アメリカでは普通のコンビニでインデラルが販売されている。非選択型βブロッカー、インデラルは上がり症向けにも有用であるが、いつもキレて怒り出すような人にも有効とされている。
インデラルは、「攻撃性や暴力」に治療的な薬物であるが、用量的にかなりの量を使い、1~2ヶ月継続しないと効果が得られないといわれる。 なお、明確な脳器質性障害(事故などによる脳の損傷)にも有効である。
インデラルは日本では不整脈、高血圧、狭心症の薬だが、単に高血圧による脳卒中を予防するだけでなく、向精神作用を持ち合わせるため、精神にも好影響を与え、その結果、脳卒中のリスクを減じるであろう。インデラルの難点は、禁忌が結構あることである。
インデラルの禁忌
①本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
②気管支喘息、気管支痙攣のおそれのある患者(気管支を収縮し、喘息症状が誘発又は悪化するおそれがある)
③糖尿病性ケトアシドーシス、代謝性アシドーシスのある患者(アシドーシスによる心筋収縮力の抑制を増強するおそれがある)
④高度又は症状を呈する徐脈、房室ブロック(II、III度)、洞房ブロック、洞不全症候群のある患者(これらの症状が悪化するおそれがある)
⑤心原性ショックの患者(心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある)
⑥肺高血圧による右心不全のある患者(心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある)
⑦うっ血性心不全のある患者(心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある)
⑧低血圧症の患者(心機能を抑制し、症状が悪化するおそれがある)
⑨長期間絶食状態の患者(低血糖症状を起こしやすく、かつその症状をマスクし、発見を遅らせる危険性がある)
⑩重度の末梢循環障害のある患者(壊疽等)(症状が悪化するおそれがある)
⑪未治療の褐色細胞腫の患者
⑫異型狭心症の患者(症状が悪化するおそれがある)
⑬チオリダジンを投与中の患者(メレリルは現在発売中止されている)
⑭安息香酸リザトリプタン(マクサルト)を投与中の患者
実際、禁忌の欄にこれだけの項目数がある薬は稀である。この中では、本人が既に存在しているのに気付かないでいる疾患も含まれている。そのようなこともあり、日本ではコンビニでは購入できない。また自己判断で海外で購入し、服用するのはお勧めできない。
インデラルは、実際に上がり症の人に補助的に処方した場合、評判が良い。その理由は、効果を実感できる人が多いからである。また、緊張に伴う手指の振戦にも効果がある。それどころか、適応外ながら、本態性振戦ではファーストチョイスのように使われている薬である。
二次的な振戦、例えば、リーマスの副作用による振戦にもインデラルは有効であるが、リーマスとインデラルは相性が悪い印象。そのため、僕はリーマスによる薬剤性振戦にインデラルは使わないことが遥かに多い。
この印象の悪さだが、単に双極性障害のうつ状態の惹起だけではない。むしろインデラルで積極的にうつ状態にさせる作用は低いように見える。実際、同じβブロッカーのカルビスケンは、抗うつ剤の増強作用を持ち、抗うつ剤の効果の発現を早める(参考)。インデラルとカルビスケン及びナディックは、セロトニン1A受容体拮抗作用を持つと言われる。
印象の悪さは、身体に対する総合的な不安定ないし悪化要因のためで、リーマスを使いたくなるような人は、躁うつ混合状態を含め非定型な病態になりやすいことも関係している。非定型な病態は、このブログ的には悪性症候群と同等である。このような特殊な病態では自律神経系が虚脱し、思わぬ副作用が出現しやすい。また双極性障害には、実はニセモノが多く混入しており、一部むしろ広汎性発達障害と診断した方が良いような人もいることと無関係ではない。薬に脆弱な広汎性発達障害の人にインデラルと神経毒性の高いリーマスを併用した場合、突然死もありうる。
その他、インデラルは抗精神病薬によるアカシジアにも有効である。アカシジアに対し、インデラルとリボトリールはいずれも適応外ながら双璧の治療薬といえる(だいたい、適応外薬物が双璧と言うのが大問題と思う)。
ところが、インデラルは抗精神病薬のパーキンソニズムや急性ジストニアには効果がない。特に急性ジストニアはアキネトンの筋注が魔法のように効く。パーキンソン症状にもアキネトンなどの抗コリン薬が定番である。
インデラルは禁忌が多いが、精神疾患の人への重視すべき副作用は徐脈である。海外ではインデラルは時に800mgくらい処方されるようであるが、信じられない。日本人ではたった20mg程度服用しても心拍数が50以下になるなど、極めて忍容性の低い人も稀ではない。少量から試みて、忍容性を確かめておくほうが望ましい。
実感できる一風変わった副作用として「悪夢」が挙げられる。元々、悪夢は稀な副作用なのかもしれないが、精神科ではしばしば聞く。精神疾患の人に、向精神薬として使うと発現しやすい傾向があるのかもしれない。また、インデラルは脂溶性が高く、脳にも影響を及ぼすわりに、幻覚などの重篤な精神の副作用が稀である。僕は、そのようなヘビーな副作用が出た記憶がない。個人的に、インデラルには悪夢が生じるからこそ、奇妙な幻覚が生じにくいような気がしている。
インデラルの半減期は3~6時間と言われており、向精神薬とみなせばかなり短い方に入る。またカルビスケンも3~4時間と半減期が短い。有害作用を考慮しても、上がり症に使う薬としては理想に近い。ただし、本態性振戦やリーマスの振戦の治療には良くない性質といえる。長期に継続して使う場合、心臓の薬なので急激に中止せず漸減するべきである。(急に中止せざるを得ない徐脈などの副作用は別である。その時使っていた用量にもよるであろう)
インデラルはβブロッカーとしては原始的な薬物で、非選択性で脂溶性が高く、循環器系の薬として洗練されていない。脂溶性が高い性質により脳に移行しやすいのである。そういうこともあり、インデラルは循環器内科的にも精神科的にもダーティーな薬といえる。その結果、作用も幅広いし禁忌も多くなるのである。
カルビスケンもインデラルと同じく非選択型βブロッカーであるが、脂溶性はインデラルに比べ低いらしい。
高価な選択性の高いβブロッカーはどこか効果が不足している印象がある。選択性の高いβブロッカーが不良品に見えるのは、よりピュアな薬だからかもしれない。これと同じようなことはレクサプロにもいえる。レクサプロはセロトニンに対する選択性が高すぎて、単剤処方になりにくい面がある。(レクサプロは不安には効果が高い。たぶん向精神薬にはある程度の奥行きがある方が望ましいのである)
一般に、社会恐怖は単に不安だけでなく、赤面や振戦、血圧上昇など身体にもかなりの影響を及ぼす疾患なので、インデラルは面倒見の良い薬といえる。偶然だが、半減期が短いことも含め、インデラルは便利な薬にもなっている。
もうかなり前だが、若い精神科医が安易にβブロッカーを適応外処方することに対し、警告ないし警鐘が鳴らされ、注意喚起されていたが、インデラルがこのような特性を持つためである。
精神科では適応外ながら有用であるが、注意も十分必要な薬といえる。
参考
悪性症候群の謎
アキスカルの言う薬物性躁転は本当に双極性障害なのか?
アムロジン
カタプレスのテーマ
循環器内科
小此木家のチャーリー君3歳
なお今回、インデラルのテーマを新規に作ったため、ドラールのテーマを廃止し記事は向精神薬のテーマに移動しています。ドラールは1つしかエントリがなく、最初の記事も2006年8月だったため。
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インデラルと社会恐怖の話
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