほど語彙が少ない上、しばしば奇妙な日本語を表記する。全く呆れるほどである。
顎関節症は男女差では女性に多く、アンダーグラウンドに患者数が意外に多いのではないかと思われる疾患である。
疼痛まで至らず、噛み合せの異和感や、音がする感じ、十分な可動域がない感じなど症状は患者さんによって多岐に渡る。疼痛だけの方が薬物療法もしやすいのではないかと思う。
これらは、根本的にある種の感覚の過敏性に由来し、その感覚を減じるだけでかなり過ごしやすくなるものだ。僕は精神科医なので、うちに受診する人は精神面の問題もかかえるなど、ややバイアスがかかっている。
そのようなことから、顎関節症は口腔内セネストパチーのテーマに入れようかと思ったが、これも一部は疼痛性障害とみなされる疾患であり、やはり女性に多いため、広く疼痛性障害のテーマに含めた。
口腔内~顎関節の異和感及び疼痛は、極少量の向精神薬でかなり良くなることもあるので、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科でなかなか良くならない場合、精神科に受診するのも一考である。
一般の人はあまり知らないのではないかと思うが、精神科医は種々の奇妙な異常感覚に対処した経験を持つ医師が多いからである。
ある女性患者さんは、歯の噛み合せの異和感、音がいつもする感じ、時にパニック障害などで困って来院している。この人はよく最初に精神科医、しかもうちに来たものだと思う。自宅は30km以上の遠方だから。
治療を始めるとすぐに薬に弱い人と思ったが、紆余曲折の後、以下の処方でかなり自覚症状が緩和した。
リボトリール 0.5mg
デプロメール 12.5mg
これ以上使うと眠さなどの副作用で仕事がしにくいと言う。この人は不眠がないので眠剤は必要ない。
リボトリール0.5mgは薬に弱い人にはやや多いと思ったが、0.25mgだと異和感が少し残るのである。そのため、リボトリール0.5mgでは日中の若干の眠さは出るが、なんとかこれでやっていた。この処方で十分なら御の字だと思う。
今日はここからが本題である。彼女は広汎性発達障害ではないが、潜在的に広汎性発達障害系の人なのである。言っている意味が良くわからないのではないかと思うが、表現型は広汎性発達障害とは言えないが、感覚過敏のあり方が広汎性発達障害の人のそれに似ている。
ただ、彼女の場合、広汎性発達障害を診断するのはあまりにも・・と思う。彼女は「分類不能の広汎性発達障害」にすら入らないと考えている。
彼女の家族歴で広汎性発達障害の人がいると、治療し始めて数年後に聞いた。(彼女はたいして服薬していないが治療期間が長い)
僕は現在の精神科医療では、「広汎性発達障害は過剰診断である」と考えるタイプの精神科医である。
彼女は上の処方のまま、全然悪化もみられず安定していた。ところがある時、薬を止めてみたらしい。薬を中断後、1ヶ月半くらいに再診したため、その中断後の経過の詳細を聞くことができた。
彼女は積極的に中断したわけではなく、仕事が忙しかったため来院できなかったらしい。(消極的中断)
彼女によれば、リボトリールとでデプロメールは実にあっさり中止でき、急性に離脱症状は一切出なかったらしい。過去ログで僕はあまりベンゾジアゼピンの離脱で困ったことがないと記載しているが、この人もそうである。
ベンゾジアゼピンの離脱で困っていると言うアメブロメールの相談が時々ある。これは減量方法も関係しているが、彼女のように平凡に中断しても全然問題がない人の方が遥かに多い。しかも彼女は薬に弱いのである。(薬に強い人より、弱い人のほうが離脱は出現しそうである)
彼女の話では、中断後、1か月で次第に顎関節に音を自覚するようになったらしい。(この程度の亜急性の悪化は、離脱というより、薬効の喪失と考えた方が自然である。デプロメールは半減期が長くないからである。
そこでまた再診したわけである。この人は強迫的な面があるため、リボトリールだけでなくデプロメールも少量服薬した方が良い。またデプロメールも異和感に治療的である。このタイプの疾患は、人によればエビリファイの少量が良い人もいるが、異和感が改善しても強迫が悪化する人はエビリファイは不適切である。これは過去ログにも出てくる。
僕はデプロメールをあまり使わないタイプの精神科医で、患者さん全員を見わたしても人数的にはさほど処方していない。量も少なく、たぶん150mgを超える処方は今はないと思う。
これは一般の患者さんには、あまり知られていないが、日本人に多い遺伝型から、他のSSRIに比し、デプロメールはあまり日本人には効かないらしい。(薬効が西欧人ほど発現されないという意味。過去ログではデプロメールの発売当時、ドグマチールより効果が弱いことに絶句した話が出てくる)。
僕は実はそこにデプロメールの秘密があり、その結果、大量処方でたまに良い人がいるのではないかと想像している。その理由だが、ほとんどのSSRIはセロトニン取り込み阻害作用のみを持つわけではないからである。
僕は基本的にSSRIの大量処方が嫌いなので、そういう処方をしないだけである。その方針を取る理由は、他にも方法があるから。
精神疾患の治療には数学風に言うと、多くの別解があり、全く異なるアプローチで良くなることも結構ある。ただ疾患によれば、その方法しかないこともあり、その点で精神科医は想像力が必要である。
引き出しの少ない精神科医は速やかに万策尽きる。
この患者さんの精神・身体症状はデプロメールをぜひ選びたいタイプの精神所見である。デプロメールが12.5mgで良い理由だが、この女性が薬に弱いことだけでなく、治療者の疾患理解や臨床経験、技量なども関係していると思うので、一概に患者さんのみで決まるものでもない。この部分はオカルトであるが、その程度のオカルトはこのブログではよく出て来る。
精神科はやはり特殊な科である。またそういう面があるからこそ、ユーザーから誤解を受けやすいのだと思う。
(おわり)
精神科の外来医療費の安さについて
精神科では、1日に多い人数の外来患者を診察することは難しいので、通院精神療法など技術料が加算されている。(疾患によってとれないものもある)
一方、薬代に関しては現在は薬価差益も僅かで、出せば出すほど儲かるようにはなっていない。むしろ品数が多すぎると減点になる。(過去ログ参照)
もしジェネリックばかり処方した場合、多少は薬価差益が増えるので、先発品ばかり処方するよりは利益が出るが、ジェネリックは元が安価なのでたいした額にならない。
最も重要なのは、高価な薬を併用で使っているような人は、今後入院する可能性が少なくともシンプルな処方の人より高いこと。つまり、そのような多くの薬を使っているような人を療養病棟に入院させざるを得なくなるのが最悪である。療養病棟で多くの薬を使うのは、お金を捨てるのと同じだから(いわゆるマルメ病棟)。
そういうこともあり、「薬は使えば使うほど大損」という思考が頭の中に染み付いている。
今日は9月3日でちょうどレセプトをチェックする時期である。今日のエントリは例を挙げて、外来患者さんの医療費が普通に処方している限りたいしたものにならないことを説明したい。
たまにボーダーラインとか線維筋痛症とか、合併症の多い人でかなりの多剤の処方もあるが、解説が面倒になるので今日は取り上げない。
ジェイゾロフト 12.5mg
デパス 0.5mg
28日分 636点
この人は、従来デパスを貰っていたような人で、最も軽いレベルの社会不安障害の女性患者。最近初診している。だから、過去ログには出ていない人。ジェイゾロフト少量追加して良くなっている。一時25mgの時もあったが、12.5mgの方がより自然と言う。本人がそういうのだから、そういうことなんだろう。僕は本人になったことがないので、詳しいことはわからない。この人は1ヶ月ずつ処方しており、来院も月に1回である。これで636点なので、実質は6360円である。しかし健康保険があれば(普通はあるが)、その3割の1900円くらいである。月に1900円は安いが、もし自立支援法を使うと、この点数と同じ636円になる。
ジェイゾロフト 12.5mg
リボトリール 0.5mg
ルジオミール 10mg
ムコスタ 100mg
90日分。ムコスタだけ30日分。1150点
背部のセネストパチーの人。この人は過去ログに触れていたかもしれない。この患者さんは3ヶ月に1度来院するため、いつも90日分処方する。ムコスタは1ヶ月分でよいという。なぜ3ヶ月分必要かというと、家まで無茶苦茶遠いため。70kmくらい。なお、ムコスタは胃炎・胃潰瘍治療剤。3ヶ月分処方しても、たった1150点である。つまり健康保険でも3割で3400円ほど。しかしこの人は70歳を超えているので1割負担で良く点数通りである。3ヶ月分で診察も受けて、1150円って安すぎないか?
診察だけ 399点。
この人は確か、過去ログに出てきていない。「字が読めない。集中できない」という主訴。一時、会社を休ませたが、入院まではさせていない。かなり薬に弱く、一般の抗うつ剤は難しかった。結局、リボトリール 0.5mg ラミクタール 12.5mg を2年間服用し現在は中止している。完治の状況にあり、最近、今後来なくて良いと伝えている(この人も離脱症状なし)。診察だけで399点ということは、技術料や外来の手間賃などが全て合わせて4000円くらいなんでしょう。
ジェイゾロフト 12.5mg
メイラックス 1mg
56日分。2回受診。 1370点。
この人はたぶん過去ログに出てきていない。不安障害の人。今はこれで良くなっているが、今も服薬している。この人はこの1ヶ月に2回受診しているため、通院精神療法などは2回分である。これはどういう意味かと言うと、例えば、8月1日に受診した場合、28日処方だと、その月に2回受診する。だから8月分のレセプトは56日分になる。かなり昔は、このケースでは8月29日に28日分は処方できなかった。14日分ならなんとかOK。その理由は、1ヶ月に56日分になるため。今はその制約がない。国からしても、その方が医療費がかからないので好都合である。56日分で1370点は安い。この人は自立支援法を使うので、支払いはこのままである。
ジプレキサザイディス 5mg
56日 2318点。
この処方はうちでは良くある。上と同じく、1ヶ月に2回来院している。ジプレキサは安くはないが、5mg錠だとたいした額にならない。
プロピタン 50mgだけ
28日 534点
この人の診断名は何でしょう?実は、不安神経症の人なのでした。この処方は随分長く、たぶん20年以上続いている。仕事をしている人である。プロピタンは1錠2点(20円以下と言う意味)なので、その部分は2×28で560円しかしない。1ヶ月分で3割負担で1600円くらい。自立支援法で534円。
アンプリット 25mg
ジェイゾロフト 12.5mg
60日分 888点。
この人は過去ログの記事に出てきている(不妊症治療と精神疾患)。彼女は、家まで遠いため、60日分ずつ処方し、そのペースで再診している。これといった所見は今はない。自立支援法を利用し888円である。なんと、月に500円以下。
セレネース 1.5mg
30日分。
この人は高齢のほとんど欠陥症状のない統合失調症の人で、毎日セレネース1錠だけ飲む。セレネースは1錠1点。つまり10円以下である。1ヶ月498点。
ここで、このように窓口での支払いが安価な人が自立支援法を使う意味について説明したい。自立支援法の診断書は2年に1度書いてもらえば良く、その時の費用は2100円である。(文書代は病院、クリニックによって違う。過去ログ参照)。
かつては1年に1度であったが今は更新期間が2年と長くなったので、いくら安価でも意味がある。
例えば、上の888点の人の場合、健康保険だと、60日分とは言え、2700円くらい払わなくてはならない。これが900円弱になるので、2ヶ月でも1800円も違う。1年ではこの6倍なので、11000円くらい安くなる。2年だと22000円だが、文書量の2100円を引かねばならず、2万円くらいの節約となる。
精神科は技術料が一様で、長く診察したからと言って、医療費は全く変わらない。だからと言っては変だが、40分診察してもらえる人はサービスと思って主治医に感謝しないといけないだろう。
僕は自分の外来担当日にはなんと70人来ることがある。過去ログに新患8人来て、今後もこういうことは起こらないだろうと書いた数日後にまた8人と言うのがあった。絶句(まさにマーフィーの法則)。
僕の患者さんは待ち時間に慣れておらず、あまり待つようだと患者さんがマジで帰ってしまうので、
すぐできます!
で外来診療を進める。僕の外来患者さんで1時間待ったら奇跡。これが不思議なんだが、時間予約もしていないのにそこそこバラけて来るのよね。
患者同士、お互い知らない人ばかりだろうが、さほど待たなくて良いのは、僕があまり時間を取らない診察だからと言う「阿吽の呼吸」みたいなものもあるんだろう。
参考
障害年金と自立支援法の診断書料
ジェイゾロフトは25mgを超えて処方してる人がいない
カウンセリングをあまり重視していない精神科医
リエゾンの診療報酬と医療崩壊
先生、電話でお母さんと話して下さい
診察中にこんな風に言われることがある。
その理由はいろいろだが、「しばらく仕事は休んだ方が良い」とか、入院が必要な際に、家族に説明してほしいと言うことだろう。本人の病状を家族が十分には理解できていないため、そのような説明が必要になる。
医師が診察した際に、最も望ましい処遇?と家族や本人の意見が異なることは時々ある。
医療保護入院は、本人の病状が悪すぎて放って置くと自殺しかねないとか、あまりに幻覚妄想や興奮が酷く家族では手に負えない時に、その処遇がとられる。そのような時は、普通は家族が同伴している。
だから医師の都合と言うより、割合としては、家族の希望の方が遥かに大きい。(重要)
たまに経験の少ない精神科医が、その家族がその患者を入院させてほしいことが汲み取れず、そのまま帰そうとして、奇妙なやり取りになることがある。さんざん病状の悪さを聞いているのに、そのまま診察を終えてしまうのである。そのような際、
先生、本当にこの子を連れて帰れと言うんですか?
と言われる。このように言われた医師は家族の意向と精神症状の状況が読めなかったという点で反省しないといけない。
ある時、頭部外傷後遺症で、家族への暴力や追跡行動が酷い男性患者さんが初診した。今までの経過を聞くと、ある病院で入院したが、急性期病棟に入院したため3ヶ月で退院させられた。
1~2日自宅で過ごしたが、到底、家族では看られる病状ではなく、他の病院に連れて行ったところ、外来の比較的若手の精神科医に、「この人のどこが悪いんですか?」と逆に聞かれたという。
そんな風に聞く方も聞く方だと思った。
確かに、その時は大人しく椅子に座っていたという(偶然だろうが)。精神疾患の「悪い病状」というのはそのような僅かな時間のことではない。もう少し長い時間の病状を言う。
医師にそう言われて、家族は泣きたくなったらしい。僕はその人を入院させたが、その後、病棟は大変なことになった。それも数ヶ月間!
過去ログでは結局は医療保護入院は家族に意見の方が優先されると記載している。またそのため、入院すべきところをそうしなかったため、悲惨な結果になることもある。
それでも、精神科医は精神の状態を判断するプロなので、最も良いと思われる処遇をアドバイスする。ひょっとしたら家でやれるかもしれないが、リスクがある場合は、安全策で入院を薦める場合もある。
微妙なケースでは、その時に空きベッドがあるかどうかも判断に影響する。だから結果が悲惨なケースでは、後から考えると運不運もある。
これはどういうことかというと、一見大丈夫そうに見えるが、ひょっとしたら危ないと思われるケースでは、自分の病院なら安全策をとって入院させられても、どこか他の病院までは紹介はしにくいことを言っている。
まだ起こっていないことを根拠に、大きな決断はしにくいものだ。
これは精神医療だけでなく、ストーカーの警察の処遇の判断にも同じような状況があると思う。
今日のエントリはなぜか「オカルト」に入っている。
その理由はたいしたものではない。ある日、タイトルのように言われて、患者さんのスマートフォンでしばらく母親と話した。
その時、スマートフォンはしばらく使っても全く頭痛も眼痛もないことを発見。自分の身体には何らかの悪い影響がないのである。これは正直驚きだった。
そのスマートフォンはauだったので、「auの方が電磁波の悪影響が少ない」という都市伝説は正しいのではないかと思った。
スマートフォンは必要ないが、auが使う電波帯?は魅力がある。しかし、うちは夫婦で長期にNTTドコモを使っており、割引率も大きく、2人で7000円くらいしか携帯電話代がかからないため変更はしにくい。
それと、たぶんNTTドコモの方が圏外になる確率が少ないと思われること。これは医師にとっては重要である。
auが良いと思われても、なかなか決断はできないのである。
今、NTTドコモの携帯で長電話することは自分にとって拷問に近い。4~5分話しているだけで、脳が電離するような疼痛と異和感を感じる。
一度、1週間くらい、auをレンタルできたらと思った。
参考
公衆電話料金
PR: 夢の「声優との電話」を叶える番組、NOTTVに登場!
カンガルーの子供
精神科勤務経験のない看護師
うちの病院で新規採用する看護師さんは「精神科勤務経験がない」人が大半である。経験を問わない理由だが、正看護師を採用するのに選んではおれない事情もある。地方では今も看護師の採用は容易ではない。
ここ10年くらい日本全体の経済状況の悪化により、長い間、主婦をしていた看護師免許のある女性が再就職ようなことが以前より多くなった。
かといって採用しやすいように思うかもしれないが、そうでもないのである。
正看護師の看護学校に行くとわかるが、学生さんは若い人だけではなく、年配の人もチラホラみられる。これは種々の状況があると思うが、昔、准看護師をしていて、これから正看護師になれるように勉強しようと決めた人とか、ヘルパーをしていて、興味を持ち一念発起して看護師になろうと思う人もいる。
一般事務や介護職で病院に就職した一部の人は、職業的な興味と給与の差から、看護師を志す。あるいは稀に作業療法士を目指す人もいる。
新卒の看護師は比較的大きな病院を志向し、一般の単科精神病院にはほとんど来ない。
まあ、それは昔もそうだったのでかまわないが、不足しているのは国の施策にも影響している。一部の規模の大きい病院(精神科以外)が看護基準を高め診療報酬を多く取るため、たくさんの正看護師を募集し、その結果、県内で偏在が生じている。極端な過疎地でなくても募集は難しくなっているのである。
さて本題に入るが、比較的年配で、かつて一般の内科、外科で働いていて、うちのような精神科病院に就職したような人は、
患者さんが、良くなることにびっくりする。
これは笑い話ではなく、マジなんだ。
過去ログに、「うちの外来婦長は才能がある」という記事がある。この中で以下のように記載している。(再掲)
うちの病院しか勤めていない職員は、いかにうちの病院が治る病院かに気付かないと思われる。(これは看護師さんだけでなく、コメディカルスタッフも同様)
精神疾患に対する絶望感とかそういうマイナスのイメージが最初からないのがよろしい。また精神病院ずれしていないのも良い。
とは言え、かつて精神疾患の講義で習ったことも含め、漠然としたスティグマのようなものはあるのである。このスティグマは一般の人が抱くようなものにやや近い。
別の過去ログでは、精神疾患に対するスティグマはむしろ医療関係者に強いと記載している。これは、現場にいるからではなく、むしろ現場にいない医療関係者のほうが悪いイメージを抱いている。だから始末が悪いのである。
かつて精神科で勤めていなかったのに、何らかの事情で精神科に勤めようと決めた看護師はそれなりに心の準備があり、精神科には勤めたいと思わない人に比べ覚悟ができているように思う。
たぶん、スティグマの形成のあり方が、そうでない人に比べ違っているのである。だからこそ、精神医療で良くなった患者さんを新鮮に驚けるし、祝福もできる。
覚悟ができていない人は精神病院に勤めて3日以内に辞めることが多い。しかしそのような人は意外に少ない。
古い歴史のある、悪く言えば旧態然としている単科精神病院は、看護師の派閥とか立ち入っていきにくい雰囲気もあるらしく、新規採用されてもその理由で辞める人もいる。
僕は自分の患者さんで、比較的軽く、しかも特異なパーソナリティではない人を積極的に採用している。だから元々自分の通院患者さんだったが、今はうちの病院の看護師やコメディカルスタッフになっている人もいる。彼らの中で、かつて他の精神科病院に勤めた人に聞くと、うちの病院はそのような妙な派閥がないらしい。
その結果、うちの病院スタッフは素人の集合体となった。
僕は元々、個別に採用される看護師の面接に関与していない。だから、いつの間にかうちの病院に就職している看護師や補助看さんが多数。名札を付けていないと名前も覚えられない。
うちの外来の若手の看護師さんは、元は外科で仕事をしていたらしく、精神科の経験が全くなかった。彼女は非常に機転が効き、即座に対処してくれるのが良い。医師がなにをしようとしているのか、適切な予測ができるのである。まるで手術室にいる看護師のようである。
彼女が傍にいると、全く仕事上のストレスがない。彼女は精神疾患のことがほとんど理解できていないらしく、それも微妙に診察しやすいように思った。
時々、彼女に「今の患者さんはどんな風に思いますか?」と質問することがある。少しは精神疾患について理解して貰うためである。その際に、彼女は実に一般的な感覚で感想を言うので、こちらがかえって感心するというか勉強になる。平均的な視点は、ずっと精神科にいるとズレて来る面があるからである。
ある時、彼女は出産のために数ヶ月いない時期があったが、誰が交代で外来に来ても、彼女の真似はできないことが判明。早く職場に戻ってくるように待ち望んだ。
精神科での外来看護師は望ましいタイプがいくつかあるが、彼女はある望ましいタイプの1人である。
彼女はそのような理由で、うちの外来婦長とはかなり異なる。外来婦長はあまり精神科のことは知らないが、人生経験が長い分、患者さんの悩みの相談にのれる。その若手看護師ものれないわけではないが、レベル的には新卒の精神保健福祉士並みである(法律のことを知っていると言う意味ではなく)。
結局だが、精神科スタッフは精神科での経験は無意味とは言わないが、むしろ人間性や仕事に対する真摯な態度の方がより重要なんだと思う。
それらが、好ましい外来の雰囲気を作り、治療的な場になるのかもしれない。
参考
ヴィクトリーネ・ツァック
やっぱり母親というのはすごいよ
薬を減らしてくれと言い始めると・・
今回は周期性の眠さとは関係がなく「薬を減らしてくれ」と訴える人である。なぜなのか問うと、「もう治っているので必要ない」と言う。
このようなことを言い始めると、不思議なことに、全く薬を変更しないのに次第に病状が悪化する。つまり「薬を減らしてくれと言い始めること」が病状悪化の1つの精神所見であり、しかも悪化の端緒に出てくる症状なのである。
もしその患者さんが外来患者であれば、薬を飲んでいないことも十分にありうるので、薬を止めたために悪化したのか、自然のバイオリズムで悪化したのか区別がつかない。
入院患者の場合、後で薬を吐き出す人もいないわけではないが、多い量だと難しいし、看護師もそういうことがないように気をつけるので、こっそり長期に服薬しないのはかなり稀である。
結局だが、その人が薬を減らしてくれと言い始めると、かえって増やさなくてはならないハメになる。
これは病識がないとは言え、信頼関係が傷つく事件である。
この場合、患者さんのタイプによるが、一時的にセレネースやトロペロンをしばらく筋注する方法をとる。
なぜかわからないが(これも人によるが)、内服薬を増やすのと、平行して筋注をするのはちょっと違うらしい。
どうみても同じなんだが・・
そうこうしているうちに、精神病状態が改善してくる。当初から筋注を快く受け入れ、結構満足しているのが不思議である。
ほぼ退院が不可能なレベルの慢性期の統合失調症の患者さんのコントロールは、少し特殊な対応でやっていかないと仕方がない。
長期的に、信頼関係が損なわれなければOKである。
さて、統合失調症の人で長期に抗精神病薬を飲んでいても周期的に悪化が診られる人は、単調に抗精神病薬を増量するより、デパケンRかリーマスを追加する方が遥かにコントロールしやすい傾向がある。統合失調症でも気分安定化薬の方が望ましいのである。
統合失調症だから、双極性障害にも有効なジプレキサやセロクエルあるいはエビリファイが良いと思うかもしれない。
しかし、このタイプの抗精神病薬に変更しても、さほど大きな流れを変えられないことの方が多い。処方内容が更に滅茶苦茶になるだけである。(コントミン換算値が増大する)
つまりだが、根本的に抗精神病薬と気分安定化薬は作用点が異なっているんだと思う。結果的に、人によれば双極性障害に効くだけである。
過去ログにジプレキサやエビリファイはリーマスやデパケンRと代替できるほどは効かないとか、効果が劣ると言う記載がある。
実際、この20年くらいで双極性障害に有効な非定型抗精神病薬がいくつか発売され処方量が増えている一方、双極性障害はニセモノ?を含めると、見かけ上は増えていることを見てもわかる。
参考
双極性障害の周期的傾眠について(8)
病気はもう治りました
躁うつ病は減っているのか?
興奮時のセレネース筋注とセレネース液の相違
統合失調症の緊張病性興奮状態は内因性でありながら、器質性の色彩が顕れる局面である。精神科医は特別な病態と意識している。
このような局面では普通、鎮静のために抑制的な抗精神病薬が使われることが多い。
外来患者さんではこのような病態に至った際、入院して治療した方が何か予想外の変化があった時に、いち早く対処できるのでより安全である。
過去ログでは病状が悪化した際に、家族で精神科ないし心療内科クリニックに連れて行くことができないような人は、最初からクリニックではなく病棟を持つ精神科病院に通院する方が良いと記載している。(参考)
元々、緊張病性興奮と緊張病性昏迷はコインの表と裏の関係にあり、昏迷状態が消退した際に著しい興奮が生じることがある。
また、逆に興奮状態が消退するにつれて、次第に昏迷に至ることもある。この一部は悪性症候群と呼ばれる悪性カタトニアである。このブログでは悪性症候群を単に「薬による副作用」という捉え方はしていない。これは精神病の治療経過の上で一連のものに見えることが多いからである。
さて、緊張病性興奮状態で入院した際には、種々の治療が試みられるが、最近は非定型抗精神病薬が投与されることが多い。病院によっては、セレネースやトロペロンなどの筋注ないしコントミンの筋注、あるいはセレネースの液剤を処方されることがある。(定型抗精神病薬の投与も視野にはいる)。
また薬は飲まない、食事は摂らない、着替えや入浴もしない、壁を拳で打ち続ける、頭を床や壁に打ち続けるようなレベルで、隔離室に入る看護師や医師に暴力を振るう患者さんでは、服薬させることも難しいし、筋注だって安全にはできない。
このような人は壁を拳で打つために拳の骨折をするとか、脳挫傷を起こすこともある。過去にこのような病態で脳挫傷に至った人を3人知っている。
なんと1名は脳挫傷を生じたためにかえって病状が劇的に改善し、退院して働けるレベルまで寛解した。その後、彼は1000万円ほどの貯金ができた。この人の凄いところは、初回の悪化でこうなったわけではなく、15年以上入院を継続し保護室に出た入ったりで退院できる見込みがない状況から急回復したことである。これはある種の奇跡であるが、このブログ全体を読んでいる人はこの変化が十分にありうることがわかるだろう。
「人生塞翁が馬」と言うが、彼の変化はそれどころの話ではない。漫画で頭を強打したために天才になったと言う話がたまに語られるが、あれは多分何らかのソースがあり、たぶんこのようなものだろうと思う。
かなり前だが、ある整体の先生と話していたところ、鞭打ちで難治性の腰痛と頚部痛になった人が更に交通事故で鞭打ちが重なったところ、寛解したそうである(彼は治癒と言う言葉を使ったが)。これはたぶん線維筋痛症のような病態だったと考えると、なんとなく納得がいく。線維筋痛症の発症契機として、酷い打撲(交通事故など)や手術(抜歯も含む)などが挙げられている。
一般的に、元々脳を患っている人が脳挫傷を併発して良いわけはない。精神病に脳挫傷を併発することは予後不良に至る事件である。もう1名は脳挫傷の後、車椅子の状態になった。(残りの1名の若者は、元々知的発達障害があったため、発語が円滑になり疎通性がいくらか改善した程度)
だからこそだが、緊張病性興奮は集中的な精神科治療が必要だし、その価値がある病態と言える。
このレベルの患者さんは一刻も早くECTを実施するのも一考である。木箱ECTであれば1回実施しただけで、かなり有効なことがあるし、2~3回めの実施後寛解に至ることも良くある。ECTの優れる点は大量の抗精神病薬を使わなくて良いことと、収束させるまでの時間がかからないことである。過去ログでは「悪い状態で時間がかかってしまうことが凶」という記載をしている。大量の抗精神病薬を使わなくて良いことは、悪性症候群への移行のリスクが低くなるし、元々悪性カタトニアにはECTは有効なことが知られている。
実は緊張病性興奮状態は、個々の病院によってかなり対処が違う。いかなる方法でも安全にそのような特別な病態から脱出できれば良いと思う。
緊張病性興奮状態を収束させるために、非定型抗精神病薬を使うことは、元々非定型は賦活的な薬物が多いので、薬の種類と量を考慮しないと大変なことになる。一般に服薬ができるなら、リスパダール液やリスパダールODも使いやすいし推奨される。リスパダールは多い量であれば、かなり鎮静的だし液剤やOD錠は便利である。
しかし、リスパダールの大量が後に悪い経過を呼び込むように思われる人では、平凡にセレネースかトロペロンの筋注が優れている。セレネースやトロペロンは、比喩的に言うと、泡切れが良いからである。
著しい興奮状態ではジプレキサではたぶん注射剤が良いと思われるが、本邦ではまだ発売されていない。(今後、早いうちに発売になるようである)
ジプレキサを著しい興奮状態に内服で大量に使った場合、急速に回復する可能性も高いものの、不安焦燥感を惹起して自殺既遂に至る危険性を孕む。(重要)
最近では、エビリファイの大量も考慮されるが、僕はそれはしない。その理由だが、他の方法の方が改善率や治療コストの面で優れるからである。エビリファイは副作用が他の抗精神病薬の中では少ない方なので、大量に使ってもそれで落ちつけば良いと思う。
知っておいてほしいのは、病状が極端に悪い場合、保護室に入れていたとしても、完全に安全ではないこと。脳挫傷ほどの怪我ではないが、一晩で保護室で両手の爪を全て剥ぐほどの異常行動(自傷行為)をした人がいる。この人はその後寛解し、今はルーラン4mgだけでコントロール良好である。この人はその後、事業に成功し大変な資産を持つに至った。この人は保護室内で木箱ECTを、無麻酔で立ったまま実施している。(劇的に寛解)。過去にこの患者さんのようにやむを得ず立ったまま木箱ECTをかけた人は3人しかいない。
今回の記事は、緊張病性興奮状態では、セレネース液とセレネース筋注はどちらが良いか?というタイトルである。
どちらも大差がないと思うかもしれないが、微妙に違う。拒絶が酷く服薬しない場合、セレネース筋注しかない。
服薬もできる場合、セレネース液が比較的有効な人でも、緊張病性興奮が消退していく際に、急速に希死念慮が出現する人がいる。この場合、油断すると保護室内で舌を噛み切るとかそういう事故が生じることがある。このタイプはセレネースとアキネトンの混筋注の方がより安全である。
興奮状態が消退すると、希死念慮が出てきそうな人はそれまで診ている人ならなんとなく雰囲気でわかる。しかし、あまり治療歴がない人はいかなる状態変化が出てくるかわからないこともある。
過去ログではセレネース液は躁状態に非常に有効と記載している。この躁状態への有効性が裏目に出て、急速にうつ転するために思わぬ事態になる。これは積極的にうつ状態を惹起させる能力は、セレネース液の方が遥かに高いためである。
筋注の際のアキネトンの併用はセレネースの副作用を軽減するだけはなく、抗うつ作用も持ち合わせるので、混筋注は合理的でバランスが取れている。セレネースほどは抑えなくて良い場合はトロペロンでも代替できる。激しい興奮の病態ではセレネース注が優れる感覚がある。
セレネースの筋注の欠点は、このような病態では、悪性症候群(悪性カタトニア)に移行することがあること。本来、緊張病症候群と悪性カタトニアは近縁に位置するからである。
過去にセレネース注で何度か悪性症候群ないし昏迷に至った人は、ECTの方が治療的に優れた手法と言える。
麻酔をかけてサイマトロンを使うm-ECTは施設が充実している病院では積極的に行われており、主にうつ病患者に使用されている。NHKの番組では慶応病院が紹介されており、3人に1人実施されているという話だった。実施できる施設が少ないだけで、ECTは今も有力な治療法の1つである。(有効性という点で否定的な論文自体がほとんどない)
参考
悪性症候群の謎
治療イメージについて
アトピーによる精神病状態及び6つの一連の記事
精神科病院の夏祭りの後半
薬物治療と寛解のレベルについて
木箱ECTとサイマトロン
精神症状身体化の謎
コアラの手
病的という言葉
研修医の頃、オーベン(指導医)に、症例報告の添削をしてもらっていた。精神科医は精神科医らしく表現すべきで、指導を受けず自由に書くと奇妙な文章になる。過去ログには、今回のような記事がいくつかある。(文学的に書いてはならないなど)。
ある時、「病的」という言葉について注意を受けた。彼によると、「病的」という日本語はあまりに漠然としており、精神科医がそう言ってしまうと「何がどう病的なのかわからない」という。
言われてみると確かにそうだと思った。「病的」という言葉には内因性なのかあるいは器質性なのか方向性が見えない。別に見えなくてもかまわないが、もう少し読んだ人が精神症状をイメージできる表現が良い。
その指導が堪えたのか、それ以来、「病的」という言葉を使ったことがない。これは6年以上に渡るブログの中でも1ヶ所も出てきていないはずだ。
彼の意図はたぶん「病的」を安易に使い始めると、細かい表現の工夫を怠り、精神科医的な描写が向上しなくなるということなんだろうと思う。
別に文章表現が拙くても患者さんの治療は可能だし、治療が下手と言うことにはならないのだが、少なくとも、変な文章を書く人は精神科医っぽくないとは言える。
ところで、病的という表現が投稿されている論文にないかというと、時々見るので、禁忌と言うほどの言葉ではない。
過去ログでは、リスパダールをなるだけ使わないように治療をするように心がけると、いろいろ工夫するようになり、技量が上がるという記事がある。これに似ている。
精神科の精神所見の記載について、過去ログに少しだけ触れている。(再掲)
この精神所見の書き方については、研修医時代にかなり詳しく教わった。たぶん精神科医以外の医師では、この精神所見がほとんどまともに書けないと想像する。
精神所見には書く順序があり、ビデオカメラで言うと、遠くから徐々にその人に近づいていくような流れで記載する。だから、幻聴とか妄想などの精神所見が最初から出てきたらおかしい。まず遠くからでも見えるものから記載していくのである。
このブログは、あまりにも精神科医っぽく書くと、難しい表現も出てきて一般の人には馴染めなくなると思うので、わりあいラフに書いている。(これでもラフなんだ)
ラフはラフなんだが、それなりに精神科医っぽいと思うよ。
オーベンに指導されるまま、言葉であれが使えない、これが使えないとなると、ステレオタイプになり、硬い文章になりやすい。使える範囲の同じ言葉の繰り返しになるからである。つまり文章に個性がなくなる。だから、ある程度柔軟に書くほうが良いし、「これはイカンだろ!」という言い回しがなければ十分だと思う。
このブログに精神科医らしくない表現があったとしたら(たぶんたまにあると思うが)、精神科医局に2年しか在籍しなかったからだと思う。外の病院に出ると、そのようなマナーっぽい指導はほとんど受けない。実践というか、精神科の治療が全体の90%を占める。臨床では現場なりの要請がある。
外の病院に出ると、精神鑑定のサポートに携わることがあるが、これは人による。縁がないと、ほとんど精神鑑定の機会に巡り合わない精神科医も多い。ただ簡易鑑定は、まだ機会がある方だと思う。
精神鑑定では精神科カルテとは異なる独特な用語や言い回しがあるが、これについてはさほど時間を取ってまでは指導は受けなかった。鑑定書でも読んで覚えてくれ!と言ったところか。
しかし、どのような疾患で、どの程度の精神症状の場合、心神喪失とか心神耗弱になる目安のような指導は受けた。精神所見の評価とか鑑定での診察の仕方などである。
最近よく思うが、自分のカルテの質的なものを言うと、2000年前半の方が遥かに良かった。今は内容も平板だし、詳しい所見を書いていないし、それ以前に字がよく読めない。自分の字なのに・・
これは患者さんが多くなったのも無関係ではない。僕は外来患者の定着率が非常に高く、初診後、他の病院やクリニックに転院する人があまりいない。就職や転勤などで移動するのは仕方がない。新患を継続的に見ている限り漸増する運命なのである。
精神科の精神症状の記載は、ドストエフスキーの書物に学ぶという話がある。
彼は「側頭葉てんかん」だったため、文章の特徴にその精神所見が色濃く出ている。だから、彼の表現は凡人に真似は難しいし、それを100%受け入れ、利用するのも正しいとはいえない。参考にはなるといったところか。
ドストエフスキーは天才なので、実際、凄い逸話が残っている。最も凄いと思うのは、「罪と罰」「賭博者」は口述筆記により完成していること。
これは人間離れしている。あの作品を「これは口述で書かれたものか・・」と意識して読むといっそう思う。口述だとバランスが崩れた文章になるのが普通だ。これは回診の時に上の先生の話をカルテにそのまま記載しているとよくわかる。
ドストエフスキーがなぜ口述筆記で書かないといけなくなったかというと、彼の無類のギャンブル好きのためである。つまり作品が完成するまで借金取りが待機していた。(という話。どのような状況だったのかまでは詳しくない)
最近は記事に時間が取れないこともあり、長い記事は滅多に書かない。しかし短いと言葉足らずになり、十分に考えが伝わっていないのでは?と思うこともある。
このブログは、いつもあまり変わらず淡々と進んでいるように見えるだろうが、それはそういう風に書いているからである。記事が完成し、参考に過去ログを引用していると、似ている記事を発見し驚くことがある。
なぜかというと書いたのを忘れているから。それでも新しい記事は過去ログと全く同じではないし、新しいパートもあるので、そのためだけで消去することはない。
さすがに6年を超えると大変な記事数になり、引用しようとしてもうまく探せなかったり、あっと驚くような記事もあり自分が読み入ることがある(←真面目な話)。なんだかんだ言って、このブログは面白いよ。
過去ログでも随分以前の記事とコメント欄を読むと、ほとんどのレスに僕が返信しており、記事とコメント欄が一連のものになっている。また、それが記事に彩りを与えている。過去ログはものによっては、むしろコメント欄の方が面白いものがある。
最近、よく思うこと。
多少、更新頻度が下がっても、平易で読みやすい記事を書くように心がけよう。
参考
精神科医のカルテ
激しい幻聴のある強迫神経症
等閑視
ほぼ全員にデパケンが処方されている病院
LED電球の種類と明るさについて
何年か前の話だが、家の中の電球を出来る限りLED電球に変えた。節電のためである。今はLED電球もかなり安価になり、標準的な電球(E26)では、1000円以下で買える。
最初、1000円以下のE26口径の電球を全て交換したが、色々と難しい問題があることに気付いた。
LED電球はまず「電球色」と「昼白色」の2種類がある(それ以外もあるのかもしれないが詳しくない)。
「電球色」はいわゆる昔風の裸電球の橙色というか暖かみのある光で、「昼白色」は太陽色のような明るい光である。
暗くて良い場所は電球色でかまわないが、本でも読みたい場所は昼白色の方が良い。例えばトイレとか。
電球色も明るい高ルーメンのものがあるのだろうが、同じ価格帯だと昼白色の方が明るいものが買える。
昼白色はトイレとかお風呂はあまり明るさが気にならないと言うか、むしろ明るい方が便利なんだが、寝室などは明るい昼白色はまぶし過ぎて疲れると思った。特に寝室でテレビを観る時など。
明るい昼白色のLED電球はなんだか疲れる。
当初は、そういう事態は想定しておらず、寝室用に昼白色のものを買ったが、どうしても馴染めず電球色を買い直した。
大損害!
昼白色を選んだ理由は、寝室でも本を読んだりするので明るい方が良いと思ったから。ところが、部屋が明るすぎるとLEDタイプの液晶テレビはなんだか観辛い。お互いに明るさが喧嘩する感じ。
しかも、寝室はやや小さいサイズのE17の4つだったため、当時はまだ26Eに比べ高価だった(4つで1万円程度)。
どうしても眩しく疲れるので電球色を買い直した。LEDはいったん買ってしまうと、そうそう壊れるものではなく、40000時間は使える。
一生ものじゃない!
というわけで、今は使うに使えない17EサイズのLED電球が4つも残っている。台所も偶然17Eのサイズだったが、LEDを使い始めると、耐久性が断然高いことに気付いた。全く切れないからである。
従来の台所の17Eサイズの普通の電球はすぐに切れていた。全く呆れるほど。付けた3日後に壊れたことすらある。300円ほどなので、そう痛くはないが、買いに行く手間がかかる。それに3日くらいで切れるとなんだか腹が立つ。
台所がなぜ切れるのかわかっており、たぶん接触があまり良くないんだと思う。
それをLEDに交換したところ、全然切れなくなった。ああいう耐久性は優れものだと思う。
結局、家全体で17Eのものは7つしか必要がないが、このまま壊れない状態が続くと、今余っている4つは使う機会が何時来るのか想像もできない。台所は17Eの昼白色で、寝室は電球色である。
そうだ!
実家で使おう!
と思って帰省した時に持っていってみたが、26Eは必要だけど、17Eなんて1個もなかった。26Eもルーメンが低すぎて不適切な場合もある。
LED電球はなんだかコンピュータ的な色合いで、特に昼白色は疲れる光源だと思う。気にならない人も多いのかもしれないが、僕は気になる。
その部屋の適切なルーメン数がどのくらいなのかがわかり辛い。テレビの明るさとの関係もあり、選び方が結構難しい。
現在、リビングのシャンデリア風のものをLEDに替えたいが、高価な上に、交換して疲れる色だったら使わない結果になりかねず、そのまま蛍光灯タイプのものを使い続けている。嫁さんが交換に大反対しているのもある。
LED電球にこのような欠点があるなんて当初は考えてもいなかった。
少なくとも、交換した部分は従来もたいして電気代がかかっていない場所なので、トータルの電気代の節約は、たぶん液晶やプラズマテレビ、冷蔵庫、エアコンが貢献している方が大きいと思う。
ところで、LED液晶テレビはなぜか、なんだか疲れる。だから、寝室は仕方がないが、リビングの大型テレビはパナソニックのプラズマテレビにしている。
電気店では、液晶テレビの方が明るくて綺麗だが、家庭ではプラズマテレビの方が馴染む印象。電気店では照明が眩いほど明るいため、液晶テレビが見栄えがすると言うか良いように見えるが、家庭ではそこまで明るくないので、プラズマの方が自然な明るさなので気に入っている。
プラズマテレビは液晶テレビに押されているが、果たして将来も造り続けられるのだろうか?
少し心配。実際、パイオニアのクロは製造を止めてしまったほどである。
今は子供の水泳クラブの役員をしている
今回は「105kgから62kgまで減量した人」の近況。
彼女は結婚後、全く受診しなくなったが、コンビニなどのアルバイトは続けていたので、そう悪い状態ではないのでは?と思っていた。
そのうち、1年半くらいして再診。摂食障害が完全によくなっていたわけではなく、やはり過食に悩み診察を受けることにしたようである。そうして再び服薬するようになった。
このようなパターンは、同じような例が過去ログにもあるが、
以前ほどの量は服薬できないことが多い(ルーランのテーマ参照)。
つまり長期間の服薬中断により薬に弱くなる。これは元疾患や、中断時の病状や、どのような薬を服用していたかも関係している。
彼女は例えば、トピナなら50mg以下しか服用できない。
彼女は2週間分処方するのに1ヶ月ごとしか来院しない。彼女のメインの処方はリボトリール0.5mgとトピナ25mgで、それ以外は胃腸の薬などである。眠剤は必要ない。2週間処方で1ヶ月に1度しか来ないということは、これ以下しか服薬していないことになる。
彼女は今もアルバイトをしているが、本人によればダイエットも兼ねているんだそうだ。服薬しない間に体重増加し(過食のため)、75kg以上になったが、もはや初診した当時のような体重にはならないようである。彼女の摂食障害は治ってはいない。
ある日の外来での彼女の言葉。
今は子供の水泳クラブの役員をしている。下の子が学校に行きたがらず、学校の先生が迎えにくる。校長先生も来られたのはびっくりした。
この辺りだが、2人の子供が交互に学校に行きたがらず、半分不登校状態だったが、学校の先生が迎えに来るのでなんとか行っているという話。自分だけでなく苦労が多い。
彼女の社会適応はかつてよりずっと良い。と言うより、初回入院時の当時から見ると、想像できなかったような発展である。(前の病院で絶望的なことを言われたなど)
彼女の子供たちは長い期間、本人には到底育てられないため施設に預けられていた。わりあい健康に育っていたのは、精神状態の悪かった彼女の元におらず、むしろ施設に預けられていたからである。(僕と婦長さんは同じ見解)
しかし、彼女は入院時も外来時も時々面会に行っていた。どうも本人に聞く範囲では、お互い親子の絆のようなものは保たれていたようであった。子供たちはなんと7年間も彼女の回復を待っていたのである。
そうして晴れて一緒に住めるようになった。
過去には、僕は彼女に、「○○程度に回復したら、一緒に住めるでしょう・・」と話していた。
ある日、彼女が施設に面会に行こうと計画し、施設に電話したことがある。ところが、子供たちから、
「今週は忙しい。キャンプに行くので来週にして。」
と断られたと言う。この会話は絆が保たれていたことを証明するやり取りだと思う。
「今、そこにいなくても、お母さんはいる。」という感覚である。
ある日、彼女の診察が終わった後、入院当時の彼女について外来婦長さんと話したことがある。婦長さんは初回の入院時、まだ病棟主任だったらしく、
彼女が肥満して、ベッド一杯に広がっていたのが忘れられない。
んだそうだ。この言葉に、なぜか2人で笑ってしまった。
ジプレキサを服用している新患
今回はジプレキサから話が始まるが、後半の内容は「気分安定化薬と抗てんかん薬」についてである。
ジプレキサが主剤で他病院から転院してくる人は、大抵、
かなり肥満しているものの、そこそこ落ち着いている。また20mgまで処方されている人も比較的多い。
本人や家族に問うと、「色々治療を受けたが、結局はジプレキサでやっと落ちついた」くらいに言われる。
ジプレキサは非定型抗精神病薬の中で最も肥満しやすい薬とされており、最初からこの薬を使うのは精神科医としては決断がいることである。女性の場合は特に。ジプレキサの良い点は、わりあいまとまる確率が高いことだと思う。
ジプレキサで安定しておりしかも肥満が目立つ人は、今がそこそこ良いだけに変更し辛い。もし変更の際に再燃した場合、「この精神科医は何を考えているんだろう?」と思われかねない。
つまり、変更を試みる際は、なぜ変更するのか本人または家族に説明が必要である。しかも、説得力がある説明でなくてはならない。
一般的に言えることは、転院した時点でジプレキサで安定している人は、他の抗精神病薬に変更してもジプレキサ以上に良くなる確率はあんがい低い。その処方は試行錯誤した末の処方であることが多いのかもしれない。
例えばこのような処方だったとしよう。
ジプレキサ 25mg
他、眠剤など
これは20mgの上限を超えているが、コメントがあればレセプトで許される県もあると思うので、ありえる処方である。このような人を20mgまで減量するのは比較的易しい。しかしその後が結構難しい。
何かを追加して減量する方法もあるが、何を選ぶかが難しいし、併用する以上、少なくとも体重の減量が期待できる処方でなくてはならない。精神症状が改善するなら、なお良い。たいして減量できない上に、併用で固定されたりすると苦労した甲斐がない。
ジプレキサは肥満の欠点があるものの、薬効に厚みがある薬なので、20mgまで処方されている人を他の薬に代替するのは難儀である。しかし転院の際に、それ以外の薬も併用されている場合は少し状況が違う。
例えば、このような処方はどうだろう?
ジプレキサ 20mg
リスパダール 4mg
他、胃薬や眠剤。
これは絶対量で一般的な処方量をオーバーしていると思うが、滅茶苦茶な処方とまではいえない。これで落ち着いているなら、行きがかり上、こうなったと見るべきである。(消極的併用)
この処方がどのような経緯でこうなったかは非常に気になる。しかし紹介状があったとしても、その記載がないことが多い。家族か本人が知っていれば良いが、普通は期待できない。(たまに詳しい人もいるが)。
うちに転院してくる人の約30%程度は紹介状がないので、誰もこの処方の根拠を知らない。ということは類推するしかない。平凡に考えると、
リスパダールが当初使われていたが、十分でなかったか、あるいは経過中に再燃しジプレキサが追加された。十分に落ち着いた後、リスパダールを減量しようとしたが順調にいかなかった。
というのが1つの推理である。(あくまで想像だが)
そう思う理由の1つは、ジプレキサは最高量なのに、リスパダールは最高量ではないから。
また逆にこのような推理も成り立つ。
リスパダール4mgで治療していたが、増悪時にリスパダール液などを追加したがうまくいかなかった。そこでジプレキサを追加し、やがて落ち着いた。リスパダールは減量の試みがなされなかったものの、リスパダール液の追加は中止しても大丈夫だったので、このような処方になった。あるいはリスパダール減量に失敗した可能性もある。
ジプレキサとリスパダールは異なるタイプの非定型抗精神病薬なので、併用でより症状を抑えると言う考え方もできる。これで副作用が出なければだが。
この2つの処方で落ち着いている場合、どちらかを中止して単剤にするより、ともに減量してある程度バランスをとる方針もありだと思う。それは異なるタイプだからである。
上記のジプレキサ20mgとリスパダール4mgの処方だが、長期的には何らかの肥満以外の副作用が出そうである。最も良くない副作用は、糖尿病、遅発性ジスキネジアないしジストニア、多飲水及び電解質異常だと思う。
この処方で長く安定していて突如、悪性症候群が生じたとしたら、それはむしろ緊張病性の破綻である。このブログ的には、そういう考え方をしている(参考)。
このような併用の抗精神病薬の減量は、単に減量が困難な場合、むしろ他の抗精神病薬に置き換えるより、抗てんかん薬を併用しつつ置き換える方が成功率が高い。
過去ログにもいくつか減量のマニュアル的な記事があるが、デパケンRやリボトリールなどを推奨している。
エビリファイの減量の際に、ラミクタールを併用してうまくいった例も過去ログにある。またトピナで良くなった例もある。
ラミクタール、トピナ、イーケプラの出現で、気分安定化薬の概念が危うくなっていると思う。
そう思う1つの理由は、ラミクタールは優れた気分安定化薬と言ってるくせに、躁状態にはたいして効きはしないからである。
その抗てんかん薬が気分安定化薬にカテゴリーされているかどうかは、実はあまり関係がないのである。
むしろ現代社会では双極性障害に限らず、統合失調症、ボーダーライン、広汎性発達障害なども、抗てんかん薬またはリーマス(これがむしろ特例)を平行した治療の軸におき進める方がうまくいきやすい。そういう方法を取ることで、無能な抗精神病薬の多剤大量処方が避けられると考えた方がすっきり理解できる。
ジプレキサ25mgの転院患者を治療していた際に、そんな風に思ったのである。
参考
悪性症候群の謎
多剤併用についての話
薬物治療と寛解のレベルについて
寛解のクオリティについて
内因性幻聴とトピナ
ラミクタールによる躁転の副作用
トータルフットボールと現代の精神科薬物治療
業務連絡
特定の人の連続書き込みが止まらないため、携帯からのアクセスを禁止しました。
これで従来の問題のない読者の方の携帯電話からの書き込みもできなくなり残念ですが、やむを得ない事態なので、ご理解ください。
なお、パソコンからのコメントの書き込みは今後も可能です。
特にnsdap氏ですが、連続書き込みだけでなく、一般読者の方へ精神疾患に対する誤解を与える記載もあり、今後パソコンで書き込みを行った場合もアクセス禁止とします。
過去にこのコメント欄で、医師と思われる人からの暴言によりショックを受け、ブログを閉じた人もいるほどなので、特にnsdap氏には自らの「常識のなさ」を反省してほしい。
一言で言えば、貴方は医師の恥です。
貴方が書き込みを自粛すれば、おそらくコメント欄はかなり穏やかになるのです。(それに早く気付き、そうしてほしかったです)
精神科医は無意味な生物と思われているところがかなりあり・・
リエゾンなどで、バシバシ正解の治療を連発し、
この人は何なんだ?
と思われて初めてナースや担当医の大きな信頼を得る。そのくらいだと、たまにうまくいかない患者さんがいたとしても大目に見られるものだ。(「たまにはこんなこともあるでしょう」くらいの)
その意味で、リエゾンはサッカー風に言うと、
ここはアウェーだ。
くらいの覚悟が必要だと思う。
そのような文脈から、疾患が同じだったとしてもホームとは投薬の仕方もいくらか異なる。これはシステムを考えても、ホーム&アウェーのサッカーと全く同じである。
参考
精神科医は・・(続き)
9勝1敗
循環器内科
医療関係者の治療とネットワーク
リエゾンでのせん妄
リエゾンは言葉遣いに気をつける
PR: 都道府県型JPドメイン名、登録受付中!
先生、どこかで見たことある!
ある日の外来で高齢の患者さんから、
先生、どこかで見たことある!
と言われた。一瞬、奥さんと目が合い一緒に笑った。
彼は数年前に1年近く入院しており僕が主治医だったのである。(退院後はいつも奥さんだけ来院し、本人を診察するのは1年に2回くらい)
だから、「どこかで見たことある」というのはちょっと・・だけど、忘れられているよりは遥かに嬉しい。
彼は老年期の幻覚妄想状態+認知症と呼べる病態で、医師によればレビー小体型認知症と診断する人もいるかもしれない。
この「どこかで見られたお爺ちゃん」だが、退院後5年は経つのに全然、認知症が進行していない。
身体的にも自力歩行ができるほどで、そこそこ身体的健康は維持している。認知症の部分と幻覚妄想状態の部分を評価すると、後者の方がメインと言える。(ただし幻覚妄想は消失しているが。)
こういう人の診断は、統合失調症ではないのは間違いないが、レビーというのもどうかと思うのよね。
彼は、亜急性に推移する精神病状態の後、その欠陥症状が残っている(しかも固定している)と考えるのがわかりやすい。
彼は高齢で脳の修復力が弱いため、あんな風な状態なんだと思う。つまり、あの認知症に見えるものは、かつての病態の後遺症というか痕跡のようなものだ。
本質的な認知症とは異なるので、全く進行しないのかもしれない。しかしやがて更に歳をとると、本物の認知症が表面化しそうだが・・
なお、そのお爺ちゃんの処方は、リスパダール0.5mgのみである。(もう5年以上同じ。眠剤もなく、降圧剤などもない。)
トピナの剤型
トピナの剤型は現在、25、50、100mgの3剤型であるが、発売当初はそうではなかった。
上は、以前のトピナの添付文書で、確かに25mgの記載がない。
トピナは最初は50mgの半錠から開始していたが、当時はぜひ25mg錠を発売してほしいと思っていた。その願いが通じたのか、協和発酵キリン株式会社は25mgの剤型追加を行っている。
実際、ある剤型が希望されてその後発売されることは稀にある。最も有名なのは、パキシル5mg錠だと思う。この剤型は海外では全く発売されていないらしい(今は知らないが、本邦で発売された当時はそういう話だった)。
トピナは開始当初に病状悪化を来たすケースがあるが、時間が経って悪影響を及ぼす場合もある。
そういうこともあり、少量投与できるのは良いことである。半錠にできれば良いというが、薬剤師さんの手間がかかる。
また25mg錠があると、その半錠の12.5mgも処方しやすくなる。
あくまで個人的にだが、希望する最低量の剤型以下の向精神薬は、(ぜひほしいものを◎とした)
ジェイゾロフト 12.5mg ◎
サインバルタ 10mg ◎
リフレックス 7.5mg ◎
ラミクタール 12.5mgまたは10mg ◎
レクサプロ 5mg ◎
ルーラン 1mgまたは2mg
リスパダール 0.25mg
ジプレキサ 1mg
テグレトール 2mg
アナフラニール 12.5mgまたは8mgアンプル ◎
リスパダールコンスタ 12.5mgアンプル
他、特殊なものとして、ジプレキサザイディスの2.5mgはほしいところ。しかし、2.5mgのザイディスはうまく造れないらしい。
大きい剤型としては、なぜか中止になったルジオミール50mg錠。僕の処方でルジオミール100mgの人が数人おり、50mg錠があると便利である。
あと、プロピタンの100mgか150mg錠。これもあると便利。今時、最高量の600mg処方するのに、12錠も必要なんて馬鹿げている。
患者さんに説明する身にもなってみろ!
と言いたい。
大きい剤型の希望も出ているらしく、例えばリスパダールコンスタは50mgアンプルを超える剤型が希望されているらしい。また剤型ではないが、ジェイゾロフトは100mgを超えて処方できるように希望が出ていると言う。
参考
ハルシオン
パキシル5mg錠発売
リスパダールコンスタが高すぎること
器質性荒廃
サインバルタ脱カプセル