Quantcast
Channel: kyupinの日記 気が向けば更新
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

それまで服薬していた抗精神病薬をレキサルティに変更する際の注意点

$
0
0

既に抗精神病薬を服薬している人がレキサルティに変更する場合、レキサルティの薬理特性から注意すべきことがある。今回のエントリは専門的な内容も含まれるので読者の方には難しいかもしれない。また、個人的なノートのようなものである。

 

レキサルティはエビリファイの欠点を改良した抗精神病薬だが、似ていない部分もあり、むしろエビリファイの方が良い人がいる。エビリファイからレキサルティへ順調に変更できた人たちは、今までより副作用が少なく表情もより自然になるなどメリットが多い。しかし、臨床ではエビリファイからレキサルティに変更するケースばかりではない。リスパダールやジプレキサなどの非定型抗精神病薬だけでなく、セレネース、トロペロン、コントミンなどの旧来の抗精神病薬から変更するケースもある。

 

一般に抗精神病薬服薬中にエビリファイを追加した際に、病状が不安定になり悪化することも稀ではない。これはエビリファイのD2レセプターへの親和性が極めて高く、長期に服薬中の抗精神病薬を押しのけてエビリファイがD2レセプターを占有してしまうからである。また、エビリファイは完全にD2遮断するタイプではなくスポンジで押さえているようなものなので、ドパミンが従来より通過する状況が生じる。

 

長期にわたりD2遮断性の高い抗精神病薬を服薬していた人は、量にもよるが神経の間隙にあるD2レセプター(シナプス後レセプター)は著しく増加していると考えられる。これはうつ病のダウンレギュレーションの理論と同じく、人間の身体は枯れている状況では、より取り込むためにレセプターを増加させるためである。その結果、抗精神病薬の過敏性が生じやすい状況が起こる。そのタイミングで従来の抗精神病薬に加えエビリファイを追加すると、僅かに増えたドパミンに過剰に反応し精神病が悪化する(幻聴や妄想が再燃)。

 

エビリファイとレキサルティのD2親和性はややエビリファイの方が高いがそう大きな差はない。エビリファイおよびレキサルティのD2レセプター親和性を超える旧来の抗精神病薬はないため、D2遮断性の高い古い抗精神病薬を服薬している人ほど、エビリファイやレキサルティの追加による悪化に見舞われやすい。

 

なお、新しいタイプの精神病薬のうち、エビリファイおよびレキサルティのD2親和性を超える薬はロナセンおよびルーランだけである。この2剤はエビリファイおよびレキサルティ切り替え時に併用した際に押しのけられる状況は生じにくい。

 

長期間、エビリファイのみ服薬している人はシナプス後D2レセプターは減少し、アップレギュレーションのための過敏状態はかなり解消されていると思われる。このタイミングで、エビリファイからレキサルティに切り替えるとレキサルティのD2への効果が出やすく、セロトニン5HT2Aアンタゴニスト作用やセロトニン5HT1Aパーシャルアゴニスト作用もより生きると言える。

 

なお、レキサルティの方がエビリファイより幻覚を改善する理由は、レキサルティの方がセロトニン5HT2Aアンタゴニスト作用が大きいことも関係がありそうである。また、D2を遮断する力だが、イメージ的にはエビリファイをヘチマとすれば、レキサルティはスポンジのようなものだ。言い換えると、開いている目がレキサルティの方が細かいといったところだと思う。レキサルティはエビリファイよりよりD2遮断的だが、その分、セロトニン5HT2Aアンタゴニスト作用で補い抗精神病薬的EPSを生じにくくしている。ここが素晴らしいのである。このようなことから、まだエビリファイからレキサルティは変更しやすいことがわかる。その理由は長期のエビリファイ単剤治療下では、レセプターの数など環境が初発の人に近いからだと思われる。

 

長期間セレネースやリスパダールのようなピッタリと遮断するタイプの抗精神病薬を服薬中の人にエビリファイやレキサルティを追加すると、強いD2遮断作用がマスクされ、レセプターのアップレギュレーションによる過敏性の影響が強く出る(病状悪化)。つまり、主剤のD2遮断作用を打ち消すように作用する。だからこそだが、リスパダール+エビリファイで抗プロラクチン血症が改善するのである。

 

また上のようなメカニズムにより、エビリファイではうまくいかなかった切り替えがレキサルティでは成功するといったことも起こる。それはまだレキサルティはD2遮断的であることと、セロトニン5HT2Aアンタゴニスト作用がエビリファイに比べ大きいことも関係がありそうである。

 

切り替えの際、一時的に旧来の抗精神病薬+レキサルティという併用療法になるが、この際に、旧来の抗精神病薬には、いかにD2親和性以外の抗精神病作用が多くあるかがわかる。ここがこのブログ的には、旧来の抗精神病薬のダーティーな部分なのである(ここでは良い意味。ダーティーという言葉は節操なくレセプターに関わるため副作用が多くなると言う意味だがメリットも多い)。

 

ジプレキサやリスパダールからレキサルティに変更する際、上のようなメカニズムで悪い結果になることが稀ではない。逆にジプレキサからレキサルティに順調に変更できた人は、ジプレキサの持つM1レセプターへの親和性はそこまで機能していなかったか、必要なかったのである。M1レセプターは認知機能の改善に関係しておりその作用が急激に消失すると、興奮、昏迷、不眠、精神病状態の悪化などを来しうる。

 

ジプレキサやリスパダールからレキサルティに変更できるかどうかは、やってみないとわからないが、それまでの変薬の履歴から、これは失敗しそうだとかわかることもある。また、おそらくこれらの抗精神病薬には未知の抗精神病作用も存在する(何が効いているかわからないといったもの)。

 

その他、レキサルティの用量も注意したい。エビリファイの場合、少量ではドパミンライク、大量では一般の抗精神病薬のように振舞う。これはレキサルティにも似た特性がある。つまりエビリファイやレキサルティはドパミンよりD2親和性が高いくらいなので、少量だとドパミンが増えたように脳が錯覚するのである。しかしこの流れは、まだ服薬していないまっさらな人の話である。エビリファイの場合、24㎎以上の高用量では鎮静的に作用することが知られている。エビリファイはヘチマのように穴だらけだが、大量に重ねると遮断的に機能するのであろう。

 

しかし、レキサルティの2㎎レベルではエビリファイの24㎎程度の鎮静作用が得られない。幻覚妄想への作用はエビリファイより上回るが、高用量のエビリファイほど鎮静的ではないのである。その結果(その理由だけではないと思うが)、エビリファイ24㎎からレキサルティ2㎎に変更する際に急激に悪化するケースがみられる。これは、薬理特性の差だが、最初からその可能性も考慮して変薬すべきだと思う。

 

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 2198

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>