今日もちょっと特殊なテーマである。
稀に、犯罪の治療を本人から依頼されることがある。今回の記事では覚醒剤関係は除外する。精神科病院に棲み分けのようなものがあり、専門性の高い病院が覚醒剤関係を診ている。
僕は初診時に犯罪の内容も含め、犯罪でもいかなるタイプか、前科があるのかないのかなどを聴取する。それで見込みがあると思ったときは引き受けるようにしている。たぶん精神科医になって5年目くらいからそのスタンスは変わっていない。(基本的に患者さん本人がそう言って来院していることもあり、断ることの方が稀)。
なぜ引き受けるのかというと、学問的興味と今後の鑑定などの際に役立つかもしれないというものも大きい。もちろん、その人を救いたいという医師本来の欲求もある。
では治療を始めましょう。
と言うと、過去に泣き出した患者さんがいた。彼によると、どこの精神科病院に行っても最初から、「そのような治療は無理です」と断られていたからである。
過去にはあまりに患者の行動が酷かったため、(当時の)院長に今後の治療を断るように言われた人が1名だけいる。
その患者さんは、その後、僕が病院を異動した際も、なんとか見つけてやってきたが、しばらくは治療していたものの、その病院でも理事長が呆れ、今後の治療を断るように言われた。つまり、この人だけ2回断られたが、他の患者はそういう経過にならなかったことになる。
犯罪でも色々なタイプがあるが、たいてい僕が引き受けるのはADHD系の疾患群、自閉性スペクトラム系の「性嗜好の障害(F65)」などである。極端な犯罪(殺人、放火)などは、本人が治療を希望して来院することはほとんどない。
まず、ADHDに関係する犯罪は薬物治療や生活指導でかなり改善する可能性がある。しかし、このタイプは本人が治療意欲がないことがあり、家族に連れられてきているような人は、少し期待値が低いと感じる。
ADHDはストラテラとコンサータという効能効果が認められた薬があるが、その他にバルプロ酸シロップなども抑制的にうまく奏功することがある。過去ログにもあるようにシロップの方が錠剤や散剤より治療的である。
問題は、「性嗜好の障害」である。一般にICD-10のF65には、いかなる項目があるかというと、以下のようである。
F65 性嗜好の障害
F65.0 フェティシズム
F65.1 フェティシズム的服装倒錯症
F65.2 露出症
F65.3 窃視症
F65.4 小児性愛
F65.5 サドマゾヒズム
F65.6 性嗜好の多重障害
F65.8 その他の性嗜好の障害
F65.9 性嗜好の障害,詳細不明
これはもう少し未分化な形態をとるケースもある。実際、いわゆる内因性疾患でこのような所見を全く診ないわけではないが非常に稀なので、そのような人はどのような生活歴を持ち、いかなる経過になるのか興味が大きいのである。
過去に治療歴がある人は、リスパダールのかなりの量を使われたと言う話を聴くが、そのような治療は犯罪傾向は減るかもしれないが、強力すぎて普通の生活が成り立たないことがある。これは本人が、統合失調症でもなんでもないことが大きい。リスパダールは確かに性欲を抑制するが、この疾患群のターゲットに合っているかというと、たぶんそうではない。
性嗜好の障害に最も使ってはならない薬は、たぶんエビリファイだと考えている。これはリスパダールを使うより遥かに悪い。それは、過去ログの双極性障害と性的放縦 や、エビリファイと恋愛感情 なども参考になると思う。
性嗜好の障害は、抗てんかん薬をうまく組み合わせると良いことが多い。どのタイプにどの薬を使うかだが、犯罪のタイプによるし、その人に忍容性に合わせて確かめていく。僕の患者さんで上手くいっている人たちは、トピナを使っている人が相対的に多いように思うが、たいてい少ない薬の種類で済んでおらず、ラミクタール、バルプロ酸、セロクエルなども併用することが多い。なるだけ、仕事などに支障を来さないように調整する。
エビリファイ以外の抗精神病薬では、ジプレキサも使う気にならない。エビリファイに準じる危険性がある。そのようなことを考えるに、リスパダールでベタベタに治療されてしまうのもわからないでなない。ベストではないにしても、十分に動けない人には犯罪も難しい。
問題は抗うつ剤である。抗うつ剤は使うべき時に使うのが基本だが、上記のように犯罪に至る閾値を下げると思われる人には安易には使えない。サインバルタなども相当に危険なケースはある。(直感的にわかる)
良くなったかどうかは、警察に逮捕されるかどうかでわかるので、ずっと通院していて家族も問題がないと言えば、ほぼ良い経過である。
真に良くなってくると、通院に家族が同伴しなくなるので、家族の心配も減ってきたのだろうと感じる。
治療の経過中、MRIなどで明らかな器質的所見が発見されることがある(脳腫瘍などではなく)。しかし、そのようなものがあったとしても、薬物治療の効果は認められることの方が多い。このようなことを見ても、薬は相対的というか調整的なものなのだろう。
今回の記事はちょっと曖昧な部分も多いと感じるかもしれない。これは内容からして、このような記載にならざるを得ないのである。
(おわり)