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少量でも驚くほど効果が出る話(後半)

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後半とあるが、前回の記事とは直接関係はない。今回はリーマスの少量で驚くほど効果が出る話。

 

ある時、入院中のパーキンソン病の婦人の妄想の治療について相談を受けた。それは身近な人との妄想であるものの、真の統合失調症の妄想ではなく、また真の器質性妄想とも言えなかった。(「統合失調症っぽくない妄想」参照)

 

過去ログでは中核的な統合失調症の妄想は登場人物にありえない人が出てくるので、すぐに妄想とわかると記載している。一方、器質性疾患では身近な人との関係妄想が多く、無関係な人たちが出てこないため、詳細を関係者から聴取しないと妄想かどうか判断できないことがある。

 

しかし非定型精神病では、統合失調症的なものと器質性の中間的といえるもので、特殊な妄想だと記載している。例えば、「息子が逮捕されている(さらわれている)」とか、「夫が死んだ」などである。これらは関係妄想とも言えないもので統合失調症ではほとんど診ない。また、既婚者であれば異なる生活歴でも同じ妄想が出てくるのが興味深い。これは精神科医からは彼らの家族関係が良好なことも関係しているように見える。

 

パーキンソン病ではレビー小体病的な妄想がみられることがある。例えば、「隣に男の人が2人来ていた」とか、「子供がいる」などである。これは幻視が主体なので基本的に統合失調症的な妄想ではない。統合失調症では幻視は稀なのである。統合失調症には幻視などないという精神科医すらいる。

 

このレビー小体病の幻視だが、幻聴と同じくエネルギー的色彩があり、狭義の視覚神経に関係しているのか疑わしい。その理由は盲目のレビー小体病の人も同じことを言うからである。

 

これらの視点から、非定型精神病の典型的な妄想は統合失調症的ではなく、器質的でもなく、またレビー小体病的でもない。レビー小体病は器質性疾患なのでひとくくりに器質性とすれば、非定型精神病の妄想は、統合失調症っぽい妄想ではないが、器質性ともいえず、その中間的位置にあるといったところである。

 

さて、その婦人は典型的な非定型精神病と言える妄想がみられたが、診察時、もはや亜昏迷に近く話すらできなかった。彼女は開眼したまま、動くこともままならない状態だったのである。

 

状況的には非定型精神病性の妄想ではなく、今は亜昏迷をなんとかしなければならないと言えた。その理由は、食事が摂れないとか、褥瘡ができかねないとか、全身状態が悪化しやすい病態だからである。

 

彼女のパーキンソン病の程度は、パーキンソン病重症度分類(Hoehn-Yahr 分類)で45と言うことであるが、この重症度は数値が大きくなるほど重症で45は重いレベルである。しかし亜昏迷は精神科的には可逆的病態なので、治療がうまくいけばかなり改善する可能性を秘めている。

 

重要なのは非定型精神病性の亜昏迷は、抗パーキンソン病薬で改善する可能性がほとんどないことだと思う。非定型精神病の病期はむしろ双極性障害的バイオリズムがあるので、放置していても次第に改善することがあるため、抗パーキンソン病薬で改善したように見えるだけである。

 

過去ログでは、この病態を改善する可能性が高い治療法はECTがベストだが、年齢的なものやその他身体的状況、家族に受け入れられるかどうか、施設的に困難などの問題から施行にくいこともあり、薬物療法に限ればリーマスが推奨できると記載している。

 

気分安定化薬のデパケン(バルプロ酸Na)は効かないことが多い。またラミクタールもあまり期待できない上に、漸増に時間がかかることも問題である。ラミクタール治療中の中毒疹のリスクも小さくはない。

 

リーマスも効果が出たとしても振戦が悪化しそうである。それでもなお、亜昏迷を改善することは大きく、副作用のマイナスを考慮しても、それに見合う治療といえる。一般に精神症状が脚色し身体疾患が重く診断されることはよくある。この女性のパーキンソン病のHoehn-Yahr 分類は、亜昏迷が改善しないと正しく評価できない。

 

結局、リーマス200㎎から開始したところ、2週間目にはかなり話ができるようになっていた。周囲の人の話では以前より全然違うと言う。疎通性が出てきたので、いかなる副作用が出ているのかも聴取できるようになった。単に話ができるだけでなく、以前よりずっと表情の動きもあり受け答えも早い。また1か月もすると、やっと寝返りが打てる程度だったのに車椅子に移乗しリハビリに通えるようになっていたのである。

 

リチウム200㎎投与時の血中濃度は0.3mEq/Lと最低ラインに近いが、十分に有効と思ったので増量時のマイナスを考慮しそれ以上増量はしなかった。

 

また以前にみられた非定型精神病性の妄想は訴えなくなっていた。またリフレックスの30㎎を中止したところかえって口渇が減ったほどでうつ状態の悪化はみられず、うつ状態や妄想の治療はリーマスだけでよいと言った感じだった。

 

少量でも服薬するかどうかで大違いといったところである。

 

参考

統合失調症っぽくない妄想

 

 

 

 


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